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2021年度日本化学会「第70回化学技術賞」を受賞
エンジニアリングプラスチックを飛躍的に高靭性化させる革新材料の工業化

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2022.03.30

東レ株式会社
 

 東レ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、このたび、エンジニアリングプラスチックを飛躍的に高靭性化させる革新材料の工業化に成功し、『スピノーダル分解によるPBT/PC共連続型高性能ナノ-アロイの開発と工業化』として、公益社団法人日本化学会より「第70回化学技術賞」を受賞しました。
 このたびの受賞は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート(PC)の組み合わせにおいてアロイ構造をナノオーダーに精密制御することで飛躍的な高靭性化を実現させ、自動車衝突時の様な大きなエネルギーを吸収可能な技術として安全な自動車社会実現に寄与する高い将来性と社会的意義を有している点が評価されたものです。

 近年、安全意識の高まりを背景に、自動車における「乗員の安全性確保」が喫緊の課題となっています。これまでバンパーで吸収しきれない大きなエネルギーに対し、金属製の衝撃吸収部品を搭載することで対応してきましたが、車両重量の増加を招くことからより軽量な高分子材料への期待が高まっていました。高分子材料は、自動車衝突等の大きなエネルギーを受けると破壊するといった靭性に関し本質的な課題を有していることから、これまでに靭性に優れるゴム成分を組み合わせたポリマーアロイによる数多くの試みがなされてきましたが、従来技術で数マイクロメートルオーダーに分散させたアロイでは自動車衝突等の大きなエネルギーには耐えることができず、高分子材料を抜本的に高靭性化させる技術が切望されていました。

 これに対し、東レは、PBT/PCの組み合わせを例に独自のナノテクノロジーであるナノアロイ®1) を駆使し、スピノーダル分解2)による両成分がナノオーダーで連続した共連続型のナノアロイ構造への精密制御を世界で初めて可能にしました。これにより、従来のアロイ材料では破損するような大きなエネルギー(時速36kmでの衝突相当)を加えても、エネルギーを吸収可能となることを実証し、この特性により搭乗者の安全性を高める衝撃吸収部品として広く採用が進んでいます。さらにナノアロイの優れた高靭性化発現機構を明らかにし、ナノアロイ技術体系を構築するとともに、その適用範囲をポリアミド、ポリフェニレンスルフィドにも拡大しています。これにより、スポーツ用途では高速変形時の柔軟性を活かしたテニスガット、パソコン筐体用途では落下時の精密電子機器の保護材料等に適用範囲を大きく拡大しています。今後は、EV化の重要部品である電池を保護する衝撃吸収部品等への展開を目指しています。

 東レはこれからも、「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」との企業理念のもと、コア技術である有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーなどのさらなる深化を図り、革新的な先端材料の創出を進めてまいります。
以 上
 
写真:楯を持つ受賞者達(左)と、採用された搭乗者の安全性を高める衝撃吸収部品例(右)
日本化学会誌「化学と工業」(受賞記事):https://www.chemistry.or.jp/journal/ci22p184.pdf

<語句説明>
1) ナノアロイ®:複数のポリマーをナノメートルオーダーで微分散させることで、従来材料と比較して飛躍的な特性向上を発現させることができる当社独自の革新的微細構造制御技術。 (ナノアロイ®は、東レ株式会社の登録商標。) URL : https://www.nanoalloy.toray/
2) スピノーダル分解:平衡状態への状態変化時に生じる相分離の様式。スピノーダル分解によって生成した組織は周期的な構造を呈することが多い。

<ご参考>東レの「日本化学会・化学技術賞」受賞履歴について
第1回(昭和26年度) 「ポリアミド合成繊維の研究とその工業的製造技術の確立」
第13回(昭和39年度) 「光ニトロソ化法(PNC法)によるε-カプロラクタムの製造」
第19回(昭和45年度)  「トルエン不均化と高純度シクロヘキサン製造技術の確立と工業化」
第22回(昭和48年度) 「スエード調一層構造人工皮革の技術開発」
第25回(昭和51年度) 「ポリアクリロニトリルを原料とする炭素繊維製造技術の確立と工業化」
第37回(昭和63年度) 「水なし平板システムの開発」
第41回(平成4年度) 「架橋芳香族ポリアミド複合逆浸透膜の開発」
第45回(平成8年度) 「パラ系アラミドフィルムの開発」
第47回(平成10年度) 「表面実装対応ビフェニルエポキシ封止材の研究開発」
第49回(平成12年度) 「敗血症治療用エンドトキシン吸着カラムの研究開発」
第51回(平成14年度) 「感光性ガラスペーストによるPDP隔壁形成技術」
第58回(平成21年度) 「部分エステル化反応を用いたポジ型ポリイミドの開発と実用化」
第61回(平成24年度) 「軽量航空機用複合材料の実用化」
第63回(平成26年度) 「新規分子・構造設計による革新逆浸透膜の開発」
第65回(平成28年度) 「反応誘起型ナノ相分離エポキシ樹脂と高性能CFRPの開発」
第67回(平成30年度) 「高機能ポジ型感光性シロキサンの開発と実用化」
第70回(2021年度) 「スピノーダル分解によるPBT/PC共連続型高性能ナノ-アロイの開発と工業化」



NANOALLOY® Webサイト https://www.nanoalloy.toray/