東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣、「以下「東レ」)は、この度、従来よりも血液成分の付着や刺激を抑制することで血液の凝固を防ぐ、抗血栓性を飛躍的に向上させた新規高分子材料を開発しました。
特に、この材料を血液透析膜※1の表面に用いた当社内でのモデル試験によると、血液凝固に関するタンパク質であるフィブリノーゲン※2の付着量は、自社現行品※3に比べて75%低減し、付着したタンパク質の総量も94%低減することを確認しています。
従って、本材料を適用することでタンパク質や血小板の付着による目詰まりが低減し、これまで課題であった、血液透析膜における経時的性能低下を大きく抑制できる見通しが得られました。
慢性用および救急用の血液透析器において、経時的な性能低下は血液透析膜の目詰まりによって起こりますが、これは、血液が接触する材料表面の抗血栓性が不十分な場合、血液中のタンパク質や血小板が付着・刺激され、血液凝固が進むことで顕著になります。これは生体が異物を排除しようとする防御機構によるものであり、臨床検査や治療に用いられるカテーテル等の医療機器とも共通する現象です。
当社は長年に亘り、この問題を解決する抗血栓性材料の開発に取り組んでおり、既に親水性高分子と相互作用している水分子(吸着水※4)の運動性が高いほど、血液成分の付着を抑制する効果が向上することを見出し、抗血栓性に優れた血液透析膜を開発しています(2011年の第49回日本人工臓器学会大会にて報告済み)。
今回は、さらなる高機能領域を目指し、親水性高分子の分子構造の中で吸着水に影響を及ぼしている部位を、コンピュータシミュレーション(分子動力学計算)や各種測定手法を活用して分子レベルで解析し、その結果を高分子設計にフィードバックしました。これにより吸着水に影響を及ぼしている分子構造を明確にすることができたため、吸着水の親水性高分子内の分布を制御し、運動性をさらに向上させることで、抗血栓性を飛躍的に高めた高分子材料の開発に成功しました。
今後は、本材料を適用した救急用の血液透析膜の開発を進めるとともに、本材料に用いた抗血栓性技術の汎用性を活かし、検査機器やカテーテルなどの医療材料・機器の素材や形状を問わず幅広く展開していく考えです。
東レは長期経営ビジョン "AP-Growth TORAY 2020" において、医薬品・医療機器を中心とするライフサイエンス事業を「重点育成・拡大事業」と位置づけています。
また、現在進めている中期経営課題 "プロジェクト AP-G 2016" では、医療の質の向上や、医療現場の負担軽減、健康・長寿に貢献する事業の拡大を目指す「ライフイノベーション事業拡大(LI)プロジェクト」に取り組み、2016年度には同事業を1700億円の規模にまで拡大する目標を掲げています。
当社は今後も、先端材料技術を活用した高付加価値医療材料の開発推進により、企業理念である「わたしたちは 新しい価値の創造を通じて 社会に貢献します」を具現化し、社会貢献とともに持続的な成長拡大を目指してまいります。