異素材との高い熱接着性を実現した高機能PPSフィルムを開発

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2014.09.08

東レ株式会社


 東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、この度、PPS(ポリフェニレンサルファイド)の長期耐熱性や耐加水分解性、耐薬品性、難燃性などの優れた素材特性を維持しながら、PPSフィルム同士や樹脂成形体とだけでなく、金属や繊維シートなどの異素材とも強固に熱接着ができる高機能PPSフィルムを開発しました。本開発フィルムは、主に異素材との熱ラミネートによる複合材として、ハイブリッド自動車や電気自動車のモーター絶縁材料、リチウムイオン電池材料、燃料電池材料など幅広い用途への適用が期待されます。
 東レのPPSフィルム トレリナ®の新タイプとして、2015年からの試験販売に向けて、早期に量産技術の確立を目指してまいります。

 東レのPPSフィルム トレリナ®は、長期耐熱性や耐加水分解性などの長期使用にわたる劣化抑制、耐薬品性、難燃性などの優れた特性を持ち、耐熱電気絶縁材料や耐熱テープ、耐熱工程離型フィルムなどに広く採用されています。
 一方で、PPSフィルムは融点が高いことから、金属や繊維シートなどの異素材との熱による接着性が不十分な場合があり、異素材との接着には一般的に樹脂接着剤が用いられています。しかし、接着剤を用いる場合、未反応物の残存や耐熱性・耐久性が不足するといった課題がありました。このため、本来PPSフィルムが強みとする耐熱性や耐薬品性が要求される用途への適用が制約されることがありました。

 これに対して東レは、独自のポリマー設計技術と高精度延伸によるフィルム構造制御技術の融合により、上記課題を解決し、PPSの優れた素材特性を維持しながら、異素材との高い熱接着性を実現する高機能PPSフィルムの開発に成功しました。
本開発フィルムの技術ポイントは下記の通りです。


1.ポリマー設計技術
 分子規則性を崩した独自の共重合ポリマー(※1)分子設計により、分子運動性を高めて流動性を向上させ、接着面の微細な凹凸に分子レベルですき間なく入りやすくすることで、高い熱接着性の発現に成功しました。この共重合PPSを熱接着機能層として、金属や繊維シートなどの異素材と、汎用性のある熱ラミネート法により200~270℃で強固に接着できます。

2.高精度フィルム構造制御技術
 結晶化しにくい共重合PPSを従来技術で延伸すると、不均一な分子配向により、厚みむらが生じて平面性が不足したり、耐熱性が十分発揮できなくなったりするという課題がありました。そこで今回、独自の高精度延伸によるフィルム構造制御技術を新たに開発しました。同技術では、分子内に結節点(※2)を形成させることで、延伸応力を均一に伝え、共重合PPSの分子鎖を均一に配向させることが可能となり、平面性不良などの品位の低下を解消しました。この結果、PPSフィルムの特長である耐加水分解性や難燃性を保持しながら、200℃の高温領域で使用することができます。

 本開発フィルムは、例えば、耐熱樹脂成形部品の接着に用いる熱接着シートとしてのほか、アラミドやPPSなどの繊維シートと接着剤を用いず熱ラミネートにより得た保護層つき絶縁複合材として、ハイブリッド自動車や電気自動車のモーター絶縁材料への適用が可能になります。また、金属の耐腐食性付与や軽量化を目的に金属と熱ラミネートした複合材として、リチウムイオン電池材料や燃料電池材料、あるいは電気・電子材料に用いるなど、これまでPPSフィルムの適用が難しかった用途にも展開が可能となります。
 東レは、今回開発した高機能PPSフィルムによる新規用途開拓を推進することで、トレリナ®の世界オンリーワン製品としてのさらなるポジション強化を図ります。

 東レは今後も、コーポレートスローガンである“Innovation by Chemistry”のもと、持続可能な循環型社会の発展に向け、「ケミストリーの力」を駆使して新しい先端材料の研究・技術開発に取り組んでまいります。


以 上

(用語説明)
※1:共重合ポリマー
   2種以上のモノマー(単量体)から得られ、それらを成分として含む重合体(ポリマー)
※2:結節点
   製膜時にフィルムを延伸する際に、ポリマー分子鎖のからみあいや結晶などが、分子をつなぎあわせた架橋点のように振る舞う構造