有識者からのコメント
2026年8月公表時点の情報に基づきいただいたコメントです。

一般社団法人サステナビリティ経営研究所
代表理事
冨田 秀実氏
略歴
東京大学工学部物理工学科卒、プリンストン大学工学部化学工学修士修了。
ソニー(株)に入社後、中央研究所、ソニー欧州環境センター、本社環境戦略室長、CSR部統括部長を歴任。その後、LRQAサステナビリティ(株)代表取締役。現在、ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)共同代表、情報処理推進機構(IPA)シニアエキスパートを兼任。経産省、東京都等の委員等を務める。
本サステナビリティ報告書には、「東レ・サステナビリティ原則」ごとに方針、取り組み、KPIやその達成度などが詳細に記述されており、具体的な取り組みや成果を体系的に理解することができるものとなっています。全般的な成果は非常に順調に推移しており、例えば再生可能エネルギーの導入は顕著な進捗が見られます。一方で気になるのが、安全や環境事故に関する実績が十分とは言えないこと、社内意見交換の面談実施が停滞しているように見えることです。事故対策や面談などの取り組みはともするとマンネリ化し、形式的な対応に陥りやすい分野と思われますが、状況を改善するためにも新たな視点での是正、改善策の検討に期待します。
現在、サステナビリティ情報開示は、欧州CSRDやISSB基準(日本ではSSBJ基準)の導入により新たな時代を迎えつつあります。この流れの中では、特にサステナビリティと事業との関連性がより重要な要素として認識されていきます。東レは日本を代表する化学業界の企業ですが、機能性素材などを含め、そのビジネスは多様な広がりを持っており、事業によってサステナビリティのリスク・機会は異なっている場合もあると考えられます。例えば、リスク側面では、人権デューディリジェンス、Scope3排出、LEAP分析等で事業ごとの特徴やそれらの課題に対する対応が明確になると、より説得力の高い情報開示になると考えられます。また、機会側面では、すでに財務的な成果も拡大しつつあります。これまで想定していなかった分野に対しても東レの持つ技術から新たな事業機会を継続的に開拓できるようなインキュベーションの仕組みを確立することが期待されます。

公益財団法人いきいき埼玉
理事長
永沢 映氏
略歴
NPO法人コミュニティビジネスサポートセンター前代表理事、立教大学講師。経済産業省ソーシャルビジネス研究会委員、内閣府共助社会づくり懇談会委員等では「企業・事業者の社会性評価」の作成に関わり、国土交通省・国土審議会政策部会委員、文部科学省・教育再生実行会議分科会委員など幅広い公職を歴任。さいたま市SDGs企業認証制度を全国初、東京都北区SDGs推進企業認証制度を都内初の認証制度として立ち上げ、制度開始当初より両制度の委員長を務める。
日本、世界における企業の目指す「社会性」は大きく変化しています。
かつては「企業が文化・芸術活動を支援し、直接的な見返りを求めず社会に還元する活動」としてメセナ活動が広がり、のちに「企業の社会的責任。企業は利益追求だけではなく社会や環境に配慮しながら責任ある行動を行うこと」としてのCSR活動が進みました。いずれも企業利益の一部を社会貢献に還元する傾向が強くありました。
現代の企業における社会性の評価、SDGsの審査・評価に数多く関わる中、主な評価項目である「コンプライアンス」「ガバナンス」「労務・働き方」「企業取引」「環境」「社会貢献」の中で、多くの企業が苦慮し、十分に果たせていないのが「社会貢献」の項目です。
この「社会貢献」とは、現代ではメセナ活動やCSR活動での視点とは異なり、「企業の本業の価値向上による社会貢献、社会課題解決」が原則となっております。すなわち、企業が真に社会貢献するには、利益を向上させて従業員、顧客、取引先、社会を豊かにし、企業価値を向上させることにあります。海外ではCSR調達という言葉があるように、社会性を含むCSRを体現した企業からの購入、取引が優先されます。
東レグループは1926年の創業より100年にわたり、「企業は社会の公器であり、その事業を通じて社会に貢献する」ことを経営思想として掲げてきました。この経営思想を100年以上も継続し、具現化し続けてきたことこそが未来志向の経営を体現しているといえます。特筆すべきは、事業を通じたサステナビリティの重点領域を4つに整理し、目標および指標を明確に示していることです。
また今後10年を見据えた「長期経営方針 “TORAY Challenges 2035”」で企業としての「ありたい姿」の方向性を具体的に示し、2050年に向けて東レグループが掲げる 「TORAY VISION 2050」では、環境・社会・人が調和し、包摂的な世界に向かっている中で、その社会づくりに向けたビジョンを企業として先駆的に掲げていることは、大変評価すべき経営姿勢です。
今後はさらに事業を通じた社会貢献を強化し、「環境」や「人」を重要な資本として位置づけ、売上の向上と企業価値の向上を実現していくリーディングカンパニーであり続けることを期待しております。
九州大学
主幹教授
都市研究センター長
馬奈木 俊介氏
略歴
国連「新国富報告書」代表、国連・SDGs報告評議員、国連「持続可能性のための新しい資本円卓会議」委員、国際道路連盟(IRF)運営委員、経産省産業構造審議会臨時委員、環境省中央環境審議会臨時委員、第25期、第26期日本学術会議会員。日本学術会議「サステナブル投資による産業界のインパクト」代表などを歴任。世界最高峰の研究者としてクラリベイト高被引用論文著者に選出。
東レグループが新たな「長期経営方針 “TORAY Challenges 2035”」と「中期経営課題 “IGNITION 2028”」を策定し、サステナビリティをカーボンニュートラル(CN)、サーキュラーエコノミー(CE)、ネイチャーポジティブ(NP)、ウェル&コンフォートライフ(WL)※1の4つの戦略領域へと体系的に再編した点は、経営の本質的な転換を示すものとして評価します。
仮に各国が現行の削減計画を完遂したとしても今後半世紀にわたり気温上昇が続くと科学的に予測される状況において、2025年度にGHG排出量売上収益原単位の44.8%削減、太陽光発電設備能力の344%増を達成した実績は、サステナビリティを経営の推進力として実装してきた成果の現れといえます。ただし、評価の軸を単年度の数値や達成率から、次世代へ受け継ぐべき資本ストックの視点へと昇華させることが、今まさに求められています。国連主導で国際的な標準化が進む「持続可能な新経済指標(Beyond GDP)」が示す通り、環境対応の本質は売上や削減量というフローを超え、自然資本・人的資本というストックを社会全体でいかに維持・拡充するかという問いにあります。東レの技術が地球の自然資本というストックをどれだけ拡充・回復させたかを物量と金額の両面から可視化する、より多面的な評価インフラの構築を期待します。
今回のレポートを通じて特に注目すべき課題として「サプライチェーンのリスクマップの非対称性」を指摘します。公表されたリスクマップでは、同社の技術的強みである「温室効果ガス削減」や「水資源」の影響度が他の課題と比較して相対的に過小評価されています。真の持続可能性の実現には、調達段階から同社の環境基準をサプライヤーへ実効的に展開・要件化する「高インテグリティな調達基準」の確立が不可欠です。国内のバリューチェーン強靭化においては、化学品ワーキンググループの実証実験でトラック積載率20ポイント改善・CO2排出量28%削減という顕著な成果を実証し、自動運転トラックの商用運行実用化へ踏み出した点は特筆に値します。このインフラ変革の機動力を物流効率化にとどめず、化学物質規制への適合や人権尊重、地域社会における環境負荷低減を統合した、持続可能なサプライチェーンの構築へとつなぐことが次の使命です。
卓越した技術基盤と事業規模を、地球と社会の資本ストックを豊かにする価値創出へと結実させる、先進的なリーダーシップを今後も期待します。