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逆浸透膜中の水分子の動きを解明 -水分子の動的挙動計測と計算化学の両面から、細孔中の水運動性を明らかに-

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2016.10.05

東レ株式会社

 東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣、以下「東レ」)、東レリサーチセンター(本社:東京都中央区、社長:川村邦昭、以下「TRC」)はこのたび東京大学物性研究所(所長:瀧川仁、以下「東大物性研」)の山室修教授・古府麻衣子助教と共同で、これまで未解明であったRO膜の細孔中における、水分子の状態と拡散の挙動の詳細解析に取り組みました。この結果、細孔中の水は、細孔と相互作用して動きにくい「束縛水」と、運動性の高い「自由水」の2種類に大別され、自由水は束縛水と比べて10倍以上速く拡散していることを示しました。さらに、RO膜のポリマー分子は細孔を形成しているだけでなく、水と相互作用し運動が活性化していることを、世界で初めて明らかにしました。
 東レは、本解析結果を活用し、革新省エネルギーRO膜の開発など、先端分離材料の開発を加速していきます。

 RO膜を用いた浄水技術は、世界人口の急増と経済成長を背景に地球規模で深刻化する水不足・水質汚濁といった問題に対し、持続可能な水資源を確保するための技術として、世界各地での採用が進んでいます。東レとTRCは、15年以上にわたり、最先端技術を駆使して、実験と計算化学の両面からRO膜の構造解析に取り組み、高性能RO膜の開発に活用してきました。RO膜の表面には厚さ1億分の1メートル程度のひだ状のポリマーの分離機能層が形成され、分離機能層に存在する10億分の1メートル以下の細孔を利用して水と塩などの不純物の分離を行っています(図1)。微細な細孔の構造と、その中での水の動きを精密に制御することができれば、水だけを効率的に透過する、つまり透水・除去性能に優れた高性能RO膜を得ることができます。
 
 本研究のポイントは下記の通りです。

1. 水の状態を厳密に制御した分離機能層の採取
 RO膜の非常に小さな細孔が含む極微量の水の状態を測定するためには、数十m2の分離機能層を、支持膜から分離して集め、分析する必要があります。この分離操作によって水が蒸発する等、状態が変化してしまうと、正しく解析することができません。我々は、含水量を厳密に制御しながら、分離機能層の採取、分析をしました。
 
2. 中性子散乱を用いた水の解析
 細孔の中の水を分析するために、我々は原子核を構成する粒子の一つである中性子に着目しました。量子力学の原理から中性子は波の性質をもちますが、その波長は100億分の1メートル程度であり、ちょうど水分子やポリマー分子の分子間距離と同程度です。また、中性子は水素原子に対して強く散乱される性質があります。そのような中性子の特徴を活かすと、中性子を水を含む材料に射ち込んで散乱を調べることで、水やポリマーの構造と運動を同時に分析できます。我々はラザフォード・アップルトン・ラボラトリー(英国)やアメリカ国立標準技術研究所(米国)等の世界有数の中性子施設を活用し、世界で初めてRO膜分離機能層の細孔中の水の拡散を捉え、水の運動性と、ポリマーとの相互作用を捉えることに成功しました。
 
3. 分子動力学シミュレーションの深化
 分離機能層と水の構造に関するシミュレーション技術を深化させ、構造と運動性を従来よりも高精度に再現することで、含水した分離機能層の中での、自由水と束縛水の運動を計算しました。この結果は、中性子散乱の結果と定性的に良い一致を示し、細孔の構造や束縛水・自由水の制御を通じたRO膜の透水・除去性能向上に繋がる知見を得ることができました。
 
 今後も東レは基礎科学をベースにした極限追求と社内外連携の融合により、RO膜を始めとした先端材料の創出を続けてまいります。

以 上