有識者からのコメント

2023年10月公表時点の情報に基づきいただいたコメントです

岸本 幸子氏

公益財団法人パブリックリソース財団
代表理事・専務理事

岸本 幸子

略歴
東京大学教養学部卒。商社、シンクタンク勤務、留学を経て、2000年パブリックリソースセンター(現財団の前身)、2013年現財団を設立。同年より現職。日本の寄付文化の推進を目指し、個人や企業等からの寄付を優れたNPOや社会起業家につなぐマッチングに取り組んでいる。企業のCSR活動の支援、インパクト評価にも携わる。近著に「寄付白書2021」他。

「東レグループCSRレポート2023」における「事業を通じた社会的課題解決への貢献」「良き企業市民としての社会貢献活動」「人権推進と人材育成」に関し、コメントを述べさせていただきます。

「事業を通じた社会的課題解決への貢献」について、東レグループが2023年3月に発表した中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”では、多様化するサステナビリティへの要請に対応すべく、グリーンイノベーション(GR)事業・ライフイノベーション(LI)事業をサステナビリティイノベーション(SI)事業に統合し、デジタルイノベーション(DI)事業と合わせて、これらの事業拡大に向けた取り組みを「SI&DIプロジェクト」として推進するとしています。さらに、2023年6月には、CSRの中期計画として新たに具体的な取り組みやKPIを定めた「CSRロードマップ 2025」を発表し、組織的かつ計画的にCSRを推進していることは高く評価されます。2022年度にGR事業の東レグループ連結売上収益に占める割合が40%、LI事業が同15%に達しました。今後とも社会的課題解決の視点から新規事業を展開する同社の取り組みに強く期待します。

「良き企業市民としての社会貢献活動」について、「CSRロードマップ 2025」では、「科学技術振興」「環境、地域」「健康、福祉」を重点分野として社会貢献活動を推進していくこと、SDGsに代表される地球規模の課題解決に貢献する社会貢献活動を実施していくことを目標としており、的確な方針設定がなされています。特に、国内外に設立した科学振興財団による継続的な取り組みや、社員が講師として参画する環境教育や理科教育の取り組みは、東レグループらしい社会貢献として共感がもてます。今後は、ボランティア休職・休暇の取得率をKPIに加えるほか、職業上のスキルや経験を活かして取り組む社会貢献活動である「プロボノ」の推進など、社員一人一人の自主性と社会性を尊重した取り組みを広げていくことを期待します。

「人権推進と人材育成」については、いちはやく人権方針を定め、人材の確保と育成において明確な方針を定めていることは好感がもてます。女性の積極的な登用の実現が課題ですが、2022年度には女性管理・専門職だけでなく、女性社員を部下に持つ男性管理・専門職も加えた研修が開催されたことは一歩前進といえます。女性の管理職比率や、将来のリーダー層を対象とした選抜型研修への受講者の女性比率引き上げなど、今後の取り組みに期待します。

馬奈木 俊介 氏

九州大学
主幹教授

馬奈木 俊介

略歴
2015年より、九州大学主幹教授・都市研究センター長・工学研究院教授・総長補佐。日本学術振興会賞受賞。日本学術会議「サステナブル投資による産業界のインパクト」委員長。国連「新国富報告書」代表、IPCC代表執筆者、IPBES統括代表執筆者、SDGsに関する国連報告書査読委員を歴任。世界、各国の新国富指標を代表し、持続可能性評価のための開発および自然資本の推進を行っている。主な著書に「ESG経営の実践」、「持続可能なまちづくり」、「新国富論」などがある。

東レグループは2023~2025年度を対象期間とした中期経営課題“プロジェクト AP-G 2025”を2023年3月に公表しており、「持続的かつ健全な成長」を目指し、2025年度の数値目標として財務目標とサステナビリティ目標をしっかりと明示しています。サステナビリティ目標にはバリューチェーンへのCO2削減貢献量という全体を包含した目線があり、2022年度実績が基準年度の2013年度比9.5倍であったものを、2025年度に15.0倍にするという目標は野心的です。また、水処理貢献量の拡大や生産活動による用水使用量の売上収益原単位削減とあるように、水に関する目標が強調されています。水は、CO2やエネルギーに比べると実際の使用量削減はより難しくなりますが、水処理貢献量の2025年度目標は2013年度比2.9倍、そして用水使用量の売上収益原単位は2013年度比40%削減とあり、さらに難しい目標を掲げて進まれていると思います。CO2はグローバルな課題、水はローカルな課題です。東レグループとしてその両面を向いているのは、「持続的かつ健全な成長」を達成していく中でステークホルダーを広く見ていることが分かり素晴らしいです。今後、バリューチェーン全体における水に関するデータを把握していくと資源効率を包括的に改善することにつながると思います。

2023年6月には、CSRの中期計画である「CSRロードマップ 2025」(対象期間:2023-2025年度)を公表しており、東レグループのCSR活動を良くまとめています。前期の「CSRロードマップ 2022」(対象期間:2020-2022年度)の2022年度KPI達成状況を見ますと、企業統治、倫理とコンプライアンス、安全・防災・環境保全、リスクマネジメント、人権推進と人材育成、サプライチェーンにおけるCSRの推進、良き企業市民としての社会貢献活動など、東レグループがCSRガイドラインごとに設定したさまざまなKPIの達成状況が分かります。環境、人権関連などのデータはサプライチェーンまでの把握が求められていきますので、その取り組みを今後も推進いただきたいと思います。社会貢献活動に関しては、年間1,500件以上を実施し、出張授業やキャリア教育などの教育支援活動の受益者数を年間10,000人以上にしていくことは素晴らしい活動です。是非、取り組みの見える化を引き続き進め、地域に入り込むグローバルな企業である東レグループを見せてほしいです。地域への貢献の連続がグローバルな貢献へとつながり、それは東レグループだからこそ出来ることだと思います。先端的な事例を出し続けて、地球規模の課題の解決への貢献を通じた「持続的かつ健全な成長」の実現を目指すことを期待しています。