CSR活動報告(各CSRガイドラインの活動報告) - 事業を通じた社会的課題解決への貢献

GR製品分野の取り組み

東レグループでは、2022年度までGR製品を下図に示す手順に従って認定していました。各本部委員会とグリーンイノベーション認定委員会による2段階の審査を経て、地球環境問題の解決効果が客観的な裏付けに基づいて立証された製品がGR製品として認定されました。
2023年度からはGR製品とLI製品を統合し、サステナビリティイノベーション製品(SI製品)と改称したことに伴い、GR製品の認定制度を踏襲したサステナビリティイノベーション認定委員会(仮称)に引き継いでいく予定です。

GR製品認定手順
GR製品認定手順
  1. ※1 LCAデータ、T-E2Aデータ、CO2削減貢献量 など
  2. ※2 グリーンイノベーション認定委員会:地球環境事業戦略推進室、マーケティング企画室、技術センター企画室と、必要に応じて有識者を招聘

2022年度に発表したGR関連の製品事例・研究開発事例

漁網由来のケミカルリサイクル繊維製品の販売開始
-国内での回収循環型リサイクルシステムを拡大-

使用済みの廃棄漁網使用済みの廃棄漁網

東レ(株)は、再資源化事業者の(株)リファインバースグループが回収漁網からつくる再生樹脂などを原料に、東レ独自の解再重合※3技術を活用したナイロン6ケミカルリサイクル(以下「N6CR」)繊維製品の国内での販売を開始します。
東レ(株)は、2022年に名古屋事業場(愛知県)で、新たに漁網由来再生樹脂の原料投入設備や再生ラクタムの貯留槽などを導入した、石油由来バージン原料と識別する生産体制を整えました。本設備はナイロン6繊維製品の再資源化に活用でき、先進的な「繊維to繊維リサイクル」ビジネスを加速させ、資源循環型社会の実現に貢献します。
今回のN6CR設備導入により、衣料用ナイロン繊維では、これまで技術的に困難であった新たな高機能・高付加価値タイプの商品ラインナップ強化が可能となり、環境配慮型素材・製品へのニーズが高まっているスポーツ・アウトドア向け薄地織物やインナー・レッグアパレル向けなどを中心に販売拡大する計画です。
また、産業用ナイロン繊維では、自動車部品やロープ、漁網、カーペットなどの一般産業資材向けに幅広く使用される繊維において、産業分野での環境負荷の低減と持続可能な循環型の資源利用の拡大・促進につながる取り組みとなります。
東レ(株)はお客様と当素材を使用した製品販売の取り組みを進めることで、先進的な「繊維to繊維リサイクル」ビジネスを拡大していきます。

  1. ※3 解再重合:ポリマーを分子レベルまで切断し、モノマーに戻した上で、添加物を除外し、再度モノマーを重合してポリマーを作ること。

世界初 非可食バイオマスを原料とする糖からナイロン原料を創出
-環境配慮型ナイロン66の実用化に向けたバイオアジピン酸の合成に成功-

東レ(株)は、植物の非可食成分から得た糖を原料とし、微生物発酵技術と、分離膜を活用した化学品の精製技術を組み合わせた独自の合成方法により、ナイロン66(ポリアミド66)の原料となる、100%バイオアジピン酸を開発しました。非可食バイオマス由来の糖を原料としたアジピン酸の開発は世界初です。
スケールアップ検討を開始し、今後ナイロン66の重合試作、生産技術開発、市場調査など進め、2030年頃までに実用化を目指します。
ナイロン66は、耐久性や強度、剛性に優れており、繊維や樹脂としてさまざまな用途で長年使用されていますが、環境配慮型のナイロン66の開発に対する要望が増えています。また、ナイロン66の原料であるアジピン酸を従来の化学合成法で製造する場合、温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)が発生することも課題のひとつです。
今回東レ(株)は、糖からアジピン酸中間体を生成する微生物を世界で初めて発見しました。そして微生物内でより効率的に合成が進むように人工的に遺伝子を組み換える遺伝子工学技術や、合成に最適な微生物発酵経路の設計といった情報生命科学技術を活用し、微生物内の代謝経路を効率的なものに作り変えることに成功しました。これにより、微生物が生成する中間体量が、発見当初と比較し1,000倍以上に向上し、合成効率の飛躍的な向上を実現しました。
また、精製の過程で中間体の濃縮に逆浸透分離膜(RO膜)を利用することで、RO膜を利用しない場合と比べ、より少ないエネルギーでの濃縮が可能となります。
さらに、この方法で得られるバイオアジピン酸は、石油由来アジピン酸の製造工程で発生するN2Oを全く発生させないため、地球温暖化の抑制が期待できます。

【非可食バイオマス由来の糖からナイロン66までのプロセス全体図】
【非可食バイオマス由来の糖からナイロン66までのプロセス全体図】

なお、本成果の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成業務の結果得られたものです。

使用済みリチウムイオン電池からリチウムを回収する分離膜を創出
-耐酸性を飛躍的に向上した高リチウム選択性ナノろ過膜を創出-

廃リチウムイオン電池からのリチウム回収廃リチウムイオン電池からのリチウム回収ナノろ過膜によるリチウムの分離ナノろ過膜によるリチウムの分離

東レ(株)は、今後大量発生が見込まれる車載用の使用済みリチウムイオン電池から、現状では大部分を廃棄しているリチウムを回収可能な、新規ナノろ過(NF)膜を創出しました。既に実液を用いた回収評価を開始しており、早期実用化を目指して、研究・技術開発を加速します。
リチウム資源は、電気自動車の普及に伴い需要の急増が見込まれています。しかし、現在のリチウムの主要な供給源である塩湖法※4は、リチウム産出量の多い塩湖が限られていることが課題となっています。また、鉱石法※5は、生産工程が長く、高温での熱処理が必要になることから、CO2排出量が多く、大幅なコスト高となるため、高価格が既に課題となっているリチウムイオン電池がさらに高騰するリスクがあります。
NF膜は、溶解している多価イオンや有機物を選択的に分離する特徴を有し、地下水や河川水から硬度成分や農薬を除去する用途のほか、食品・バイオ用途での脱塩・精製などに用いられます。一方、従来のNF膜では、強酸に対する耐久性が不足しているため、適用範囲が中性領域に限られること、さらに多価イオンに対する選択分離性が十分ではなく、効率的な分離ができないといった課題がありました。そのため、使用済みリチウムイオン電池から、強酸を用いて有価金属を浸出・回収する試みに対し、NF膜を適用することができませんでした。
東レ(株)は、DX技術の活用により、酸による膜の性能劣化メカニズムと選択分離に最適な膜の細孔構造を解析した上で、有機合成化学/高分子化学/ナノテクノロジーを駆使し、強固な耐酸性構造と1nm以下の精密な細孔構造を兼ね備える架橋高分子膜の創出に成功しました。これにより、従来品比で約5倍の耐酸性と約1.5倍のイオン選択分離性を実現しました。
本NF膜を適用することにより、有価金属を効率的に回収でき、現状では大部分を廃棄しているリチウムを、高純度かつ高収率で回収することが可能となります。さらに、リチウム1kg製造時のCO2排出量は、鉱石法の最大約1/3に削減できます。
今後、自動車メーカー、電池メーカー、電池材料メーカー、リサイクル業者などと連携し、リチウムのリサイクル方法を確立することで、電気自動車普及に伴うリチウムの供給懸念を解消し、カーボンニュートラルの実現に貢献していきます。

  1. ※4 塩湖法:塩湖からかん水を汲み上げ、半年~1年半かけて天日による濃縮精製工程を経てリチウムを生産する方法。
  2. ※5 鉱石法:鉱石を採掘後、選鉱、焙焼、浸出、精製工程を経てリチウムを生産する方法。

「CSRロードマップ 2022」におけるCSRガイドライン7「事業を通じた社会的課題解決への貢献」の主な取り組みはこちらをご覧ください。