A MATERIALS WORLD特集記事

#02

明日につながる繊維
– 石油ではなくサトウキビから環境に優しいポリエステルを

東レが開発した植物由来ポリエステル繊維は、衣料の世界を変えるだけでなく、地球環境保全を後押しします。このエコ素材は市場からも歓迎されるでしょう。

“植物由来”ポリエステルというと一見奇異な印象を受けるかもしれませんが、日常で用いられる衣料や布地、たとえばスキー旅行で着るパーカー、映画館スタッフのユニフォーム、カーシートの裏地などに、近くこのサトウキビを粗原料とするポリエステル繊維が主に使われることになるかもしれません。

地球温暖化を招く石油由来繊維からの脱却をうながすという意味で、この新しい繊維は地球環境保全に役立つ画期的な技術です。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は最新報告書のなかで、化石燃料依存からの脱却の必要性は危機的な状況にあり、地球の平均気温が1.5℃以上上昇した場合、深刻な難民問題が発生し、夏には氷結していない北極海が出現するなど、壊滅的な状況になると警告しています。また、原油埋蔵量に関してもこのままのペースで採りつづければ50年で枯渇するといわれており、新しいエネルギー資源の確保が不可欠となります。わたしたちが日々使っているプラスチックや化学繊維など石油由来製品についても同様のことが言えます。

世界経済フォーラムは「地球環境と経済的安全保障は切り離しては考えられない」と指摘し、持続的成長の阻害要因に「温室効果ガス、環境劣化、天然資源の枯渇」を挙げています。

環境保全に向けた課題

東レが開発した植物由来ポリエステル繊維は日常用途を通じて環境保全に役立ちます。すでにハイキング用やスキー用の透湿防水性ジャケットに採用されており、さらに価格が手頃になればその価値が認められ幅広い用途に普及すると見られています。「将来、世界各地の学校の制服に植物由来ポリエステルが採用される日が訪れるかもしれません」と東レは話しています。

この素材は、サトウキビ廃糖蜜を粗原料とする植物由来エチレングリコールと石油由来テレフタル酸を重合し溶融紡糸した部分植物由来のポリエステル繊維。その原料の割合は、現在、廃糖蜜30%、石化燃料70%ですが、東レは植物由来原料100%をめざし開発を進めています。植物由来原料からなるテレフタル酸を製造することができれば、大きなブレイクスルーとなると考えられています。

植物由来のポリエステル繊維は、温室効果ガスの排出を大幅に減らします。使用後に焼却された場合でも、原料となるサトウキビが成長過程で光合成により吸収していたCO2の量によってそのCO2排出は相殺されます。

溶解紡糸前の部分植物由来ポリエステル繊維は、繊維としての性能は石油由来と同じでありながら、溶解紡糸前の状態で、部分植物由来の場合でCO2排出を13%以上減らします。もしこれが完全植物由来となれば、最大58%のCO2削減が見込まれています。

環境保全ソリューションのトレンド

植物由来ポリエステルの開発はまだ始まったばかりですが、アパレル業界では急速に普及が進んでいます。東レの植物由来ポリエステル「エコディア®」は昨年、前年比で3倍の売上を記録しました。

「環境問題が深刻化するにつれ、植物由来ポリエステルへの切り替えが増え、今後も継続して伸びると予想されます」と東レは話します。

植物由来ポリエステルは現在、石油由来のものよりコスト高ですが、技術の成熟につれ、価格は着実に下がっていくでしょう。逆に石油価格は、埋蔵量の枯渇や新興国の電力需要によって上昇傾向にあり、これを見ても、植物由来繊維の市場競争力は高まると考えられます。とくに先進諸国がCO2排出規制のため炭素税を導入するようになれば、その流れに拍車がかかります。

ポリエステルがすべて植物由来に置き換わる日は、はたして来るのでしょうか?そのためには石油由来よりも価格を下げ、全世界で年間約5,000万トンを生産できなければなりません。「難しい課題ですが、もし実現できれば、石油由来が植物由来に置き換わります」と東レは話します。難しければ難しいほど、実現したときの成果は絶大です。現状のポリエステル生産でCO2を13%削減できれば、年間3,000万トンの温室効果ガスを大気中から取り除くことができます。米国環境保護局の算定によれば、これは自動車で650万台分、電力消費で330万世帯分の排出量にあたります。

先端化学が生みだす植物由来ポリエステルとともに、環境社会実現の夢がまた一歩前進します。暖かい透湿防水性ジャケットを着て山登りをすることが、地球環境保全につながっていく。国連の掲げる持続可能な開発目標(SDGs)には、「つくる責任、つかう責任」(12)、「気候変動に具体的な対策を」(13)というグローバル目標がありますが、もしかするとそれを達成し、明日の世界の繁栄をもたらす道筋は意外にもサトウキビ畑で見つかるかもしれません。

本コンテンツは、WSJ Custom Studiosによって制作されたオリジナルコンテンツの和訳です。(2019年制作)

Written by The Wall Street Journal Custom Studios, 2019