東レ先端材料シンポジウム2016

先端材料が拓く 地球の未来

Part5

先進医薬、先制医療における先端材料

 Part5は、健康長寿への取り組みについて、ご紹介します。ここでの着眼点は先進医薬、先制医療ですが、当社の取り組みには2つのカテゴリーがあります。一つ目は、当社のさまざまな事業分野の先端材料を、医薬品・医療機器用資材、先進診断装置用部材などの分野への展開を加速することです。二つ目は、医薬・医療事業の拡大で、そのキーワードは、先進医薬、先制医療です。当社は、医薬、医療材・機器、バイオツールの3つのアイテムを有し、これらのシナジーをフルに活かした研究・技術開発を推進しています。たとえば、レミッチ®は痛み止めの鎮痛薬としてはうまく行かず、中断していたものが、透析患者が「かゆみ」を訴える、という情報をもとに、掻痒症治療薬として花開いたものです。当社は医薬事業だけを取ると規模は小さいですが、このシナジーを極大化し、コア技術も加えて、当社ならではの医薬・医療事業をさらに強化していきます。その中から、バイオツールである研究用DNAチップの技術開発例をご紹介します。

DNAチップ

 これは血液検査でがん患者の血液中マイクロRNA量を測定するDNAチップで、2000年に、光ディスクの研究者が研究を始めました。これは小さな樹脂の板に柱状の構造を作るなど、左下の独自技術をベースに感度の極限を追求し、2005年に、従来のDNAチップの100倍の高感度を達成しました。その後、2007年にマイクロRNA、これはRNAの切れ端で、臓器別・がん種別に目印を持ち、これが血液中に放出されていることが発見されました。しかしその濃度はきわめて低濃度です。ここで当社DNAチップの100倍高感度の価値が発揮され、血液中のマイクロRNAを検知できるのは、当社のDNAチップだけ、というオンリーワン技術となっています。そして、NEDO、AMEDのご支援も得て、国立がん研究センターなど、有力機関と国家プロジェクトを開始しました。

 その研究の中で、当社DNAチップを用いた乳がんの分析を非常に高精度に行えるという結果を得ています。乳がんに続き、今後13種類のがんと認知症を対象に、検証を加速しています。

 ここまで述べましたように、先端材料の創出は、時流迎合ではなく、時代の要請を踏まえた新技術開発と、ビジネスモデルがキーワードと考えています。そして日本流イノベーションとグローバル開発で、世界に向けて先端材料を発信していきます。「材料の革新なくしては、本質的なソリューション、魅力ある新製品は生まれてこない」と確信していますので、今後とも皆様のご支援をよろしくお願い申し上げます。

DNAチップによる早期診断技術開発
-血中マイクロRNAの分析-
DNAチップによる早期診断技術開発
-血中マイクロRNAの分析-
技術革新による先端材料の持続的創出