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低ファウリングバイオプロセス分離膜の開発 ~バイオ医薬品の製造工程の連続化や収率向上によりコスト低減へ貢献~

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2018.11.02

東レ株式会社

 東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、このたび、バイオ医薬品(※1)の製造工程に最適なナノオーダーレベルの細孔制御ができる低ファウリング精密分離膜を開発し、それを用いた抗体医薬の連続製造プロセスへの応用研究を開始しました。今回、開発した精密分離膜は、東レが血液透析患者用の人工腎臓膜で培った技術を応用したものであり、今後、抗体医薬品の量産プロセスへと展開することにより、生産性向上に貢献し、製造コスト低減・普及拡大へと繋げていきます。
 なお、本研究・技術開発の一部は、AMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)の「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業」の助成を受けて進めております。

 近年、抗体医薬の市場は急速に拡大していますが、その一方で製造にかかるコストが高額であり、医療費の高額化に繋がることが大きな課題となっています。抗体医薬は、細胞の培養液から目的タンパク質の抗体を分離・精製することにより製剤化しますが、従来プロセスにおいては、遠心分離機や吸着カラム等、比較的高額な装置が必要であるほか、各工程がそれぞれ独立・分断しているため、中間ロスが発生し収率悪化に繋がっていました。

 今回、東レが開発した低ファウリング精密分離膜は、長年にわたり研究・技術開発してきた血液透析患者用の人工腎臓(※2)に用いる高透水性・高分離特性を有する中空糸分離膜の技術と、血液タンパク質の吸着による膜の目詰まりを起こさせないための表面加工技術を展開して応用したものです。すなわち、細孔制御の最適化により高透水性を維持しつつ、抗体と不純物の分離が可能なことを確認し、さらには、抗体の吸着ロスに対しても計算化学に基づくマテリアルインフォマティクス(MI)を活用することで、抗体付着を抑制する表面加工の目処を得ました。このことにより、バイオプロセス分離膜へと応用できる見通しを得ることができました。
 今後さらに開発を進め、2022年を目標に、分離膜技術を組み込んだ連続量産プロセスへの展開を目指します。

 東レは、本年7月に公表した「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」において、東レグループの革新技術・先端材料によって取り組むべき課題の一つに、医療の充実と公衆衛生の普及促進に貢献することを宣言しています。今後も、先端材料技術を活用した高付加価値医療材料の開発推進により、企業理念である「わたしたちは 新しい価値の創造を通じて 社会に貢献します」を具現化し、社会貢献とともに持続的な成長拡大を目指してまいります。


【技術の詳細説明】
1.ナノメートル単位での孔径の制御及び低ファウリング加工技術  
人工腎臓用のポリスルホン製中空糸分離膜の細孔径をナノメートル単位で精密に制御しました。これにより、人の血液中に存在するタンパク質である抗体と低分子量の不純物を精密分離する膜を開発しました。さらに合成ポリマーの分子レベルでの構造設計により、膜の表面に親水性加工技術を施すことで、膜に抗体が付着することによるロスを従来比70%低減させる低ファウリング加工に成功しました。  これにより、ファウリングが原因による膜の目詰まりを解消し、高い透水性を維持したまま、低圧での送液が可能となるため、設備負担を軽減することが出来ます。

2.培養・精製工程の連続化技術  
ナノメートル単位で孔径を制御した精密分離膜を複数配置し連続処理することで、低分子量の不純物と高分子量のタンパク質凝集体等を連続的に分離することが可能となります。培養・精製工程を連続化させることで、工程が簡略化でき、目的抗体を得るまでのプロセスや時間が大幅に短縮化されます。  また、これらの技術を多段連続プロセスに組み込んだシステムにより、工程簡略化および時間短縮、生産性向上、設備費低減により、バイオプロセスにおけるトータルコストダウンへの貢献が実現できます。

【AMEDの助成について】  
本研究・技術開発の一部は、AMEDの国家プロジェクト「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業」(課題番号JP18ae0101057及びJP18ae0101061)の助成を受けて進めています。

<用語説明>
※1.バイオ医薬品
有効成分が生物(細胞、ウイルス、バクテリア等)から産生される医薬品の総称。生物由来であることからその製造プロセスは非常に複雑であり、製造のためには高い技術力が必要となる。バイオ医薬品は高い薬効が期待できるというメリットから、医薬品市場におけるバイオ医薬品が占める割合は年々増加傾向にある。

※2.人工腎臓
腎不全患者の血液透析療法に用いる透析器に内蔵された半透膜。患者の血液中に存在する老廃物を半透膜の拡散原理を利用して除去するとともに、体内にたまった余分な水分も除く。 慢性腎不全患者に用いる慢性用の血液透析膜は、一般的に週3回、1回4時間使用する。急性腎不全患者に用いる救急用の血液透析膜は、一般的に集中治療室などで24時間連続して使用される。血液透析膜の抗血栓性が不十分であると、膜性能の低下、さらには血栓形成により膜の目詰まりが発生し、治療の中断につながる場合もある。

以 上