東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺 昭廣)は、このたび、ナイロン(ポリアミド)樹脂が本来有する靱性や機械強度を維持しながら、高温耐久性を飛躍的に向上した高性能ナイロン樹脂の開発に成功しました。本開発品は、ナイロン樹脂に独自の耐久性向上剤をナノ分散し、高温処理時に生成する劣化物を化学的に捕捉して劣化の原因となる酸素を遮断する強固なシールド層を成形品表層に形成することで、成形品内部の酸化分解抑制を実現したものです。
今後1年以内の本格販売を目指し、高温耐久性への要求が高まる自動車のエンジン、モーター周辺部材をはじめ、従来よりも高い耐久性が必要とされる工業材料分野に向けて幅広く用途開発を進めてまいります。
ナイロン6、66に代表されるナイロン樹脂は、靭性や強度等の優れた性能バランスと成形加工性の良さから、自動車部品、電気・電子部品用途をはじめ、様々な用途に使用されています。しかし近年、自動車部品用途などでは部品の小型・高出力化に伴う使用環境温度の上昇により、従来よりも高い温度での耐久性が求められるようになってきました。耐久性の改良方法としては、酸化防止剤あるいは金属化合物をナイロン樹脂に添加する方法がよく用いられますが、従来手法では高温下での酸化分解抑制に限界があり、高温耐久性および耐久寿命の要求レベルの向上に対する市場ニーズに十分に応えられないのが現状でした。
東レは今回、ナイロン樹脂本来の特徴を活かしつつ、高温耐久性能の向上を実現する新手法の開発に取り組みました。具体的には、ナイロン樹脂に新たに化学構造から設計した耐久性向上剤をナノスケールで分散し、熱により生成したナイロン樹脂由来の劣化物を耐久性向上剤が高効率で化学的に捕捉することで、その反応物が成形品表面に強固なシールド層を形成するものです。このシールド層で被覆された成形品は、被覆されていないものに比べて、3倍以上の酸素バリア性能を発現することを確認しています。このように劣化原因である酸素の侵入をシールド層で遮断し、成形品内部の酸化分解を抑制するという新しい手法の開発により、これまで達成が困難であった200℃以上の高温領域でも高い耐久性能を実現しました。この手法はナイロン樹脂の種類にかかわらず適用可能です。
本開発品は、本来の靭性や機械強度を維持しながら、ナイロン6における210℃での耐久性は、従来手法では2000時間が経過すると成形品形状を維持できないレベルにまで劣化するのに対し、3000時間後でも90パーセント以上の強度を保持することが可能です。また、従来設備をそのまま使用でき、成形加工時にはシールド層を形成しないことから、2次加工の制約もありません。
本開発品は、当社保有のスーパーエンプラであるポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂とナイロン樹脂の中間領域の耐久温度を補完できる材料であり、既に一部用途では採用が決まっています。今後、使用環境がますます厳しくなりつつある自動車のエンジン、モーター周辺部材をはじめ、高温耐久性が要求される電気・電子、住設など幅広い工業材料分野に向けて用途開発を加速してまいります。