CSR活動報告(各CSRガイドラインの活動報告) - 事業を通じた社会的課題解決への貢献

サステナビリティイノベーション製品分野の取り組み

東レグループでは、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」で掲げる4つの世界の実現に向けて、事業を通して社会への貢献と自社の環境負荷低減を推進しています。サステナビリティイノベーション(SI)製品の定義は、「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」に示す、「気候変動対策を加速させる製品」、「持続可能な循環型の資源利用と生産に貢献する製品」、「安全な水・空気を届け、環境負荷を低減する製品」、「医療の充実と公衆衛生の普及促進に貢献する製品」の4領域に貢献する製品・技術の総称です。SI製品を認定するため、SI製品認定委員会を新設し、SI製品を下図に示す手順に従って認定しています。各本部委員会、主管部署とSI製品認定委員会による3段階の審査を経て、サステナビリティへの貢献に向けて客観的な裏付けに基づいて立証された製品がSI製品として認定されます。

SI製品認定手順
SI製品認定手順
  1. ※1 ライフサイクルアセスメント(製品に関係する資源の採掘から、素材や部品の製造、流通、使用、廃棄に至るまでのライフサイクル全体での環境負荷を定量的に評価する手法)やライフサイクルインベントリ(製品やサービスのライフサイクルにおける環境負荷項目の入出力一覧)をもとにした分析データ、CO2削減貢献度、用途・使用部材の詳細など
  2. ※2 主管部署(担当領域)
    ■経営企画室SI戦略グループ(カーボンニュートラル、ネイチャーポジティブ)
    ■環境ソリューション室(サーキュラーエコノミー)
    ■サステナブル技術推進室(ライフイノベーション)
  3. ※3 サステナビリティイノベーション製品認定委員会:SI事業拡大プロジェクトリーダー(委員長:営業全般担当)、経営企画室長/SI戦略グループ担当役員、マーケティング部門長、技術センター企画部門長と、必要に応じて有識者を招聘

2023年度に発表したSI関連の製品事例・研究開発事例

優れた撥水性能をPFASフリーで実現したストレッチテキスタイル「DEWEIGHT (デューエイト)」の開発

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東レ(株)は、PFAS(有機フッ素化合物の総称)を使用した加工を一切行うことなく、優れた撥水性能を実現したストレッチテキスタイル「DEWEIGHT (デューエイト)」を開発しました。
開発した新素材は、蓮の葉や蝶の翅のような撥水性の高い天然物の構造を模倣しています。これらの天然物が持つ大きな凹凸の上に微細な凹凸があるマルチラフネス構造を参考に、テキスタイル表面を水滴が転がるように滑落する優れた撥水性と肌離れの良いサラッとした心地よい着心地を提供します。
この構造は繊維断面を精密に制御した新しい原糸と、形態の異なる2種類のスパイラル構造を発現させる特殊な高次加工技術(NANODESIGN※4)によって実現しており、体に蓄積される有害性が指摘され、規制が強化されるフッ素系の撥水材での加工を一切行うことなく、優れた撥水性を達成しました。
「DEWEIGHT 」は、「雨の日もおしゃれをして、快適に出かけたい」といったお客様の要望に応えるべく開発しており、今後はタウンユースとして、メンズ・レディス用にアウターからボトムスまで展開予定です。

テキスタイル外観 テキスタイル表面 糸束断面
  1. ※4 複合紡糸技術「NANODESIGN」ウェブサイト:https://www.nanodesign.toray/

高耐久性逆浸透(RO)膜を開発、廃水再利用の効率化やCO2排出量の半減に期待

東レ(株)は、工場廃水の再利用や下水処理などにおいて、処理性能を維持したまま従来製品より長期間安定して良質な水を製造できる、高耐久逆浸透(RO)膜を開発しました。本開発品は、膜の洗浄時の薬品に対する耐久性が従来比2倍に向上し、膜の劣化による処理性能の低下が抑えられます。交換頻度が半減されることで、運転管理の簡素化やカーボンフットプリントの改善が期待できます。
RO膜は持続的な水源を確保するための技術として、海水や河川水などの淡水化、廃水再利用、飲料水製造など幅広い用途で用いられています。
廃水再利用の分野では、処理性能を維持するために膜を洗浄する薬品の使用頻度が増加し、膜の孔が変形することで処理性能が低下する課題が発生しています。そのためRO膜には耐久性のさらなる向上が求められるようになりました。
東レ(株)は、(株)東レリサーチセンターが保有する最先端の構造解析技術(走査透過型電子顕微鏡:STEM※5)とデータ解析技術を用い、RO膜の分離機能層を構成する1 ナノメートル以下の微小な孔構造を定量的に解析しました。この解析に基づき、洗浄薬品に接触した際の孔構造の安定性に寄与する部分構造を見いだし、ポリマー構造を新たに設計することによって、安定な孔構造を有するRO膜を創出しました。

RO膜の構造解析結果
RO膜の構造解析結果

東レ(株)は、開発したRO膜を用いて、過酷な薬品洗浄条件を模擬した廃水再利用プラントでの運転試験を行い、得られる水の品質悪化を50%抑制する効果を実証しました。
高頻度の薬品洗浄が必要な下水処理場、化学・鉄鋼・染色工場等での廃水再利用をはじめ、廃水の排出量を無くすZLD(ゼロリキッドディスチャージ)※6への活用においてRO膜の寿命を延長することで、交換・廃棄に伴うCO2排出量の半減が期待できます。

  1. ※5 走査透過型電子顕微鏡(STEM : Scanning Transmission Electron Microscope):電子線を試料の一箇所ずつに照射しながら、透過した電子を検出することで高分解能の画像を得る装置。試料の元素組成や原子レベルの構造情報を得ることができる。
  2. ※6 ゼロリキッドディスチャージ(ZLD : zero liquid discharge):工場などから出る廃水をRO膜などで処理した後に環境中や下水道に放出せずに、濃縮装置や晶析装置を使用することで、最終的には固形廃棄物だけを排出し、途中段階で得られる水を再利用する仕組み。

膵がんの診断を補助する体外診断用医薬品「東レAPOA2-iTQ」の保険適用および販売開始

「東レAPOA2-iTQ」検査キット「東レAPOA2-iTQ」検査キット

東レ(株)は、膵がんの診断補助を使用目的とした体外診断用医薬品「東レAPOA2-iTQ(アポエーツーアイティーキュー)」(以下「本品」)を、2024年2月22日に日本国内にて販売開始しました。本品は、2月1日付けで保険適用されました。
本品による検査は血液を検体とするため、多くの方々が受診しやすい検査です。既存の腫瘍マーカーとは異なる物質を測定することから、従来検出できなかった膵がん患者を早期に検出できることが期待されます。
膵がん患者の血液中では、2種類のアポリポ蛋白A2(APOA2)アイソフォーム(APOA2-ATおよびAPOA2-TQ)※7の量比が変化することを、学校法人日本医科大学大学院医学研究科 本田一文大学院教授が発見しています。
この研究成果に基づき、東レ(株)は、学校法人日本医科大学及び国立研究開発法人国立がん研究センターとの共同研究の実施ならびに国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究成果の活用により、2種類のAPOA2アイソフォームの末端構造をそれぞれ特異的に認識する抗体を独自に取得しました。2023年6月には、その抗体を用いたAPOA2アイソフォームを測定する体外診断用医薬品として製造販売承認を取得し、本品を発売することとなりました。

本品は、腫瘍などによって生じた膵外分泌機能の異常から生じるAPOA2アイソフォームの構造変化を捉えるという原理をもち、既存の腫瘍マーカーとは原理が異なるため、本品と既存の腫瘍マーカーの1つであるCA19-9とは相補的なマーカーといえることから、従来検出できなかった膵がん患者を早期に検出できることが期待されます。

APOA2アイソフォーム
  1. ※7 APOA2アイソフォーム(APOA2-ATおよびAPOA2-TQ):アポリポ蛋白A2(APOA2)は、高比重リポタンパク質(High Density Lipoprotein : HDL)の主要構成成分のひとつ。APOA2は77個のアミノ酸からなる蛋白質であり、末端が「アラニン(A)-スレオニン(T)-グルタミン(Q)」であるAPOA2-TQと、末端のグルタミン(Q)が分解して「アラニン(A)-スレオニン(T)」となったAPOA2-ATが存在する。健常人ではAT型とTQ型が一定の濃度を維持して存在するが、多くの膵がんではそのいずれか、または両方が減少し、量比が変化することが知られている。AT型をAPOA2-AT 、TQ型をAPOA2-TQ、これらをまとめてAPOA2アイソフォームといい、本品では、血漿中の2種類のAPOA2アイソフォーム(APOA2-ATとAPOA2-TQ)の濃度をそれぞれ測定。
  2. ※8 HRP(Horseradich peroxidase):西洋ワサビの根から見つかった酵素。この酵素を標識した抗体は、発色反応を通じて目的とするタンパク質を間接的に検出。

「CSRロードマップ 2025」におけるCSRガイドライン7「事業を通じた社会的課題解決への貢献」の主な取り組みはこちらをご覧ください。