記
1.テーマ
「中枢系に作用する難治性そう痒症治療薬ナルフラフィン塩酸塩の創出」
2.本技術の特徴
モルヒネに代表されるオピオイド医薬は、強力な鎮痛作用を含む有用な薬理作用を有する反面、副作用としての薬物依存なども良く知られており、麻薬ではないオピオイド医薬の実現が強く望まれてきました。
近年、モルヒネが結合するオピオイド受容体(μ型)と異なる型の受容体(κ型など)に結合する化合物が、麻薬性のない有用医薬候補として注目されるようになりました。しかし、これまで報告された選択的オピオイドκ受容体作動薬は、麻薬性は克服できたものの動物では薬物嫌悪性として観察される副作用を示すものばかりで、臨床後期にまで進階できたものは皆無でした。そこで東レは、これらの欠点を克服する選択的オピオイドκ受容体作動薬の探索を進めました。
東レは、研究開始までに見出されていた既報化合物の構造改変的アプローチではなく、分子構造の理解に基づく論理的・化学的な独自設計思想を採用しました。その結果、従来化合物とは一線を画す特徴的な構造を有する選択的オピオイドκ受容体作動薬として、ナルフラフィン塩酸塩の創出に成功しました。さらに、(1)立体選択性に優れた製造ルートの確立、(2)光異性化・易酸化性・非晶性・吸湿性という製剤学上極めて取り扱いが難しい化合物であるナルフラフィンのソフトカプセル化による製剤上の問題点の克服、(3)カプセル中に含有される極微量薬物の定量法、管理プロセスの確立を通じて「レミッチ®カプセル2.5µg」として上市を達成しました。
激しいかゆみに悩まされる血液透析患者の方々のQOLを重篤な副作用無く高めたという点で本薬物の意義は極めて大きく、日本発のオリジナル有用医薬として学術論文などを通じて公開した創薬コンセプト、設計手法は学会でも高く評価されています(2010年度 日本薬学会創薬科学賞および有機合成化学協会賞(技術的))。
3.実用状況と今後の展開
本薬物は、同種の適応症を持つ医薬品が他にはなく、上市以来、国内市場占有率は100%を維持しています。
また、日本発のオリジナル有用医薬として世界展開を図っており、近々海外の患者さまにもご活用いただけるものと考えております。
さらに現在、血液透析に伴う難治性そう痒症治療以外の適用に関しても臨床試験が行われており、中枢系に作用することによってそう痒症を治療する唯一の薬物として、適切に用いられていくことが期待されています。
<ご参考>
東レの「大河内賞」受賞履歴について
第59回(平成24年度)
「中枢系に作用する難治性そう痒症治療薬ナルフラフィン塩酸塩の創出」(技術賞)
第54回(平成19年度)
「液晶ディスプレイバックライト用高性能反射ポリエステルフィルムの開発」(生産賞)
第52回(平成17年度)
「非感光ポリイミド法による携帯電話用液晶ディスプレイ向け高性能カラーフィルターの開発」(生産賞)
第49回(平成14年度)
「ポリアミド複合逆浸透膜および逆浸透膜システムの開発」(生産賞)
第47回(平成12年度)
「パラ系アラミドフィルムの開発」(生産賞)
第43回(平成8年度)
「磁気記録媒体用PETフィルム表面形成法の開発」(生産特賞)
第40回(平成5年度)
「経口PGI2誘導体ベラプロストナトリウムの開発と企業化」(技術賞)
第33回(昭和61年度)
「天然型ヒト・インターフェロン ベータ製剤の生産技術の開発」(生産賞)
第21回(昭和49年度)
「溶融紡糸延伸直結法の開発と工業化」(生産賞)
第19回(昭和47年度)
「新しいパラキシレンの製造技術の開発と工業化」(生産賞)
第18回(昭和46年度)
「オープンエンド精紡機MS400の発明およびその工業化」(生産賞)
第14回(昭和42年度)
「光ニトロソ化(PNC法)によるε-カプロラクタムの製造」(生産特賞)
以上