「子どもたちと世界をつなぐ架け橋に」
トップアスリートが次世代育成にかける思い

競技者として、世界の頂点を目指すサニブラウン選手が抱く、もう1つの夢。それは、「日本の陸上界を盛り上げ、世界レベルまで引き上げる」こと。そのための一歩として企画されたのが、次世代育成のためのイベント「サニブラウン スピードトライアル」だ。サニブラウン選手の背中を追いかける、未来のアスリートたちと触れ合い、走ることの楽しさや、世界で活躍するための心構えなど、現役選手だからこそ伝えられる思いを届けた。

“世界のサニブラウン”と子供たちが交流

2023年9月30日、夢の島競技場(東京・江東区)に、小学生から高校生まで約100名の子どもたちが集まった。6位入賞を果たした世界陸上ブダペスト大会の直後ということもあり、東京近郊のみならず、日本全国から「サニブラウン選手に会いたい」と熱望する子どもたちから応募が殺到したという。イベント当日、サニブラウン選手がフィールドに現れると、大きな拍手と歓声。会場の温度が一気に上がった。

まずは、メインイベントである、タイムトライアル。小学生は50m、中学生・高校生は100mを1本ずつ走ってタイムを競い、各年代の1位を決定。各年代の優勝者は、1年間特別なサポートを受けることができる。解説席からレースを見守るサニブラウン選手は「綺麗なフォームですね。僕が小学生の時はもっとメチャクチャでした」「高校生は体もできてきて、力強い走りですね」など、当時の自分を振り返りつつ、声援を送った。

続くトークショーでは、子どもたちからの質問に、サニブラウン選手が直接回答。「100mを走るとき、後半はどんなことを意識していますか?」「スタートが苦手なのですが、気をつけていることはありますか?」など、速く走るための具体的なポイントから、「スランプの時はどうやって乗り越えましたか?」といった競技者としてのマインドまで、さまざまな質問が挙がり、その一つひとつに、サニブラウン選手は笑顔で答えた。

憧れの存在が、夢への思いを強くする

サニブラウン選手の熱い思いのこもったイベントを、子どもたちはどう受け止めたのか。参加者に、感想を聞いた。

まずは、小学生の部・中学生の部・高校生の部、それぞれの優勝者。今後サニブラウン選手からオンラインでアドバイスを受けるなど、さまざまなサポートを受ける権利を獲得した。

今村 美咲さん(小学生の部・優勝)

「今回応募したのは、サニブラウン選手をテレビで観て、憧れていたから。レースでは優勝できると思っていなかったので、すごく嬉しかったです!これからも短距離を続けて、中学生の大会では全国ベスト3を目指します」

齋藤 大雅くん(中学生の部・優勝)

「サニブラウン選手はやっぱりカッコよくて、もっとトレーニングして、あんなふうに体を大きくしたいなと思いました。テレビで観ていても、サニブラウン選手は後半の伸びがすごい。僕は後半、スピードが落ちてしまうのが課題なので、ぜひ今度アドバイスをもらいたいです」

菅野 凌平くん(高校生の部・優勝)

「今日はイベントなので、公式の大会とは雰囲気が違って、緊張せず、楽しんで走れたと思います。これからもっと経験を重ねて走力を高め、将来的には日本代表としてリレーに出場し、サニブラウン選手とバトンをつなぐのが夢です」

また、この日印象的だったのは、地域や性別、障害の有無など越えて、さまざまなバックグラウンド を持つ子どもが肩を並べてともに走る姿。最近ではパラアスリートの大会なども増えているが、ただ“走るのが好き”という共通項でつながり、多様な子どもたちが一緒に楽しむことができるのは、こうしたイベントならでは。

大腿義足のランナー、齋藤暖太くんも高校生の部に出場し、健常者と並んで走った。サニブラウン選手の出身校でもある陸上強豪校に通い、日々練習に励む齋藤くんは、憧れの先輩との対面で大きな刺激を受けたと話す。

齋藤暖太くん

「生で見ると、迫力がすごかったです。トークショーでは、スタート時の注意点とか、後半の意識の向け方といった話が聞けて、参考になりました。あと、睡眠時間はちゃんと取った方がいいというアドバイスもあったので、それも見習いたいと思います。夢は、サニブラウン選手のように、世界大会に出ることです」

子どもたちにチャンス、選択肢を与えたい

かねてから、次世代育成に対して使命感を持ち、子どもを対象としたイベントにも取り組んできたサニブラウン選手。その背景には、ここ数年で海外移住、コロナ禍、オリンピック出場など、多くの出来事を経験する中で、アスリートとして感じてきた思いがあったという。イベント後のプレゼンでは、その経緯や今後の展望が語られた。



――サニブラウン選手

「アメリカに住むようになって、あらためて日本の中での陸上競技の立ち位置について考えました。日本でもサッカーや野球などのチームスポーツは、国中一丸となって盛り上がりますが、それに比べると、陸上競技はまだまだだなと。それから、2021年に東京オリンピックに出場しましたが、コロナ禍の中だったので、残念ながら無観客試合でした。そこで競技をしたことで、やっぱり観客の皆さんの声援があってこそのスポーツなんだということが身に染みましたし、ファンの皆さんやサポートしてくれる方々への感謝の思いが湧き、恩返しをしたいという思いが強くなりました。もちろん競技で結果を出すことも1つの恩返しの形だと思いますが、それだけではなく、競技以外でも社会のために自分ができることがあるんじゃないかと。その1つが子どもたちの育成に関わること。今日のようなイベントをもっと広げていって、次世代を担う子どもたちに、さまざまなチャンスや選択肢を提供していきたいと考えています」

現役のアスリートとして自己研鑽に励む中で、こうしたプロジェクトを並行して進めていくことには苦労も伴うはず。それでも、サニブラウン選手の強い決意は揺るがない。

「現役時代だからこそできること、意味付けられることがあると思っています。それに、僕自身も、こういう場で子どもたちと触れ合うことですごく刺激をもらえるし、もっと頑張ろうと思えるんです。僕は海外で活動するようになってから、世界をより広い目で見ることができるようになりました。だからこれからは、世界に挑戦したいと考えている子どもたちを僕がサポートし、架け橋になっていきたいですね」

こうしたサニブラウン選手の次世代育成への思いは、グローバルパートナーである東レの思いとも重なる。東レもまた、次世代に向けた教育支援活動を積極的に展開。革新技術・先端素材の開発に従事してきた知見を生かし、子どもたちの理科・科学への関心を高めるために、出張授業や教材提供 を行うほか、毎年夏には小学生を対象とした「青空サイエンス教室 」を開催している。大自然の中でキャンプをしながら、さまざまな実験、フィールドワークなどに取り組み、科学や自然への興味、好奇心を育むこのイベント。2023年夏の「青空サイエンス教室」では、サニブラウン選手も「少しでも子どもたちと関わる機会をつくりたい」という思いから、ビデオメッセージを寄せた。一方で、今回の「サニブラウンスピードトライアル」においては、東レはサニブラウン選手の次世代育成への情熱に共感し、協賛という形でサポート。今後も東レはサニブラウン選手と協働し、ともに次世代教育・育成に取り組んでいく。