【技術の詳細説明】
1.ナノメートル単位での孔径の制御及び低ファウリング加工技術
人工腎臓用のポリスルホン製中空糸分離膜の細孔径をナノメートル単位で精密に制御しました。これにより、人の血液中に存在するタンパク質である抗体と低分子量の不純物を精密分離する膜を開発しました。さらに合成ポリマーの分子レベルでの構造設計により、膜の表面に親水性加工技術を施すことで、膜に抗体が付着することによるロスを従来比70%低減させる低ファウリング加工に成功しました。 これにより、ファウリングが原因による膜の目詰まりを解消し、高い透水性を維持したまま、低圧での送液が可能となるため、設備負担を軽減することが出来ます。
2.培養・精製工程の連続化技術
ナノメートル単位で孔径を制御した精密分離膜を複数配置し連続処理することで、低分子量の不純物と高分子量のタンパク質凝集体等を連続的に分離することが可能となります。培養・精製工程を連続化させることで、工程が簡略化でき、目的抗体を得るまでのプロセスや時間が大幅に短縮化されます。 また、これらの技術を多段連続プロセスに組み込んだシステムにより、工程簡略化および時間短縮、生産性向上、設備費低減により、バイオプロセスにおけるトータルコストダウンへの貢献が実現できます。
【AMEDの助成について】
本研究・技術開発の一部は、AMEDの国家プロジェクト「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業」(課題番号JP18ae0101057及びJP18ae0101061)の助成を受けて進めています。
<用語説明>
※1.バイオ医薬品
有効成分が生物(細胞、ウイルス、バクテリア等)から産生される医薬品の総称。生物由来であることからその製造プロセスは非常に複雑であり、製造のためには高い技術力が必要となる。バイオ医薬品は高い薬効が期待できるというメリットから、医薬品市場におけるバイオ医薬品が占める割合は年々増加傾向にある。
※2.人工腎臓
腎不全患者の血液透析療法に用いる透析器に内蔵された半透膜。患者の血液中に存在する老廃物を半透膜の拡散原理を利用して除去するとともに、体内にたまった余分な水分も除く。 慢性腎不全患者に用いる慢性用の血液透析膜は、一般的に週3回、1回4時間使用する。急性腎不全患者に用いる救急用の血液透析膜は、一般的に集中治療室などで24時間連続して使用される。血液透析膜の抗血栓性が不十分であると、膜性能の低下、さらには血栓形成により膜の目詰まりが発生し、治療の中断につながる場合もある。