スマートウェアによる長期心電図測定で心房細動検出率を向上

facebookでシェアする twitterでシェアする Linkedinでシェアする

2023.03.31

東レ株式会社
国立大学法人筑波大学


 東レ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:日覺 昭廣、以下「東レ」)と国立大学法人筑波大学(所在:茨城県つくば市、学長:永田 恭介) 医学医療系 町野毅講師らの研究グループ(以下、「筑波大学」)は、カテーテルアブレーション治療後※1)の心房細動の再発を検出するための診断ツールとして、繊維技術を使用したドライ電極を備えた医療用スマートウェア(着衣型心電計)による2週間の心電図測定の臨床的な有用性を検証しました。※2)

 心房細動は全死亡や心血管死、脳梗塞の主要なリスク因子であり、高齢化の進行に伴い、国内患者数は100万人を超え、顕著に増加しています。このような心房細動の治療法として、アブレーション治療が広く普及しています。しかし、治療後にも心房細動は再発することがあり、その約半数は自覚症状を伴わず、心電図で記録されないと診断することができません。このような心房細動を漏れなく心電図で検出することは、再アブレーション治療、抗凝固薬、抗血小板薬等の投与を含む治療方針を決定する上での重要な課題となっています。その為には、14日間ほど連続して心電図検査をすると高い検出率を確保できると期待されますが、従来の連続心電図検査では、皮膚への電極の貼り付けは導電性クリームやゲルを介していた為、数日間使用するとカブレなどの皮膚トラブルが発生することがあり、平均連続検査時間は7日間程度が限度でした。※3)、※4)

 そこで本研究では、ゲル等を用いない最大2週間の皮膚に優しい連続心電図検査を可能にする導電性繊維によるドライ電極を備えたスマートウェアについて、臨床的な有用性を特定臨床研究にて検証しました。
 具体的には、初回のアブレーション治療を受けた67人の被験者を対象として心房細動の検出率を比較したところ、標準的な24時間ホルタ心電図検査では4人の心房細動の再発を認めたのに対して、このスマートウェアによる2週間の心電図検査では、12人の心房細動の再発が認められました。すなわち、平均連続検査時間として14日間を達成しつつ、電極を皮膚に貼り付ける必要のないウェアラブルなドライ繊維電極を用いた長時間の心電図検査により、従来のホルタ心電図に比較して、統計的有意差(p=0.008)をもって、3倍高く心房細動の再発を検出できる、という臨床有用性を実証しました。
 スマートウェアは着脱が簡単で、被験者はモニタリング期間中に自分の都合に合わせて入浴することができ、着用感についても被験者の約8割が、ホルタ心電図より優れているとの回答が得られました。これまで見逃されていた発作性心房細動の検出も可能となり、このようなデバイスは、原因が特定されていない脳梗塞である塞栓源不明脳塞栓症※5)の診断などにも展開できると期待されます。

 本研究の成果は、2023年2月24日付「PLOS ONE」でオンライン公開されました。※6)


 
※1) 治療用のカテーテルを太ももの付け根から血管を通じて心臓に挿入し、カテーテル先端から高周波電流を流して焼灼(焼いて治療すること)することで心房細動を治療します。
※2) 本研究は、東レと筑波大学の共同研究に基づいて実施され、本研究に用いたスマートウェア(hitoe®ウェアラブル心電図測定システム:製造販売業者 東レ・メディカル株式会社)は東レが提供しました。
※3) Turakhia MP, Hoang DD, Zimetbaum P, Miller JD, Froelicher VF, Kumar UN, et al. Diagnostic utility of a novel leadless arrhythmia monitoring device. Am J Cardiol. 2013; 112: 520–524. https://doi.org/10.
1016/j.amjcard.2013.04.017 PMID: 23672988
※4) Eisenberg EE, Carlson SK, Doshi RN, Shinbane JS, Chang PM, Saxon LA. Chronic ambulatory monitoring:results of a large single-center experience. J Innov Card Rhythm Manag. 2014; 5: 1818–1823.
※5) 脳梗塞の原因は、梗塞の原因となる血栓の発症部位により、心原性脳梗塞と非心原性脳梗塞に分類されますが、原因疾患が不明の脳梗塞は、塞栓源不明脳塞栓症(ESUS)と呼ばれ、脳梗塞全体の15~20%とされています。
※6) https://doi.org/10.1371/journal.pone.0281818