A MATERIALS WORLD特集記事

#12

自然豊かな明日を支える東レの先進素材

生命の源である自然環境を次世代につないでいくため、わたしたちは知恵と創造力を駆使して環境保全への試みを続けていかなければなりません。

地球環境が激変するなか、自然の動植物を守るため、いま先進素材に大きな注目が集まっています。

温暖化、水不足、希少種絶滅、高齢化と医療など、時代が抱える難問に対し、わたしたちは最新化学の力で自然を探求し解決策を見出そうとしています。

デジタルがわたしたちの暮らしのあらゆるものを仮想化している今日においても、生命の根本はフィジカルな世界にあり、その意味で物理世界の重要性は日増しに強まっています。自然にとっても、人間にとっても、健やかであるためには澄んだ空気、清らかな水が不可欠です。それがなければどんな生命も存続できません。だからこそいま、傷ついた自然を癒し快復させる素材が求められているのです。それは持続可能な明日への礎石となります。

欧州評議会主催の「世界素材サミット2017」の宣言で研究者たちは「解決策がどうあれ、環境保全や生活の質についての未来を左右するのは素材である」と述べています。

傷ついた環境を快復させる

なかでもとくに深刻なのは気候変動と希少種の絶滅です。国連はその調査で地球上に生息する800万種の動植物のうち100万種が絶滅の危機にあると警告しています。こうした事態は人類史上例を見ません。またこれは単に希少種の絶滅に終始する話ではなく、飢餓、貧困、健康、水、都市、気候、海洋、土地に関する国連の持続可能な開発目標(SDGs)のうち、80%に及ぶ目標の達成にも大きな悪影響を及ぼすとされています。

報告書をまとめた政府間パネルの議長ロバート・ワトソン卿はこれについて「われわれは世界のあらゆるところで、経済や食料、健康や生活の基盤を自ら蝕んでいる」と述べています。

産業革命以来、人類は環境に有害物質を撒き散らしてきました。それはわたしたちの責任です。だからこそいま、環境をもとに戻すため、素材が持つ自然治癒力に目を向けなければならないのです。

「素材には社会を変える力がある」と話すのは、東レの日覺昭廣社長です。同社はこれまで、気候変動、水不足、資源枯渇、高齢者医療といった地球規模の課題に挑む素材開発に取り組んできました。

素材革命は、まったく新しいアプローチで人間社会と環境のほころびを繕い始めています。

素材の力で循環型社会を

サハラ砂漠に面したモロッコの乾燥地帯では、東レの製品を活用した巨大ネット“クラウドフィッシャー”が霧から貴重な飲み水を生みだしています。また、百万分の1ミリというナノの世界では、東レの高分子逆浸透膜が、海水の淡水化に効果をあげ、グローバルな水資源の危機に希望をもたらしています。

衣料の世界では、デジタルテクノロジーの進展によって、着るだけで健康状態を測定できる高機能繊維や、袖口に触れてスマートフォンを操作できる服が登場しています。また、自然そのものが環境問題を解決した例も。サトウキビが新たなポリエステル繊維を創りだし、菌類が生分解性のある包装用素材を生みだしています。

そのほかにも東レの先端素材は多くの分野に広がっています。鉄の1/4の重量で10倍の剛性を備え、CO2削減にも効果を発揮する炭素繊維、がん治療やアルツハイマー病の次世代療法の開発に役立つ高精度マイクロアレイDNAチップなどはその一例に過ぎません。

東レは、自然豊かな明日を支えるべく、画期的な新素材開発にも積極的に取り組んでいます。

たとえば世界に先駆けて100%バイオマス原料から試作されたポリエチレンテレフタレート(PET)繊維。これは綿のように環境に優しい衣料用ポリエステルとなる可能性があります。東レは気候変動緩和のためのツールと期待されるこの素材の研究を続けています。このほかにも東レの研究開発ポートフォリオには、バイオマス由来の樹脂やフィルムがあります。

また、従来の結晶シリコンではなく有機化合物を使った次世代型太陽電池の実用化にも取り組んでいます。極薄のこの素材は無機物であるシリコンより光吸収値が高く、室内などでも効率的に稼働します。薄膜型太陽電池は衣服に縫い付けたり、建物の窓や側壁に貼ったりできるため、室内センサーの電力源としてIoTに革命をもたらすと期待されています。

「素材メーカーとして、グローバルな課題解決のために素材はどうあるべきか、また素材の力をどう活かすか。そのことを常に念頭に置いて製品開発を行っています」と日覺社長は語ります。

「国連のSDGsやパリ協定の達成目標は、公共の利益となるだけでなく、環境と共存する明日につながっていきます。それを胸にこれからも素材開発に取り組んでいきます」。

社会に貢献する東レの企業姿勢は1926年の創業時にまでさかのぼります。当時日本の衣料産業は綿や羊毛の輸入原料に頼っていました。しかし、東レが開発したレーヨンの国産化により衣料産業が活性化し、その後の国内の経済発展に貢献しました。

東レの企業理念は「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」。ここには革新的な発想、技術、製品を通じ、社会や人類のよりよい未来に貢献していこうとする同社の創業理念が表れているといえるでしょう。

本コンテンツは、WSJ Custom Studiosによって制作されたオリジナルコンテンツの和訳です。(2019年制作)

Written by The Wall Street Journal Custom Studios, 2019