有識者からのコメント

2024年9月公表時点の情報に基づきいただいたコメントです

岸本 幸子氏

公益財団法人パブリックリソース財団
代表理事・専務理事

岸本 幸子

略歴
東京大学教養学部卒。商社、シンクタンク勤務、留学を経て、2000年パブリックリソースセンター(現財団の前身)、2013年現財団を設立。同年より現職。日本の寄付文化の推進を目指し、個人や企業等からの寄付をソーシャルセクターにつなぐ仕組みづくりに取り組んでいる。企業のCSR活動の支援、インパクト評価にも携わる。編著書に「寄付を科学する」「社会課題解決のための金融手法と実務: 寄付・助成から革新的フィランソロピーへ」他。

「東レグループCSRレポート2024」における「事業を通じた社会的課題解決への貢献」「良き企業市民としての社会貢献活動」「人権推進と人材育成」「持続可能なサプライチェーンの構築」に関し、コメントを述べさせていただきます。

「事業を通じた社会的課題解決への貢献」について、2023年3月に発表した中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”で、多様化するサステナビリティへの要請に対応すべく、これまで推進してきたグリーンイノベーション(GR)・ライフイノベーション(LI)事業をサステナビリティイノベーション(SI)事業に統合し、具体的なKPIを設定して取り組んでいることは高く評価されます。SI事業の売上収益目標値、バリューチェーンへのCO2削減貢献量、水処理貢献量などが、2025年に向けて目標を上回る進捗をみせるよう、強く期待します。

「良き企業市民としての社会貢献活動」について、社会貢献活動の実施件数や教育支援活動の受益者数が毎年着実に伸びています。また令和6年能登半島地震の際の迅速な被災地支援や、知多半島臨海部の企業緑地群における生態系保全のプロジェクトを環境省の「自然共生サイト」に登録したことは、社会の要請に応える取り組みといえます。地球環境問題が深刻化するなかで、社員が講師として参画する環境教育や理科教育の重要性は高まっています。社員一人ひとりの自主性を尊重しつつ、受講生の意識を一層高める取り組みになることを期待します。

「人権推進と人材育成」について、いちはやく人権方針を策定し、人材の確保と育成においても明確な方針を定め、取り組んでいます。人権に関する通報・相談件数を公開している点、社員の一人当たりの教育投資額が増加している点も評価できます。法定障がい者雇用率について、東レグループ全体での達成に改善の余地があります。また女性の積極的な登用も課題です。将来の女性管理・専門職への登用促進とともに、時間外労働の一層の削減や、リモートワークの柔軟な活用、ストレスチェック、離職防止など、誰もが働きやすい環境づくりに引き続き積極的に取り組むことを期待します。

「持続可能なサプライチェーンの構築」について、同社のグローバルなサプライチェーンに鑑み、サプライヤーとともにCSRに取り組みことは非常に重要です。引き続きサプライチェーンデューデリジェンスの実施率を高めること、そのために人権・労働、安全・衛生、環境保全の面でリスクが高いことが想定される国・地域や業種に該当するサプライヤーを選定し、調査を行う取り組みを迅速に進めることを期待します。

馬奈木 俊介 氏

九州大学
主幹教授
都市研究センター長・総長補佐

馬奈木 俊介

略歴
九州大学工学研究院教授、経済産業研究所ファカルティフェロー、農林水産政策研究所客員研究員を兼任。第16回日本学術振興会賞受賞。第25期、第26期日本学術会議会員。世界最高峰の研究者として2023年版クラリベイト高被引用論文著者に選出。国連「新国富報告書」代表、国連・SDGs中間報告2023評議員、国連・持続可能性のための新しい資本円卓会議委員、経産省産業構造審議会臨時委員、環境省中央環境審議会臨時委員を歴任。

環境に配慮しながら製品の高付加価値化を追求する東レグループに対して期待しているのが、サプライチェーンを通じた取り組みです。例えば、カーボンニュートラルに向けた取り組みに関して、東レグループは、自社のカーボンニュートラル化を目指すとともに、製品のライフサイクル全体でのCO2排出量削減と、サプライチェーン全体のCO2排出量削減に貢献し、社会のカーボンニュートラル実現を目指しています。東レグループは、2024年1月にTNFD提言に賛同していますが、ネイチャーポジティブに向けても同様に取り組むことを期待しています。

その推進の仕組みが、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」の実現に貢献する事業・製品群であるサステナビリティイノベーション事業であると思います。サステナビリティイノベーション事業の売上収益は、2023年度に既に1兆3,000億円を超えるほど、優れた成績を収めています。なぜ事業拡大が可能かというと、2013年度比において、バリューチェーンへのCO2削減貢献量が10.3倍、そして、水処理貢献量が2.7倍になるなど社会の資源効率性を上げているからだと思います。今後も、多様な環境・社会的側面に対して、事業拡大を通じてサステナブルなバリューチェーンを構築することを期待します。

国際的な課題解決だけでなく、国内の課題解決への新たな期待もあります。例えば、フィジカルインターネットの実現に向けた取り組みに対しても期待しています。運送労働力の逼迫した状況に、いわゆる「物流の2024年問題」も加わり、物流の輸送力不足は化学業界にとってもサステナブルな物流を実現する上で深刻な課題になっています。同社は、本課題の解決に向けて経済産業省・国土交通省が主導する「フィジカルインターネット実現会議」内に、事務局の1社として「化学品ワーキンググループ」を2023年7月に設置しています。現在の輸送力不足の状況が続けば、特に輸送の不便な地域が如実に大きな悪影響を受けることが予想できます。どの程度までの解決を見通せるのか、国内ステークホルダーへの対応として、可能な条件を明示して、現実的な解決に向かってほしいと思います。

東レグループのサステナビリティに関するトップコミットメントには、「持続的かつ健全な成長」を目指して、カーボンニュートラルの世界、資源が持続可能な形で管理される世界、自然環境が回復した世界、すべての人が健康で衛生的な生活を送る世界というまさに東レグループが目指す4つの世界の実現への決意が記されています。中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”には網羅的に東レグループの持続的な発展と社会全体の持続的発展への貢献の姿が描かれています。そこでは、ものづくり、人づくり、そして自然づくりへの明確な姿勢が見えます。国際的な課題解決、そして国内独自の課題解決、それぞれへの貢献に引き続き期待しています。