• HOME
  • ニュースルーム
  • 単層カーボンナノチューブ薄膜トランジスタで世界最高レベルの移動度を達成 -半導体型単層CNTと半導体ポリマーの複合化により半導体特性を極大化-

単層カーボンナノチューブ薄膜トランジスタで世界最高レベルの移動度を達成 -半導体型単層CNTと半導体ポリマーの複合化により半導体特性を極大化-

facebookでシェアする twitterでシェアする Linkedinでシェアする

2014.02.12

東レ株式会社

 東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、このたび、単層カーボンナノチューブ薄膜トランジスタ(Carbon Nano-Tube Thin Film Transistor :以下「CNT-TFT」)において、塗布型TFTとしては世界最高レベルとなる移動度1)13 cm2/Vs、オンオフ比2)106を達成しました。半導体純度を大幅に高めた単層CNTと当社独自で開発した半導体ポリマーを複合化することにより、単層CNTの高い半導体特性を十分に引き出すことに成功したものです。今後、2016年近傍での実用化を目指し、塗布型半導体としての技術確立を進めていきます。

 優れた電気的・機械的特性を持つCNTは、すでにタッチパネルの透明電極などで実用化が始まりつつあります。中でも単層CNTは半導体として高いポテンシャルを有していることから、ディスプレイ用TFTやICタグ、センサー等への応用を目指し開発が進められています。通常、単層CNTは半導体型が3分の2、金属型が3分の1の混合物として合成されるので、その中から半導体型CNTを高純度で取り出す必要があります。さらに取り出した半導体型CNTを均一に分散して薄膜化することにより、高いTFT特性が可能となります。

 東レは今回、NEDOプロジェクトの成果である、半導体純度を大幅に高めた単層CNTと独自に開発した半導体ポリマーを複合化することで、塗布型TFTとしては世界最高レベルとなる移動度13 cm2/Vs、オンオフ比106を達成しました。本移動度は、半導体純度を高める前の単層CNTに比べ5倍以上、従来のアモルファスシリコン比で10倍以上であり、単層CNTの半導体ポテンシャルを十分に引き出した結果と考えております。また、金属型CNTによる電極間の短絡可能性が大幅に低下したことで安定した特性が得られるようになり、素子間のバラツキが小さくなりました。

 東レは今後、コアテクノロジーである高分子化学とナノテクノロジーの融合によって、塗布型CNT半導体技術を早期に確立し、コーポレートスローガンである”Innovation by Chemistry”を具現化する先端材料の開発を推進していく所存です。

 今回開発に成功した塗布型CNT-TFTの技術詳細は以下の通りです。


1.高半導体純度の単層CNTと半導体ポリマーとの複合化
 CNTは平面のグラフェンシートを丸めて円筒(チューブ)状にした構造をしていますが、通常の合成方法ではその丸め方がランダムに行われるため、半導体 型が3分の2、金属型が3分の1の混合物となります。CNTの高い半導体特性を生かすためには半導体型CNTを高い純度で取り出す必要がありますが、これ までは純度が思うように上がらない、または純度は上がるがCNTの品質が低下してしまうという問題がありました。また、純度の高いCNTほど凝集する力が 強く、均一な分散が困難でした。
 東レはこれまで、半導体ポリマーを単層CNTの表面に付着させることで、導電性を阻害することなく単層CNTの凝集を抑制できることを世界に先駆けて見出し、既に単層CNTの均一分散技術の基本特許を出願・権利化しています。今回この技術を、TASC3)が開発した高半導体純度の単層CNTに展開することにより、高い半導体純度と品質を維持しながら、単層CNTの均一分散を実現しました。これにより、高半導体純度の単層CNTの均一なネットワークをインクジェットなどの塗布方法で形成できるようになり、移動度10cm2/Vsを超える高いTFT特性が可能となりました。
 

 
2.TFT素子間バラツキ
 TFTの実用化に向けては、広い面積に数多く配置されたTFT素子間のバラツキをできるかぎり小さ くする必要があります。半導体純度を高める前の単層CNTでは、金属型CNTが電極間を橋渡し(短絡)する確率が高く、素子間バラツキの主原因の一つと なっていました。今回開発した技術で金属型CNTによる短絡確率が大幅に低下したことにより、素子間バラツキを4分の1にまで低減することができました。
なお、本技術で用いた高半導体純度単層CNTサンプルは、NEDO「低炭素社会を実現する革新的カーボンナノチューブ複合材料開発」プロジェクトにおいて、技術研究組合 単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)より提供いただきました。
本研究の成果は、3月17日~20日に青山学院大学で開催される春季応用物理学会で発表する予定です。
【用語について】
1)移動度:半導体中の正孔・電子などのキャリアの動きやすさの指標。移動度が大きいと高速応答が可能になり、またTFTサイズを小さくできるため微細化にも有利。
2)オンオフ比:TFT出力電流の最大値と最小値の割合。ディスプレイ用TFTの場合、オンオフ比が大きいほど明暗がつけやすい。
3)TASC:技術研究組合 単層CNT融合新材料研究開発機構
 
以上