塗布型半導体カーボンナノチューブの移動度向上について

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2018.02.13

東レ株式会社

 東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、このたび、半導体型単層カーボンナノチューブ1)(Carbon Nano-Tube:以下「CNT」)と独自の半導体ポリマーとの複合体2)において、塗布型半導体としては世界最高となる移動度3)108cm2/Vsを達成しました。
 東レはこの塗布型半導体の特徴である低コストを生かして、今後、急速な拡大が期待されているIoT分野や介護・医療分野に適用可能な、ディスポーザブルなエレクトロニクス製品への展開を加速します。具体的には、あらゆる商品に貼り付けられる、低コストRFIDタグや、微量成分が検出可能なバイオセンサーの分野に向けた技術確立を目指して参ります。

 単層CNTは、半導体として高いポテンシャルを有しており、ディスプレイ用の薄膜トランジスタ(TFT)やICタグ、センサー等への応用を目指した開発が進められています。この単層CNTは、半導体型が3分の2、金属型が3分の1の混合物として合成されますが、高い半導体特性を生かすためには、半導体型CNTを高い純度で取り出す必要があり、近年、技術開発が進んでいます。当社は、高純度で取り出した半導体型CNTを、独自の半導体ポリマーと複合化し、溶媒に均一に分散させる技術を深化し続け、昨年2月に塗布型半導体として移動度81cm2/Vsを達成し、UHF帯RFID等の高機能デバイスに適用できる可能性を見いだしました。

 CNTの1本1本は、10,000cm2/Vs以上の高い移動度を有することが知られています。一方、塗布方法で形成したCNT膜では、数多くのCNTが編み目状に配置されるため、CNT同士の接触点に電気的抵抗が存在します。そこで、CNT間の電気的抵抗を低減することにより、本来CNTが有する高いポテンシャルを引き出すことができると考え、より長く、直径のばらつきが小さいCNTの獲得を狙い、ナノメートル(1ミリの100万分の1)オーダーでのCNT構造制御に取り組んできました。
 CNTの合成方法と、金属型/半導体型の分離プロセスを詳細に検討した結果、従来比長さが1.5倍、直径分布が半分の半導体CNTを高純度に取り出すことに成功しました。さらにこのCNTを、新たに開発した半導体ポリマーと複合化することで、より小さいエネルギーで純度の高い単層CNTを均一分散できることを見出しました。これによって、CNT間で生じる電気的抵抗を小さくすることに成功したため、塗布型半導体としては世界最高レベルの移動度108cm2/Vsを達成しました。

 今回開発した塗布型半導体は、最新の有機ELディスプレイにも使用されている酸化物半導体IGZO4)と同等の性能であり、通信距離の長いICタグであるUHF帯RFIDを始めとする、様々なIoTデバイスの実現に大きく貢献するものと考えています。例えば、本塗布型半導体をRFIDに適用した場合、無線通信の距離を伸ばすことや、回路の処理速度向上によるメモリビット数増加が期待できます。なお、本開発技術を適用することで、フィルム等の汎用素材上に、ウェットコーティングによる簡便な加工方法で高い性能が実現できることを確認しています。

 なお、本研究の一部は、NEDO「エネルギー・環境新技術先導プログラム」の委託事業の一環として実施したものです。また本研究の成果は、2月14日(水)~16日(金)に東京ビックサイトで開催されるnano tech 2018、および3月17日(土)~20日(火)に早稲田大学で開催される、春季応用物理学会で発表する予定です。

 東レは、コア技術である高分子化学とナノテクノロジーの融合によって、塗布型CNT半導体技術を早期に確立するとともに、今後も、創業以来の企業理念である「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」を実現していくため、社会を本質的に変えるような革新的な素材の開発に取り組んでいく所存です。
以上
 
【用語説明】
1)カーボンナノチューブ 炭素原子で構成される直径がナノメートルサイズの物質。単層、二層、多層のものがある。
平面のグラフェンシートを丸めて円筒(チューブ)状にした構造をしているが、通常の合成方法ではその丸め方がランダムに行われるため、半導体型が3分の2、金属型が3分の1の混合物となる。
2)CNT複合体 半導体ポリマーを単層CNTの表面に付着させたもの。純度の高いCNTは凝集する力が強く均一な分散が困難となる。東レは、半導体ポリマーを単層CNTの表面に付着させることで、導電性を阻害することなく単層CNTの凝集を抑制できることを世界に先駆けて見出した。
CNT複合体
3)移動度 半導体中の正孔・電子などのキャリアの動きやすさの指標。移動度が大きいと高速応答が可能になり、またTFTサイズを小さくできるため微細化にも有利となる。
4)IGZO 酸化物半導体の一種。低消費電力に特長があり、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどに使用されている。

以上