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カーボンナノチューブ分散高性能薄膜トランジスタを開発 ― 半導体ポリマーとの複合化により、塗布型CNT-TFTで世界最高レベルの性能を実現 ―

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2012.08.16

東レ株式会社

東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、このたび、独自に開発した半導体ポリマーと単層カーボンナノチューブ(Carbon Nano-Tube :以下「CNT」)を複合化することにより、移動度1)2.5cm2/Vs、オンオフ比2)106と、世界最高レベルの性能を示す塗布型CNT薄膜トランジスタ(CNT-Thin Film Transistor :以下「CNT-TFT」)の開発に成功しました。現在、ディスプレイ用トランジスタとしての実証研究を進めており、材料開発と併せて実用化に向けた取り組みを加速してまいります。

 優れた電気的・機械的特性を持つCNTは、すでにタッチパネルの透明電極などで実用化が始まりつつあり、TFTとしてもフレキシブルデバイス等への応用が期待され、開発が進められています。単層CNTをTFTに応用するためには、電極間に単層CNTの均一な分散薄膜を形成する必要がありますが、単層CNTは互いに集まりやすい性質をもっているため、均一に分散したCNT薄膜を作製するのが難しく、またCNT間に残存する電気絶縁性の分散剤が電気の流れを遮ってしまい、十分なTFT特性が得られないという課題がありました。

 この課題に対して東レは今回、新しい分子設計で開発した半導体ポリマーと単層CNTとを複合化することで、導電性を阻害することなく単層CNTの分散性を高めることに成功しました。本材料を用いて塗布法で作製したTFTは、高い移動度を維持したまま、従来比1桁(10倍)以上高いオンオフ比106を示しました。さらに、独自のゲート絶縁膜を適用することにより、CNT-TFTのもう一つの課題であるしきい値電圧3)を0V近傍まで低減しました。

 さらに東レは、韓国慶煕大学(所在:大韓民国ソウル特別市、学長:趙仁源、以下KHU)のJin Jang教授、東レ・韓国研究拠点(Advanced Materials Research Center、以下AMRC)と共同で、東レが開発した材料を用いたデバイス構造・プロセスの最適化、ディスプレイの製作を行っています。今回、単層CNTの製膜プロセスを最適化することにより、移動度2.5cm2/Vs、オンオフ比106と、塗布型CNT-TFTでは世界最高レベルを達成しました。今後は、東レの強みである材料開発と共同研究による実用化向けた開発を一層強化し、電子ペーパー等ディスプレイ用途での採用を目指してまいります。

 東レは、今後もコアテクノロジーである高分子化学とナノテクノロジーの融合によって、コーポレートスローガンである”Innovation by Chemistry”を具現化する先端材料の開発を推進していく所存です。

今回開発に成功した塗布型CNT-TFTの技術詳細は以下の通りです。

1.半導体ポリマーと単層CNTの複合化による分散性向上
 単層CNTをTFTに適用する場合、CNT薄膜を電極間に均一に分散させて形成する必要があります。単層CNT同士は非常に集まりやすい性質をもっているため、一般には強力な電気絶縁性分散剤を用いて単層CNTの分散を行っています。しかしながら、単層CNT間に残存する電気絶縁性分散剤が電気の流れを遮ってしまい、十分なTFT特性が得られないという課題がありました。これに対し東レは、単層CNTの表面に導電性を阻害しないような半導体ポリマー(ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT))を付着させることにより単層CNTの凝集を抑制できることを見出すなど、世界に先駆けて研究を進め、既に単層CNTの均一分散技術の基本特許を出願しています。

 東レが今回開発した半導体ポリマーは、直径が1ナノメートル程度(1ナノメートル=10億分の1メートル)の単層CNTを包み込むのに適した分子構造を新しく設計し合成したものであり、従来のP3HTに比べ単層CNTへの付着性が向上しています。このため、インクジェットなどの塗布方法で均一な単層CNT分散薄膜を形成できるようになり、高いTFT特性が可能となりました。

2.ゲート絶縁材料の開発
 ゲート絶縁膜は、TFTのオンオフを制御するゲート電極と電気を流すCNT薄膜を絶縁するために形成される重要な構成要素です。東レは、強みである高分子化学を駆使し、CNT-TFTに適合するゲート絶縁材料を開発しました。表面上に形成されるCNT薄膜の分散状態を最適化するような分子構造設計と、CNT-TFTの課題であるしきい値電圧を低減できるような組成設計を組み込むことにより、高い移動度とともに、0V近傍の低いしきい値電圧を実現しました。

なお、本研究の成果は、9月11日~14日に愛媛大学で開催される秋季応用物理学会で発表する予定です。

【技術用語について】
1)移動度:半導体中の正孔・電子などのキャリアの動きやすさの指標。移動度が大きいと高速応答が可能になり、またTFTサイズを小さくできるため微細化にも有利。
2)オンオフ比:TFT出力電流の最大値と最小値の割合。ディスプレイ用TFTの場合、オンオフ比が大きいほど明暗がつけやすい。
3)しきい値電圧:TFTがオフからオンに変化する電圧。しきい値電圧が小さいほど、低電圧での動作が可能になる。

以上