東レ株式会社
このたび、公益社団法人 発明協会が主催する令和4年度の全国発明表彰が決定し、東レ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:日覺 昭廣、以下「東レ」)の『抗血栓性透析モジュールの発明』(特許第6003641号、発明者:上野良之、藤田雅規、菅谷博之、橋本和幸、寺坂広行、小金丸亮)が「特許庁長官賞」を受賞しました。
今回の受賞は、腎不全患者の透析治療に使用される透析モジュールの発明に関するもので、透析モジュールの抗血栓性が低いと、血液凝固が発生し、治療後にモジュール内に血液が残る現象(残血)や中空糸膜の目詰まりなどに繋がるため、①血液滞留部の抑制、②中空糸膜の内表面の平滑化、③中空糸膜への血液成分の非付着が全て必要であることを見出し、これらを満たす抗血栓性透析モジュールの実用化に至ったことが評価されたものです。
本技術は、慢性腎不全および急性腎不全患者の生活の質(QOL)の向上や医療スタッフへの負荷軽減に貢献します。
表彰式は、常陸宮殿下の御臨席の下、6月30日(木)に執り行われ、6名の発明者に「特許庁長官賞」が授与されました。

受賞者
左から、藤田、上野、菅谷、小金丸、橋本、寺坂氏
東レは、本技術を活用した高付加価値医療材料の開発推進により、企業理念である「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」を具現化し、社会貢献とともに持続的な成長拡大を目指してまいります。
なお、今回の受賞内容は下記の通りです。
記
1. |
受賞テーマ |
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「抗血栓性透析モジュールの発明」 |
2. |
対象特許 |
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第6003641号 |
3. |
受賞者 |
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令和4年度全国発明表彰「特許庁長官賞」受賞 |
東レ株式会社 先端材料研究所 医療システム研究室 研究主幹 |
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上野 良之 |
東レ株式会社 先端材料研究所 医療システム研究室 主任研究員 |
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藤田 雅規 |
東レ株式会社 理事 先端材料研究所長 |
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菅谷 博之 |
東レ・プレシジョン株式会社 トレフィーダ事業開発部 主席部員 |
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橋本 和幸 |
東レ株式会社 HBCグローバル室(瀬田) 主席部員 |
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寺坂 広行 |
テクノサーチ株式会社 調査部 主席部員 |
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小金丸 亮 |
4. |
受賞技術の特徴 |
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透析モジュールとは、腎不全患者の血液を体外に循環させ、血液中の老廃物を除去する透析療法用の医療機器で、中空糸膜束がケースに約1万本内蔵されたモジュールです。現在、中空糸膜の主流であるポリスルホン系素材は、親水性のポリビニルピロリドン(PVP)をブレンドすることで抗血栓性を付与していますが、さらなる機能性向上が望まれていました。
東レは、ポリマーと相互作用する水(吸着水)の運動性に着目した独自仮説のもと計算化学も活用し、ポリマー設計を進めました。その結果、PVPより血小板の付着を大幅に抑制できる新規抗血栓性ポリマー(NVポリマー)を見出し、中空糸膜へナノメートル厚みで平滑に表面改質できる技術を創出しました。さらに、中空糸膜束をケースに均一に配置させることで血液滞留部を抑制することにより、慢性腎不全用および急性腎不全用の透析モジュールの開発・工業化に成功しました。NVポリマーを適用した透析モジュールは、従来品に比べ、血液流れが良いうえに、タンパク質や血小板などの血液成分の付着を抑制し、膜の目詰まりも少ないという特徴を有しています。 |
5. |
実用状況 |
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受賞技術をはじめて適用した「トレライト®NV」を2011年に販売開始して以来、「トレライト®HDF」、「トレスルホン®NV」、「ヘモフィール®SNV」にも展開し、これまでに累計約1億本が使用されています。これらの製品は、抗血栓性向上による患者QOLの向上や医療スタッフの負荷軽減に貢献し、臨床でも従来品に比べ、残血の抑制や、膜寿命の延長などが報告されており、高い評価を得ています。 |
<ご参考>
■全国発明表彰について
皇室から毎年御下賜金を拝受し、公益社団法人 発明協会の主催により優れた発明を完成した人、実施化に尽力した人、発明の指導・奨励・育成に貢献した人を表彰するものです。表彰を通じて発明の奨励・育成を図り、日本の科学技術の向上と産業の振興に寄与することを目的としています。
■2006年度以降の東レの「全国発明表彰」受賞履歴について
年度 |
賞名 |
発明の名称 |
発明者(敬称略) |
2017年度 |
発明賞 |
耐熱二軸配向ポリエステルフィルムの発明 |
東大路 卓司 他 |
2015年度 |
発明賞 |
有機EL絶縁膜用ポリイミド(前駆体)
コーティング剤の発明 |
三好 一登 他 |
2013年度 |
発明賞 |
κ型オピオイド受容体作動薬
ナルフラフィン塩酸塩の発明 |
長瀬 博 他 |
2012年度 |
発明賞 |
プラズマディスプレイ隔壁用感光性
ペーストの発明 |
井口 雄一朗 他 |
2010年度 |
日本商工会議
所会頭発明賞 |
水なしCTP平版の発明 |
後藤 一起 他 |
2009年度 |
内閣総理大臣
発明賞 |
熱硬化性繊維強化複合材料の熱溶着技術および一体化成形品の発明 |
本間 雅登 他 |
注釈:2005年以前の全国発明表彰受賞履歴は、以下のリンクをご参照ください。
https://www.toray.co.jp/technology/library/commendation/res_001.html
以 上