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超低圧高耐久性逆浸透(RO)膜を開発 - 30%の省エネを実現する高透水性と高耐久性を実現 -

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2014.02.21

東レ株式会社

 東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、このたび、独自の微細構造制御技術を駆使し、高い透水性能と耐久性を併せ持つ「超低圧高耐久性逆浸透(RO)膜1)」を開発しました。
 RO膜中に細孔(水分子を通しナトリウムイオン等を通さない微細な穴)を形成する技術を深化させ、優れた物質除去性能を維持したまま透水性能を高めたことによって、低圧での水処理が可能となり、約30%の省エネを達成することができました。
 また、水処理プラント運転中に原水中の異物等で膜が汚れた際の薬品洗浄に対する耐久性(物質除去性能の維持する特性)が高く、水質が悪く洗浄頻度が高いかん水淡水化や下廃水再利用などの用途において、水処理コスト低減への寄与が期待できます。
 2014年中の上市を目指し、市場が急速に拡大しつつある中国、インドをはじめとするアジア、欧米などに向け、積極的に展開を図ってまいります。

 RO膜は、世界の水問題(水不足、水質悪化など)を解決しうる技術として世界中の水処理プラントで採用が進んでおりますが、高品質の水を得るための物質除去性能、さらに省エネルギーを実現する透水性能の向上が望まれています。また、近年はRO膜の用途拡大により下水など様々な水質の原水を処理する必要が生じており、長期間にわたって高品質な水を安定的に供給するには、膜性能の安定性、特に薬品洗浄による膜性能の劣化を抑制したいという要望が高まってきました。

 これに対して東レでは、これまで培ってきたサブナノメートル(オングストローム=100億分の1m)2)の精度での細孔径の制御技術をベースに、周囲の環境変化の影響を受けにくくする細孔構造の安定化を図り、2011年に耐久性を大幅に向上させた高耐久性RO膜3)を開発しました。
 今回、高耐久性RO膜の新たな技術展開として、高透水性との両立に取り組み、本製品の開発に成功しました。

 今回開発した「超低圧高耐久性逆浸透膜」の技術ポイントは下記の2点による細孔構造制御にあります。

1.一次構造の制御による細孔構造安定化

 RO膜の中核となる分離機能層は、細孔構造を持つ架橋ポリアミド4)という素材でできています。東レはこれまで、陽電子消滅寿命測定法5)や分子動力学シミュレーション6)を駆使してRO膜の細孔構造を解析し、細孔径制御による高ホウ素7)除去RO膜などを開発してきました。
 今回、架橋ポリアミドの一次構造8)を核磁気共鳴分光法9)によって詳細に解析し、得られた情報をベースに一次構造を安定化する精密界面重合技術10)を確立しました。これにより、周囲の環境変化時にも細孔構造が変化しにくく、酸、アルカリ、微量塩素等の薬品に対する耐久性に優れる分離機能層の形成を実現しました。

2.分子間相互作用の制御による細孔数増大

 架橋ポリアミドの分子間相互作用を制御することにより、通常は水分子が透過しないポリアミド分子間の微細な隙間を拡大して透水性の細孔数を増大し、低圧運転の可能な高透水性を達成しました。

 東レは、コア技術である有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーを融合することで、これまで高ホウ素除去RO膜や低ファウリングRO膜11)などの高機能膜の開発、製品化を達成しており、独自の先端材料として世界で高く評価されてきました。本開発品でより幅広い用途に向けた提案を加速し、地球規模での水問題解決に貢献してまいります。

以上
【技術用語説明】

1)逆浸透(RO)膜
 濃厚水溶液と希薄水溶液とを半透膜で隔てて接触させると、濃度差で生じる浸透圧によって希薄水溶液側から濃厚水溶液側に水が移動します。ここで浸透圧より大きな圧力を濃厚水溶液側にかけると、水が半透膜を透過して希薄水溶液側に移動します。この現象を利用した膜分離法を逆浸透法と呼び、逆浸透法に用いる膜を逆浸透(RO)膜と言います。RO膜は、ナトリウムやカルシウムなどの金属イオン、塩素イオンや硫酸イオンなどの陰イオン、あるいは農薬などの低分子の有機化合物を除去対象としています。

2)サブナノメートル
 1ナノメートルは10億分の1メートルであり、サブナノメートルとはその1/10、すなわち10億~100億分の1メートルという極微細領域の世界です。

3)高耐久性RO膜
 東レは、薬品洗浄に対して優れた耐久性を有する、かん水淡水化用の高耐久性RO膜の開発について2011年にプレスリリースしています。

4)架橋ポリアミド
 ポリアミドは、その化学構造が直鎖である線状ポリアミドと、網目状につながった架橋ポリアミドに大別されます。RO膜の分離機能層の素材として、架橋ポリアミドが主流となっています。

5)陽電子消滅寿命測定法
 電子と同じ質量で反対の電荷を持つ「陽電子」と呼ばれる素粒子は、電子と衝突するとγ線を放出しながら消滅する性質があります。これを利用して、物質中に陽電子を入射させ、その寿命を測定することで物質中の空孔の大きさを測定する方法です。物質中の空孔が小さいほど、空孔以外の場所に存在する電子と衝突する確率が高いため、寿命が短くなります。この方法により、0.1~10ナノメートル程度の空孔を測定することができます。

6)分子動力学シミュレーション
 ポリマーのような巨大分子の運動を、コンピューターを用いて計算する方法です。ニュートンの運動方程式を用いて、分子中の各原子の位置を時間に対して追跡するシミュレーション手法で、RO膜を構成するポリマー分子やRO膜中に存在する水・溶質などの運動、存在位置に関するデータを得ることができます。

7)ホウ素
 ホウ素は、柑橘類の立ち枯れ病や不妊症の原因となることが知られており、海水淡水化や排水処理等において効率的に除去する技術が必要とされています。

8)一次構造
 ポリアミドの一次構造とは、アミドを形成する繰り返し単位及び末端分子構造を意味しています。

9)核磁気共鳴分光法
 核磁気共鳴分光法は、有機分子の化学構造を分析する有用な手法の一つです。東レでは、前例のないRO膜の分析へ適用するために、分析サンプルの調製、測定、データ解析についてそれぞれ適切な手法を確立することで、架橋ポリアミドの化学構造を高精度で解析しました。

10)精密界面重合技術
 RO膜の架橋ポリアミドは、水と油の境界(界面)でモノマーを重合する界面重合という技術によって作られています。今回、界面重合に関わる因子を精密に制御することで透水性と耐久性を両立する架橋ポリアミドを形成しました。

11)低ファウリングRO膜
 原水中に有機物や微生物が存在すると、それらが膜表面に付着するファウリングと呼ばれる現象が発生し、造水量の低下を招くことがあります。低ファウリングRO膜は、このファウリング現象を基礎解析し、表面付着性を低減させたRO膜です。

以上