CSR活動報告(各CSRガイドラインの活動報告) - 事業を通じた社会的課題解決への貢献

ライフイノベーション事業拡大プロジェクト

ライフイノベーション製品売上収益(IFRS)

■報告対象範囲
東レグループ
■目標値
3,000億円(2022年度目標)

実績値(2022年度)

3,696億円

「人の健康・医療」を取り巻く状況は、先進国での少子高齢化と社会保障費の増大、グローバルでの医療格差といった従来からの課題に、気候変動によるヘルスケアへの影響や新型コロナウイルス感染症の脅威が加わり、歴史的な変革期を迎えています。
東レグループは、創業以来の高分子材料研究をコアに、人の健康・医療をサポートするライフサイエンス事業に取り組んできました。
2014年度に中期経営課題“プロジェクト AP-G 2016”と同時にスタートしたライフイノベーション事業拡大(LI)プロジェクトは、医療の質の向上、医療現場の負担軽減、健康・長寿に貢献する事業に焦点を当て、東レグループの先端材料、コア技術・要素技術、事業基盤を活用して、人々の健康に貢献することを目的とした全社プロジェクトです。
さらに、2020年度に開始した中期経営課題“プロジェクト AP-G 2022”においては、「人の安全」に関わる製品事業(感染症や異常気象(酷暑など)、災害、事故から人々の身を安全に守る製品)を加えて強力に推進しました。

ライフイノベーション製品の定義とガイドライン

医療の質向上・医療現場の負担軽減

  • 治療に用いる製品、検査、診断に用いる製品、医療現場で用いる資材・製品

健康・長寿社会のサポート

  • ウェルネス、健康、自立した状態の継続、高齢者、要介護者のADL(Activity of Daily Living)向上、介護現場(支援スタッフ、家族)の負担軽減、公衆衛生

人の安全のサポート

  • 災害、異常気象(酷暑など)、事故、感染症から素材の力で身を守る

LI事業の売上高(2020年度からは売上収益)は、2014年度の1,422億円から年々増加しており、2022年度は3,000億円という目標に対し、3,696億円となり東レグループ連結売上収益の15%を占めています(2020年度より「人の安全」領域を追加)。

ライフイノベーション事業の売上高(売上収益)推移(東レグループ)
ライフイノベーション事業の売上高(売上収益)推移(東レグループ)
  1. 2020年度から2022年度の実績および2022年度の目標数値は国際会計基準(IFRS)ベースの売上収益です。

2023年度からの中期経営課題“プロジェクトAP-G 2025”ではLI事業をGR事業と統合してサステナビリティイノベーション(SI)事業と改め、さらなる拡大を目指していきます。

LI製品関連のトピックス

「JIS T 8115化学防護服タイプ4」(スプレー防護用密閉服)に適合する防護服リブモア4500ASの販売を開始

リブモア4500ASリブモア4500AS

高い粉じん防護性および耐水性と通気性を両立する生地を用い、さらに縫い目部分にシームテープを付けて製品の耐水性を高めることで、「JIS T 8115化学防護服タイプ4」(スプレー防護用密閉服)に適合する防護服「リブモア4500AS」(以下、本製品)を開発しました。
本製品の生地は、当社が2021年に開発したもので、緻密性の高い特殊耐水層(メルトブロー不織布)を、耐久性の高いスパンボンド不織布で挟み込んだ3層構造です。特殊耐水層の不織布を極めて緻密な構造に制御することにより、粉じん防護性に加え、従来のSMS(スパンボンド・メルトブロー・スパンボンドの3層不織布)製法では難しかった耐水圧1,000mmH2O※1を実現しながら、約7cc/cm²・secの通気性を併せ持ちます。また生地には帯電防止機能を付与しています。
「JIS T 8115化学防護服タイプ4」に適合しながら約7cc/cm²・secの通気性を持つ防護服は世界初です。※2
本製品は廃棄物焼却施設でのダイオキシン類対策や製造設備の大規模定期修繕作業など耐水性を必要とする作業現場をはじめ、化学プラント、メンテナンス、汚れ作業、アスベスト除去など、さまざまなシーンで使用できます。
リブモアは2017年に発売以来、粉じん防護用、感染対策用、クリーンルーム用(滅菌仕様)などの多岐にわたる用途に向けて商品ラインナップを拡大してきました。引き続き快適性と機能性を両立した製品を開発し、さまざまなニーズに対応していきます。

  1. ※1 縫い目部分の耐水圧は1,000mmH2O未満。
  2. ※2 当社調べに基づく。

即効性に優れる新たな抗ウイルス粒子を開発※3

従来のウイルス感染対策として、消毒液のような薬剤による消毒は即効性が高く有効である一方、短時間で揮発するため定期的な消毒が必要です。また、揮発しない金属系の抗ウイルス剤は、一般的に持続性はありますが、ウイルスを99.9%不活化するのに1時間以上かかるものが多く、即効性と持続性の両立に課題がありました。
これに対して当社は、これまでに培った機能性粒子の設計・合成技術と表面制御技術を活用した、酸化セリウム粒子の独自の合成方法と表面処理技術により、ウイルスに対する吸着性と酸化分解機能を付与することで、新型コロナウイルスを15秒で99.9%以上、5分で99.99%以上不活化する、抗ウイルス粒子を開発しました。本粒子のウイルス不活化速度は、従来の金属系抗ウイルス剤と比較して約100倍以上と、世界最高レベルの即効性を実現しました。
また、本粒子は揮発せず、薬剤や金属イオンなど有効成分の徐放によるウイルス不活化原理とは異なるため、効果の持続性が期待できます。さらに、危険有害性が低く、耐変色性や耐腐食性にも優れています。
本粒子は、建築材料や塗料、包装材料などへの適用が可能なため、不特定多数の人が集まりウイルス感染対策が必要な公共スペース、公共交通機関、飲食店、医療・介護施設、学校などにおける内壁や手すり、身近で多く接触機会のある家電や食品包装など、多岐にわたる製品への展開が期待できます。
また、本粒子はコーティング加工や練り込み加工にも対応が可能なため、当社のマスクおよび医療用ガウン用途向け不織布や、エアフィルター、カーシートなど、飛沫感染や接触感染対策のため抗ウイルス性能が期待される製品に広く適用していきます。

本開発品のウイルス不活化原理
本開発品のウイルス不活化原理
  1. ※3 本成果の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託業務「マテリアル・バイオ革新技術先導研究プログラム」の下、麻布大学獣医学部、田原口智士教授との共同研究により得られたものです。

心房細動治療用アブレーションカテーテル「HotBalloon」の持続性心房細動への保険適用を取得

SATAKE・HotBalloonカテーテルSATAKE・HotBalloonカテーテル

当社が製造販売承認を取得し、東レ・メディカル(株)が日本国内にて販売する心房細動治療用アブレーションカテーテル「SATAKE・HotBalloonカテーテル」(以下、「HotBalloon(ホットバルーン)」)について、薬剤抵抗性を有する再発性症候性の持続性心房細動に対する保険適用を取得しました。
心房細動は、心臓の心房と呼ばれる部位で生じた異常な電気的興奮によって生じる不整脈です。この不整脈が継続する期間により、発作性心房細動(発症後7日以内に消失)、持続性心房細動(発症後7日を超えて持続するもの)、長期持続性心房細動(発症後1年を超えて持続するもの)および永続性心房細動(除細動不能なもの)の4つに分類されています。
日本では心房細動に対するアブレーションが年間約7万例行われており、その2割が持続性心房細動であるとされています。
HotBalloonは、2015年に薬剤抵抗性を有する再発性症候性の発作性心房細動に対するアブレーションカテーテルとして承認を取得し販売していますが、近年、持続性心房細動についてもHotBalloonで治療を行いたいというニーズが高まっていました。
こうした要望を受け、当社はHotBalloonの適応に薬剤抵抗性を有する再発性症候性の持続性心房細動を追加する薬事承認を2021年10月に取得し、2022年5月から保険適用となりました。これにより、持続性心房細動患者様に対し新たな治療の選択肢を提供できると考えています。

膵がん患者血液中のアポリポ蛋白A2アイソフォーム濃度を測定する検査試薬を、体外診断用医薬品として厚生労働省へ製造販売承認申請を実施

当社は、2022年6月27日に、血液中のアポリポ蛋白A2(以下、「APOA2」)アイソフォーム濃度を測定する検査試薬(以下、「本試薬」)を、体外診断用医薬品として厚生労働省へ製造販売承認申請をしました。
APOA2は、高比重リポタンパク質(High Density Lipoprotein : HDL)の主要構成成分のタンパク質の1つです。APOA2は全長77個のアミノ酸からなり、C(カルボキシル)末端に、アラニン(A)、スレオニン(T)、グルタミン(Q)のアミノ酸配列を有し、血液中では、全長のタンパク質(APOA2-ATQ)とC末端が分解したアイソフォーム(APOA2-AT)が共存しています。
学校法人日本医科大学大学院医学研究科 本田一文大学院教授(前国立研究開発法人国立がん研究センター早期診断バイオマーカー開発部門長)は、膵がん患者の血液中で、2種類のAPOA2アイソフォーム(APOA2-ATおよびAPOA2-ATQ)の量比が変化することを発見しました。
この研究成果に基づき、当社は、国立がん研究センターおよび日本医科大学との共同研究の実施ならびに国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究成果の活用により、APOA2アイソフォームを測定する試薬の体外診断用医薬品としての開発を進めてきました。
本試薬は、サンドイッチ法を原理とする酵素免疫測定法(ELISA)により、当社が独自に取得した抗体を用いて、膵がんが疑われる患者の血液中の2種類のAPOA2アイソフォーム(APOA2-ATおよびAPOA2-ATQ)濃度を測定するものです。

「CSRロードマップ 2022」におけるCSRガイドライン7「事業を通じた社会的課題解決への貢献」の主な取り組みはこちらをご覧ください。