有識者からのコメント

2019年9月公表時点の情報に基づきいただいたコメントです

黒田 かをり氏

一般財団法人CSOネットワーク
事務局長・理事(2019年9月30日まで)

黒田 かをり

東レグループは、2018年7月、世界共通のテーマである持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定などを踏まえて、「2050年の目指す世界」を公表、そこを起点とするバックキャスティング思考で、革新技術・先端材料を通じた4つの取り組みを進めているのが特徴的です。

さらに、2030年度を達成年として、数値目標等を掲げた”東レグループサステナビリティ・ビジョン“を策定しました。2017年にスタートした中期経営課題“プロジェクトAP-G2019”とCSRガイドラインに沿って策定された第6次CSRロードマップに、このサステナビリティ・ビジョンを連動させながら、活動を推進しています。

本レポートは、昨年同様、CSRガイドラインの10項目に沿って、CSRロードマップの進捗状況を示しています。その中で特に注目した以下の2点についてコメントを致します。

事業を通じた社会的課題解決への貢献

中期経営課題プロジェクトの成長分野の要である「グリーンイノベーション事業拡大(GR)プロジェクト」と「ライフイノベーション事業拡大(LI)プロジェクト」それぞれの実績が堅調な伸びを示しています。GRにおいて、東レグループ製品使用によるCO2削減貢献量も確実に増加しています。また、気候変動対策における温室効果ガス(GHG)排出量については、2020年度まで1990年度比15% 削減という目標を継続達成しています。世界では、今世紀後半に温室効果ガスの排出量ゼロをうたったパリ協定以降、温暖化対策が加速化しています。東レグループにはこの分野でも更なる取り組み推進を期待します。

サプライチェーン

サプライチェーンにおいて、人権尊重をはじめ、CSR推進の重要性はますます高まっています。東レグループがCSR調達要請を行ったお取引先会社の延べ数は、2018年度は2017年度3,170社から5,294社に上っています。またサプライチェーンへのCSR調達要請を実施したグループ会社数は150社になり、目標を達成しています。実態調査が必要な取引先に対しては、訪問・面談などの実地調査を行い、改善を計るということですが、今後はステークホルダーなどの協力も得て、影響評価や継続的なモニタリングなどにこれまで以上に注力いただくことを期待します。

黒田 かをり 略歴(2019年9月30日現在)

一般財団法人CSOネットワーク事務局長・理事。
民間企業に勤務後、コロンビア大学経営大学院日本経済経営研究所、アジア財団日本の勤務を経て、2004年より現職。日本のNGO代表としてISO26000(社会的責任)の策定に参加(2007-2011)。SDGs推進円卓会議構成員、SDGs市民社会ネットワーク前代表理事(2019.7より顧問)、国際開発学会理事等を務める。ハーバード大学教育大学院修士。

下田屋 毅 氏

一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(アスク)
代表理事

下田屋 毅

東レグループは、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に則り、人権方針を2017年12月に制定しています。人権尊重を行う上で、世界人権宣言にある「本来人々は生まれながらにして平等で自由に生き幸福を追求する権利を持っている」など世界共通の「人権」の考えを従業員ひとりひとりが理解し、その上で企業活動を行うことは重要であり、定めた人権方針をグループ全体に周知していく教育が必要となります。現在、第6次CSRロードマップに定めるKPIとして「人権教育・研修の実施状況」が設定されていますが、その対象範囲は日本国内の東レグループとなっており、今後はさらに海外のグループ会社へ東レグループの考える人権の考え方を浸透させる教育の実施状況も含めたKPIとしてフォローしていくことが次に必要だと思います。
国際的には、国家と企業が人権への取り組みを行う上で指導原則を中心として進めている状況があります。欧州を中心に国別行動計画が発行され、企業活動による実際・潜在的な人権侵害のリスクを防止または軽減するため「人権デューディリジェンス」の実施やそのプロセスの報告を義務付ける法律が、英国現代奴隷法を始めとして国別に発行されており実行は待ったなしの状況です。また国内では「外国人技能実習生」が、海外から現代奴隷制と問題視され、サプライチェーンを含めて確認が必要な状況があります。その上で指導原則では、ステークホルダーやサプライチェーン上の企業活動によって直接・間接的に影響を受ける人々を含めて実効性のある苦情処理メカニズムをもつことが求められています。
東レグループは、人権を推進する国内外の体制が整備され、ヘルプラインなどグループ内での人権侵害の通報に対応できるようになっていますが、このような国際的な背景から、東レグループとして、指導原則に基づいて人権デューディリジェンス、苦情処理メカニズムの構築など次のステップへと進むことが求められています。

下田屋 毅 略歴

重工業会社にて、人事・総務・労働安全衛生等を担当。労働安全衛生主担当として、「安全衛生管理要綱」作成、「安全内部監査制度」を企画・導入。環境ビジネス新規事業会社立上げに参画後、2007年7月 渡英。英国イースト・アングリア大学環境科学修士、英国ランカスター大学MBA修了。2013年より国連ビジネスと人権フォーラムへ参加。英国現代奴隷法の対応やサプライチェーンの課題解決を行うための企業への取り組みを促進している。

水口 剛 氏

高崎経済大学
経済学部教授

水口 剛

真のソリューションに期待します

長年にわたり、独自技術で新たな分野を切り開いてこられたことに敬意を表します。また、サステナビリティ・ビジョンに示された「素材には社会を変える力がある」という言葉に共感します。その力が今ほど強く求められる時期は、他にありません。社会が直面する課題がかつてないほどに深刻化しているからです。
衣服も住居も輸送機器も素材なしにはできません。そして素材の生産には必ずエネルギーがかかります。一方でIPCCが2018年に公表した『1.5℃特別報告書』によれば、世界の平均気温はすでに1℃上昇しています。今や毎年のように豪雨や水害の被害が出るようになりました。1℃の上昇でこれですから、何としても1.5℃までに抑えたい。そのためには2050年前後に温室効果ガスの排出を実質ゼロにしなければなりません。その要請に応え得る素材とはどのようなものでしょうか。
他方で海洋プラスチックが生態系の観点からも課題になっています。バイオプラスチックや生分解性プラスチックが解になりそうですが、植物原料の生産が森林破壊につながれば、それも温暖化を加速してしまいます。しかも気候変動の影響で地球規模での水循環が変わり、水不足が農業生産に影響する可能性もあります。このように素材生産、エネルギー、植物原料、森林保護、水循環などが複雑に絡み合った連立方程式をどう解くのか、まさに「素材の力」が問われると言ってよいでしょう。
この点、御社はCSRガイドラインで「新しい価値の創造」を掲げ、ロードマップでグリーンイノベーション製品の売上高9,000億円という目標を示されています。2018年度の連結売上高が約2兆3,800億円ですから、たいへん野心的な目標だと思います。すでに多くの実績も出ています。それらが上述のような複雑な課題を総合的に解決する社会システムにまで至るような真のソリューションに育つことを期待しています。

水口 剛 略歴

1984年筑波大学卒業。博士(経営学 : 明治大学)。商社、監査法人等の勤務を経て、97年高崎経済大学経済学部講師。08年より現職。専門は責任投資、非財務情報開示。環境省・グリーンボンドに関する検討会座長、ESG金融懇談会委員等を歴任。主な著書に『ESG投資-新しい資本主義のかたち』(日本経済新聞出版社)、『責任ある投資-資金の流れで未来を変える』(岩波書店)、『サステナブルファイナンスの時代-ESG/SDGsと債券市場』(編著、きんざい)など。