有識者からのコメント
2025年8月公表時点の情報に基づきいただいたコメントです。

九州大学
主幹教授
都市研究センター長
馬奈木 俊介氏
略歴
国連「新国富報告書」代表、国連・SDGs報告2023評議員、国連・持続可能性のための新しい資本円卓会議委員、経産省産業構造審議会臨時委員、環境省中央環境審議会臨時委員、第25期、第26期日本学術会議会員、日本学術会議「サステナブル投資による産業界のインパクト」代表などを歴任。世界最高峰の研究者として2023、2024年版クラリベイト高被引用論文著者に選出。
気候変動の1.5℃目標の達成には、今後25年間が極めて重要な節目となります。この期間の取り組みが、長期的なCO2排出削減の道筋と実現可能性を大きく左右します。仮に国際社会が計画通りに排出削減を厳格に実行したとしても、地球の平均気温は、今後約50年間は上昇が続くと予測されています。人類は気候変動の影響がより深刻化する未曾有の時代に足を踏み入れようとしています。
こうした状況の中、東レグループの革新的なサステナビリティイノベーション(SI)事業は、軽量化技術、新エネルギー、CO2削減技術などを通じて、気候変動によるリスクの軽減に不可欠であり、その重要性は今後さらに高まります。気候変動への適応を含めた課題が重要視されるほど、水処理膜や健康分野における新技術、製品開発を加速していくでしょう。
SI事業の売上は継続して1兆円を超え、SI製品認定制度を導入することで、カーボンニュートラル(CN)、サーキュラーエコノミー(CE)、ネイチャーポジティブ(NP)、ライフイノベーション(LI)の各分野において、特徴的な製品事例が出てきていることが分かりました。
次に、現在の経済・エネルギー安全保障の重要性の高まりを受けて、リスクマネジメントの重要性が増し、サプライチェーン全体における人権・環境デューデリジェンスがさらに注目されると言えます。
「CSRロードマップ2025」のKPIとして設定された、環境保全・人権尊重に配慮したパーム油を使用している油剤の購買比率、および「東レグループCSR調達行動指針」への同意を確認したサプライヤーの比率を、継続して改善されています。
今後、化学物質への規制を含めた大きなサプライチェーンの国際的な指針ができる際に、SI事業が更に大きくなることが期待できます。
サプライチェーンにおける高リスク課題を示すCSR調達のリスクマップでは、東レグループの技術にとって重要な温室効果ガスと水資源のリスクが小さく見える反面、化学物質と人権のリスクが大きく示されています。安全性を担保しながら、調達段階でもCO2排出や水資源への取り組みを強化し、インパクトの大きな成果を創出されることを期待しています。
公益財団法人パブリックリソース財団
代表理事・専務理事
岸本 幸子氏
略歴
東京大学教養学部卒。商社、シンクタンク勤務、留学を経て、2000年パブリックリソースセンター(現財団の前身)、2013年現財団を設立。同年より現職。日本の寄付文化の推進を目指し、個人や企業等からの寄付をソーシャルセクターにつなぐ仕組みづくりに取り組んでいる。企業のCSR活動の支援、インパクト評価にも携わる。編著書に「寄付を科学する」「社会課題解決のための金融手法と実務: 寄付・助成から革新的フィランソロピーへ」他。
1.「事業を通じた社会的課題解決への貢献」について
東レグループは、一貫して事業を通じた社会的課題解決への貢献に取り組んでおり、サステナビリティイノベーション(SI)事業の売上収益が、2024年度にはグループ連結売上収益の53%を占めるに至っています。2025年度からは、SI事業の拡大、気候変動対策、サステナビリティ情報開示の三領域において、社長直轄の新組織として「サステナブル経営推進室」を設置して活動を一元的に推進することになったことは、同社のサステナビリティへの姿勢を表すものだと思います。地球環境問題はますます深刻化しています。東レグループが技術開発力をベースとした取り組みにより、カーボンニュートラルの実現、温暖化の影響緩和に貢献していくことを強く期待します。また、バリューチェーン全体を視野にいれ、ステークホルダーとの連携を進めることで、社会課題解決の具体的なインパクトを最大化していくことを期待します。
2.「良き企業市民としての社会貢献活動」について
東レグループでは、寄付金や社会貢献活動にかかる人件費を含む社会貢献活動支出の規模を維持し続けています。
財団を通じ長期的な視点に立って基礎科学研究を資金支援する、自社製品を教材とした理科実験プログラムや環境教育プログラムを開発し、社員を講師として学校に派遣し出張授業を行う、事業所の立地する地域で清掃活動や生物多様性保全活動を行うなど、素材メーカーとしての経営資源を活かして多様な取り組みを展開していることに敬意を表します。出張事業で講師を務めた社員が「仕事へのモチベーションにつながった」、「社会からの期待を実感した」と感じるなど、社員の意識向上につながっていることも良い点だと思います。さらに、2024年のタイにおける大規模洪水被害に対して、タイ東レグループが義援金を拠出するなど、事業展開国の要請に地域コミュニティの一員としていち早く応えていることも良い点です。今後も東レグループらしい社会貢献活動を通じて、地球規模の社会課題の解決に貢献していくことを期待します。
3.「人権推進と人材育成」について
ここ数年、日本においても、ハラスメントなど人権に関する対応が企業や組織の存続に関わる事案が発生しています。また若者、女性、高齢者、外国人など多様な人々が共生する社会を創ることが、これからの日本社会の存続に重要な課題であることも認識されています。東レグループは、いちはやく人権方針を策定し、人材の確保と育成においても明確な方針を定め、企業における人権の取り組みの先駆けとなっています。「人を基本とする経営」を深化させて、企業価値の最大化と従業員の幸福度向上の両面を高めるための人材戦略を策定しただけでなく、進捗状況を確認するための従業員サーベイを実施していることも先駆的です。2024年8月に東レ版DE&I活動としてスタートしたHCM(Human-Centric Management)推進活動の今後の展開に期待します。
4.「持続可能なサプライチェーンの構築」について
東レグループでは、CSR調達アンケートによる現状把握と評価、CSR調達行動指針の遵守確認が着実に実施されています。アンケート結果をみると、人権・労働および環境保全に関する取り組み状況は、二次サプライヤーへの要請に関する項目を除くと、取り組み実施率が高水準であることが確認されています。二次サプライヤーへの働きかけをどのように支援していくか、今後の課題として期待します。また、環境保全・人権尊重に配慮したパーム油を使用した油剤の調達目標が迅速に達成されたことは、評価します。さらに、いわゆる物流の2024年問題に対応するため、経済産業省・国土交通省が主導するフィジカルインターネット実現会議内に化学品ワーキンググループを他社と協力して設置したことは、重要な取り組みであると期待します。