PROJECT STORY 04
研究・技術・営業・お客様が
一体となった東レ流ものづくり
超純水用水処理膜の開発

東レ各部門とお客様の連携

お客様からの厳しいご指摘から始まった
超純水用水処理膜の開発

「極限追求」「深は新なり」「一つのことを深く掘り下げていくと、新しい発明・発見がある」
東レの技術者はこの言葉を歴代の先達から脈々と受け継いできました。
「いかに細い繊維を作るか」、「いかに薄いフィルムを作るか」、「いかに欠点のない炭素繊維を作るか」技術者があきらめずに粘り強く取り組んだからこそ、今の東レの先端技術があります。

水処理膜は現在世界的な水不足解消の切り札として注目を集めています。東レは60年以上前に水処理膜の研究を開始し、海水を淡水化する逆浸透膜において世界シェアトップを争っています。
ここでは、東レの得意とする海水淡水化とは異なる用途における逆浸透膜の開発で「極限追求」に取り組んだ東レ社員の部署の垣根を超えた連携、お客様と一体となった開発の姿を紹介します。

Project Member

S.T 技術開発職
D.O 営業
H.M 研究開発職

超純水用水処理膜への挑戦

H.M
水処理膜の中で東レが特に力を入れてきたのが、海水を淡水化する逆浸透膜です。
東レが開発した逆浸透膜は表面に直径1 ナノメートル以下の非常に小さな穴(孔)を持つポリアミドからなる機能層と強度を維持する支持層、基材の3層構造になっており、海水が逆浸透膜を通ると、塩分や不純物がろ過され、淡水を生み出します。
不純物をろ過するには、逆浸透膜の孔径を精密に制御する必要があります。一方で孔径を小さくすると水をろ過するスピードが低下します。孔径と造水能力はトレードオフの関係にあるわけです。この課題を解決するため、東レは表面に小さなひだ構造を作ることで、表面積を増大させ、ろ過性能と造水機能を両立させる開発を行ってきました。

D.O
逆浸透膜の用途は海水淡水化だけではありません。半導体の洗浄等、エレクトロニクス業界で必要な限りなくH2Oに近い水「超純水」を作る際に、逆浸透膜は必要不可欠です。
「超純水」は河川水や水道水から不純物を取り除くことによって作られます。この際、水の中の気体・イオン・溶出物等を逆浸透膜で除去しています。
東レは超純水用の逆浸透膜では他社に後れをとっていました。海水淡水化と超純水用では、求められる性能が異なり、東レが海水淡水化用に注力して来たことが原因でした。超純水用逆浸透膜の直接の顧客は水処理製造装置メーカーで、彼らの先には半導体メーカーがいます。今回の開発の出発点は顧客である水処理製造装置メーカーの担当者からの言葉でした。

「東レさんはBランクです」
お客様からの厳しい評価。

D.O
従来から東レの営業・技術担当者と先述のお客様の間で技術交流会を開催しており、その席上で、お客様から超純水用逆浸透膜における各社のランキングを示されました。
細かい項目別と総合ランキングにより示された結論は、「東レの超純水用逆浸透膜の性能はBランク」という厳しいものでした。一方でお客様からは、改善して欲しい項目、ポイントが具体的に示され、海水淡水化で高い技術を誇る東レならば、超純水用でももっとできるのではないかという期待が込められていると感じました。

S.T
私もその場に同席してお客様の話を伺っていました。私は海水淡水化用途の水処理膜の研究・技術開発の経験が長く、超純水用途は取り組み始めたばかりで、お客様のご指摘を聞き、心中期するものがありました。

トレードオフのジレンマを突破した
「極限追求」のDNA

S.T
超純水用の逆浸透膜開発のポイントは、ろ過前の水に含まれるシリカの除去でした。シリカは半導体製造で品質不良を引き起こす原因となるため、高い除去能力が求められます。海水淡水化膜ではシリカは除去する必要ありませんでした。シリカは塩より分子が小さく、海水淡水化膜より孔を小さくする必要があります。同時に半導体製造には大量の超純水が必要で、ただ孔を小さくするだけでは求める造水量をクリアできません。ここで、当社で脈々と受け継がれてきた「極限追求」のDNAが力を発揮しました。先述のとおり、造水能力を向上させるキーは膜表面のひだです。上記の課題を解決するには、これまで以上に表面のひだが高く、孔の小さな逆浸透膜を開発することであるという方針はすぐに固まりました。
もちろん開発には困難が伴いましたが、素材の機能をより深く突き詰める「極限追求」の方向性は揺るがず、お客様の求める逆浸透膜の開発、量産ができました。

D.O
開発した逆浸透膜がお客様の求める性能に達しているか確認するには、お客様の設備に実際に組み込んで性能評価を行う必要があります。これは大変手間のかかる対応であり、通常はかなりの時間を要します。ところが、今回のお客様の性能評価は驚くほどスピーディでした。当初厳しいご指摘を受けたわけですが、期待に応えた当社とお客様の間にものづくりをする仲間の一体感が生まれ、超純水用逆浸透膜はこれまでにないスピードで上市に至りました。

「極限追求」に限界はない

H.M
半導体の進化は今後ますます加速すると考えられます。半導体を洗浄する超純水にもより高い純度が求められることは間違いありません。次世代半導体の製造に必要となる超純水用逆浸透膜に求められる性能をクリアするには、更なる研究開発が必要です。
そのためには、ひだの構造を制御して、表面積を広げることや、除去したい溶質に適したサイズかつ均一な孔を作り、その構造を評価・解析する技術の深化が必要です。困難な取り組みですが、私たちには「極限追求」のDNAが受け継がれています。これが限界と決してあきらめず、これまで積み重ねた研究開発の取り組みを更に突き詰め、新しい発想や知見を取り入れることで、その先には必ず次のブレイクスルーがあると信じています。

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