東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、このたび、耐熱性と成形し易さという、相反する性能を実現するオレフィン系離型フィルムを、世界で初めて開発しました。本開発品は、独自の“ナノアロイ®”技術と製膜時の高精度積層技術を用いており、お客様の製造工程内で使用される際、塗工・乾燥時の高温下でも変形しにくく(塗工耐熱性)、低い成形温度でも加工し易く複雑な形状に追従、対応でき(易成形)、さらに使用後に剥がし易いという離型フィルムです。スマートデバイス、家電製品、自動車内外装などの加飾に適した成形転写基材フィルムとして、あるいはラベル、テープ、電子部品などの分野に、用途展開を進めて参ります。
成形転写は、基材(離型)フィルムに塗工した印刷(絵柄など)層などの機能性塗膜を、対象となる製品(被着体)へ転写、付着させる技術です。まず、離型フィルムに、ハードコート、印刷層、接着層といった機能性塗膜の塗工・乾燥を行います。次に、真空、圧空、プレスなどにより、被着体の形状に沿って密着させ、塗膜を被着体へ転写させた後に、離型フィルムを剥離し、最終製品を得ます。
樹脂、金属等の表面に絵柄や意匠を付与する加飾の分野においては、環境低負荷、表面高付加価値化が求められており、従来の塗装やメッキなどの技術に代わって、フィルムを用いた立体的(3D)デザインへの加飾が注目されています。その中でも、成形後にフィルムを剥離する転写方式は、フィルムを最終製品に貼付する方式とは異なり塗装と同構成の設計が可能であり、貼付方式では必要なトリミング工程も無いことから、今後の拡大が期待されています。
成形転写基材に使用されるフィルムには、印刷層などの塗工後、乾燥時(通常80℃程度)に熱変形しない塗工耐熱性(寸法安定性)と、成形時(低いもので120℃程度)に被着体の形状に沿う易成形、そして成形後にフィルムが容易に剥れる離型性が求められますが、全てを満足するフィルムはありませんでした。
これは、耐熱性には高弾性、易成形には低弾性という特性が必要とされるものの、例えば、耐熱性を重視し80℃における弾性率を高くすると、120℃での弾性率も高くなるため成形性が不十分となり、易成形を重視し120℃での弾性率を低くすると80℃での弾性率も低くなり塗工耐熱性が低下してしまうためです。従来技術にとって、80℃と120℃の温度差の範囲で弾性率を大きく変化させることは不可能でした。
塗工耐熱性と易成形を両立させるため、耐熱樹脂と成形性に優れる樹脂を混合させると、各々の樹脂の中間の特性を示します。東レは、独自の“ナノアロイ®”技術と、長年培った製膜時の高精度積層技術を駆使した三層構造のフィルムを開発し、ターゲットとする温度における弾性率を1MPa~3000MPaまで自由に制御できることを可能にしました。この技術を用いて、塗工・乾燥温度領域においては高弾性を示し成形温度領域では低弾性となるような構造設計を行い、80℃で寸法安定する塗工耐熱性と120℃で伸度1000%以上といった易成形を両立しました。
また、本開発品は、表面張力が比較的低いとされるポリオレフィンを主成分としているため離型性に優れており、成形転写後の剥離が容易です。さらに、お客様のご要望に応じて、特殊表面処理により、離型・密着性を制御することも可能です。
要求される性能を高レベルで達成できる本離型フィルムは、デザインの多様化が加速するスマートフォン、タブレット端末、薄型軽量ノートPCといったスマートデバイス、家電製品、自動車内外装などの加飾分野や、ラベル、テープ、電子部品などの分野へ、用途展開を進めて参ります。東レは今後、量産体制を整え、早期の本格生産を目指します。
本離型フィルムの性能および技術ポイントは下記のとおりです。