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逆浸透(RO)膜の高性能化に寄与する重要知見を獲得 -透水・物質除去機能に優れる膜開発に向け、研究・技術開発を推進-

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2020.04.27

東レ株式会社

 東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、このたび、国立研究開発法人理化学研究所(理事長:松本紘)開拓研究本部前田バイオ工学研究室・杉田理論分子科学研究室との共同研究において、逆浸透膜(以下、RO膜1))の透水・物質除去機能の向上に寄与する重要知見を獲得しました。透水・物質除去機能を担うポリアミド分子同士が形成する相互作用のネットワークの強さと水分子の拡散挙動2)の関係を明らかにしたものです。東レは、本解析結果を活用し、かん水淡水化、廃水再利用および廃水をゼロ化するZLD3)(Zero Liquid Discharge)向けの革新省エネルギーRO膜を始めとした先端分離材料の開発を加速して参ります。

 世界では、地球規模の水不足・水質汚濁等の問題が深刻化しつつあり、安全な水の確保は持続可能な開発目標(SDGs)の一つになっています。RO膜を用いた浄水技術は、持続可能な水資源を確保するための技術として、世界各地での採用が進んでいます。しかしながら、従来のRO膜では、造水量を高めると水質が低下してしまうトレードオフの関係があるため、高品質の水を得るための除去性能と省エネルギーを実現する透水性能の向上には、RO膜中での水分子の拡散挙動の詳細解明が望まれていました。

 本研究グループは、RO膜のポリアミド分子構造におけるポリアミド分子同士および水分子との相互作用を解析し、ポリアミド分子集合体中の水分子の集合状態と運動性に及ぼす影響の解明に成功しました。その結果、ポリアミド分子同士が形成する相互作用のネットワークが疎なほど、水分子同士の相互作用が促され、運動性の高い水分子の集合体が形成されることを確認しました。
 東レは既に東京大学との共同研究4)によりポリアミド分子集合体中のポリアミド分子と相互作用して動きにくい「束縛水5)」と、運動性の高い「自由水6)」の関係性を解明しており、自由水は束縛水と比べて10倍以上速く拡散することを見出しています。
 これらの研究成果を応用し、微細な細孔の構造とその中での水の動きを精密に制御することができれば、透水・除去性能に優れた高性能RO膜を得ることができます。

 なお、本研究成果は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の支援を受け、「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点7)」の事業・研究プロジェクトによって得られたものです。

 東レは今後も、地球上の誰もが十分にきれいな水を手に入れられる社会の実現に寄与するべく、産学官の連携により、世界各地への社会実装を目指して研究・技術開発を推進して参ります。

以 上

<語句説明>

1)逆浸透(RO)膜:
濃厚水溶液と希薄水溶液とを半透膜で隔てて接触させると、濃度差で生じる浸透圧によって希薄水溶液側から濃厚水溶液側に水が移動します。ここで浸透圧より大きな圧力を濃厚水溶液側にかけると、水が半透膜を透過して希薄水溶液側に移動します。この現象を利用した膜分離法を逆浸透法と呼び、逆浸透法に用いる膜を逆浸透(RO)膜と言います。RO膜は、ナトリウムやカルシウムなどの金属イオン、塩素イオンや硫酸イオンなどの陰イオン、あるいは農薬などの低分子の有機化合物を除去対象としています。

2)拡散挙動:
逆浸透膜の内部にある水分子が、膜と相互作用しながら透過する際の速さやその動き方。

3)ZLD(Zero Liquid Discharge):
工場などから出る廃水をRO膜などで処理した後に環境中や下水道に放出せずに、濃縮装置や晶析装置を使用することで、最終的には固形廃棄物だけを排出し、途中段階で得られる水を再利用する仕組み。

4)東京大学との共同研究:
2016年10月5日当社プレスリリース
「逆浸透膜中の水分子の動きを解明-水分子の動的挙動計測と計算化学の両面から、細孔中の水運動性を明らかに-」

5)束縛水:
物質の表面と相互作用しているために、運動性が低い水分子。

6)自由水:
物質の表面などとの相互作用が極めて弱いか、または相互作用しないために、運動性が高い水分子。

7)アクア・イノベーション拠点:
文部科学省「革新的イノベーション創出プログラム「COI STREAM」の採択を受けて開始し、信州大学を中核機関に企業が参画した産学官連携の開発拠点です。