新規PMMA膜人工腎臓「フィルトライザー®NF」の本格販売開始について

facebookでシェアする twitterでシェアする Linkedinでシェアする

2013.03.11

東レ株式会社
東レ・メディカル株式会社

東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣)は、このたび、新たな膜表面加工技術により抗血栓性に影響する血小板付着の抑制を自社従来品に比べて向上させたPMMA(ポリメチルメタクリレート)膜人工腎臓の新製品フィルトライザー®NFを開発し、本年4月より東レ・メディカル株式会社(本社:千葉県浦安市、社長:田中資長、東レ100%出資)による本格販売を開始します(医療機器承認番号:21800BZZ10130000)。

 人工腎臓を用いた透析療法(以下、人工透析という)は、血液を体外に循環させて人工腎臓内の中空糸膜を通すことで血液中の老廃物(尿毒素)や余分な水分を取り除き血液を浄化します。現在人工腎臓市場の80%以上を占めるポリスルホン膜人工腎臓は、透過(拡散とろ過)によって尿毒素を除去するのに対して、東レが1977年に開発し、世界で初めて合成高分子膜を使用したPMMA膜人工腎臓は、透過に加え吸着によっても尿毒素を除去できることが知られています。

 これまで、PMMA膜については尿毒素の除去に優れた吸着特性を発揮する一方で、血液が中空糸膜に接触することで、血小板等が膜表面に付着する血小板凝集反応などの抑制が課題となっていました。東レは、この課題に対し、膜表面を加工する新技術を開発、新規人工腎臓フィルトライザー®NFに適用しました。

 フィルトライザー®NFは、中空糸膜表面への血小板や凝固系タンパク質のフィブリノーゲンの付着を自社従来品に比べて低減しましたが、その一方で、尿毒素のβ2-ミクログロブリンの吸着除去特性や総タンパク質吸着量は、従来品同様に保持しています。

 東レは2010年に上市した新規ポリスルホン膜人工腎臓トレライト®NVに続く、今回の新規PMMA膜人工腎臓フィルトライザー®NFの本格展開により、新たな生体適合性開拓を追求し、人工腎臓事業の拡大を推進します。

 東レは、長期経営ビジョン“AP-Growth TORAY 2020”において、医薬品・医療機器を中心とするライフサイエンス事業を「重点育成・拡大事業」と位置づけています。先端材料技術を活用した高付加価値医 療材料の開発推進と販売展開により、この成長分野における事業育成と拡大を目指してまいります。

以上

<用語説明>
 1.人工腎臓
何らかの理由により腎不全状態に陥った患者に用いる人工臓器。 腎不全病態により血液中に蓄積し た尿毒素を血液と分離することができる半透膜を有する人工腎臓を用いて、血液を体外循環させながら浄化するフィルター。
 2.PMMA(ポリメチルメタクリレート)膜
人工腎臓の有する半透膜は、セルロース系と合成高分子系の膜に大別され、除去性能の面や生体適 合性の面から、合成高分子系の膜が主流である。PMMA膜は、世界で初めて中空糸型人工腎臓に用いられた合成高分子膜であり、別途、眼内レンズに利用されるなど、優れた生体適合性を有する。

 3.凝固タンパク質、フィブリノーゲン
 凝固因子とは、血液が異物に触れた場合に次々に一連の反応をもたらして凝固に至る12種類の因子の総称。発見された順に命名され、フィブリノーゲンは、第Ⅰ因子。フィブリノーゲンは、トロンビンの作用によって、不溶性のフィブリンとなり析出して、凝固反応が成立する。

 4.尿毒素、β2‐ミクログロブリン
 尿毒素とは、腎不全病態に陥った場合に尿からの排出が滞ることにより、血中に蓄積してさまざまな障害をもたらす一群の分子。透析治療の黎明期には、尿素(分子量 60)等の小分子量物質が主な対象であったが、現在では、β2‐ミクログロブリン(分子量12,000)のような低分子量タンパク質にまで対象が広がってきた。β2‐ミクログロブリンは、腎不全病態と共に血中に蓄積し、透析患者特有の関節症状等を引き起こすと考えられる。PMMA膜に良く吸着除去できることから見出された尿毒素でもある。

 5.抗血栓性
 血液が材料に接すると、材料表面に血液中のタンパク質が付着し、そこに血小板が付着(粘着)し、血小板が活性化されて、各種の凝固因子を放出して血栓が生じる。狭義には、最初の血小板活性化を抑制できる材料特性を抗血栓性と呼ぶ場合と、広義には、最終的な血液凝固による血栓形成を招きにくい材料特性を抗血栓性と呼ぶ場合がある。

 6.生体適合性
 生体適合性の良い膜は、「補体活性化」「白血球数の減少」「血小板活性化」等が軽減され、逆に生体適合性の悪い膜を用いた場合、それらが亢進しやすいために、「生命予後」「心血管イベント」「透析アミロイド」「栄養状態」等の増悪が危惧される。血液透析治療における良好な生体適合性は、膜の選択だけで決まるわけではなく、透析膜の滅菌薬剤であるホルマリンやエチレンオキサイドガスの使用、透析液中のエンドトキシンの混入等が、生体適合性を大きく損ねることが知られている。