東京での大舞台を終えて。
東レ×サニブラウンが目指すネクストステップ

東京2025世界陸上に出場したサニブラウン選手。日本での開催を盛り上げる「アスリートアンバサダー」に就任し、 “大会の顔”の一人として普及活動やファンとの交流に努めてきた。競技においては、100mで予選敗退となったが、その情熱と行動力は今大会の盛り上がりに大きく貢献した。大会を振り返るとともに、深化を続ける東レとの共創や、次世代育成・社会貢献への想いを語った。

満員の国立競技場で、地響きのような声援を力に

――18年ぶりに日本で開催された世界陸上を終えて、今どのような感想をお持ちでしょうか?

東京での開催が決まってからは、「国立競技場を満員にしたい」との思いで活動してきました。実際に多くの方が足を運んでくださり、スタジアムに足を踏み入れた瞬間は本当に鳥肌が立ちましたね。東京オリンピックは無観客でしたし、今回地響きのような歓声が自分に向けられているのを感じて、心からありがたいと思いましたし、地元で走れる喜びをあらためて実感しました。「今までいろいろな人と触れ合い、活動をしてきたかいがあったな」と思っています。

――競技面を振り返ると、今季はケガの影響もあり、100mで予選敗退という結果に終わり、3大会連続の決勝進出はなりませんでした。この結果をどのように受け止めていますか?

結果は、やはり受け入れがたいですね。去年のパリオリンピックで準決勝敗退(※決勝進出ラインまで0.03秒)という悔しい思いをしました。だからこそ、「今年はもっと上を狙う」という意気込みで取り組んできましたし、日本の皆さんの前で納得のいく走りを見せたかったんです。

今回は、スタートがうまくいきませんでした。一方で、他のトップ選手たちは同じ状況でも自分のレースパターンを組み立て、後半でしっかり加速していました。僕は序盤の0〜30mをプラン通りに組み立てられず、そこで差が生まれてしまい、後半もうまく伸びきれなかったと感じています。

――自国開催ということもあり、周囲からの期待もこれまで以上に高まっていたかと思いますが、その点はいかがでしたか?

周りからの期待や声援は、これまでの積み重ねがあってこそだと思うので、ものすごくありがたかったです。プレッシャーを感じるよりも、むしろ「もっと一生懸命やらなきゃいけないな」と気が引き締まりました。競技が始まる前の選手紹介の際にも、大きな声援をいただきましたが、その雰囲気も楽しめました。

日々小さな目標をクリアしていくことで、大きな目標に辿り着く

――ここからは東レとの共創についてお聞きします。グローバルパートナーシップ契約を結んでから2年半、東レとの取り組みの中で、特に印象に残っていることはありますか?

毎年、全国各地の東レの工場を訪問させてもらっていることですね。現場で働いている方々や地域の子どもたちと触れ合う機会をいただいたり、競技やトレーニング用のウェアを開発している方々と意見交換したり、普段の練習や競技では体験できないことを経験させてもらっています。

また、世界陸上などの大きな大会の際には、いつも東レ社員の皆さんからビデオメッセージをいただき、力をもらっていました。

――現場で働く社員と交流する中で、共感したことや刺激を受けたことはありますか?

工場によって作っているものは異なっても、「どれだけ素材をよくしていくか」という皆さんの思いは共通しているように感じました。でも何事も、急によくなるということはないと思うんですよね。例えば糸であれば、0.何ミリの世界で「どう強くしていくのか、どこまで細くしていくのか」などを試行錯誤されています。この点は陸上競技にもよく似ています。急に走るのが速くなることはほとんどなく、日々の積み重ねを継続することが大切なので、その部分に強く共感しています。

モノづくりも、競技も、いろいろなやり方を試してみて、一歩前進したと思ったら、また次の扉が開き、世界が広がっていく――その過程が楽しいんですよね。きっと東レの皆さんも、同じような感覚を持たれているのではないでしょうか。

――2025年10月に訪れた愛媛工場では、どのようなことが印象に残りましたか?

研究所を見学させてもらい、炭素繊維を使っての成型体験をするなど、面白い体験ができました。実際にその素材で作られた釣り竿やラケットを手にしたのですが、従来の製品と比べると素材感や軽さがまったく違うんですよね。モノづくりは、突き詰めれば突き詰めるほど奥が深く、上限がないんだなと感じました。僕自身も、競技でまだまだ突き詰めていける部分があると改めて思いました。

次世代への想いがつなぐ、子どもたちとの新しい出会い

――今回、東レが主催する「青空サイエンス教室(※)」への初めてのリアル参加や、愛媛工場の近隣小学校への訪問など、子どもたちとの交流の機会がありました。今回の機会で、得られたものはありますか?

子どもたちと触れ合うのは楽しいですし、毎回たくさんのエネルギーをもらっています。コロナ禍を経て、運動する子どもが減っているということも聞いていたのですが、楽しそうに身体を動かしている姿を見ると本当に嬉しいですね。

青空サイエンス教室。速く走るためにはどう体を使えばよいか。その仕組みや動かし方を、サイエンスの視点も交えて子どもたちに伝えた。

愛媛工場近隣の小学生との交流会。運動会を目前に控えた全校生徒約700人の前で、速く走るためのコツや、挑戦することの大切さをメッセージとして届けた。

子どもたちからの質問は、「どこに住んでいるんですか?」とか、素朴な質問も多いのですが(笑)、中には、陸上にすごく真剣に向き合っているなという子もいますね。技術的な部分など「僕が小中学生のときはそんなことまで考えてなかったな⋯⋯」という質問が飛んでくることもあるんですよ。そういうひたむきな子どもたちを手助けして、可能性を広げてあげるのも、自分の役目だと感じています。

――競技生活は、トライアンドエラーの繰り返しだと思います。子どもたちもこれから何かにチャレンジする上で、壁にぶつかるようなこともあるかもしれません。何か応援のメッセージをいただけますか?

競技の中でケガをすることもありますし、いろいろなことを試しながらやっていますが、必ずしも良い結果につながるとは限りません。それでも、一日一日、小さな目標を設定して、それをクリアしながら最終的な目標にたどり着けばいいというマインドで取り組んでいます。先を見すぎず、日々半歩でも前進できるように努力する――それが大きな目標を達成する上で、一番大切なことだと思っています。

東レの次世代育成活動

社会貢献活動の一環として、次世代の育成を大切にしている東レ。子どもたちがサイエンスに親しむきっかけをつくる体験型の学習プログラム「青空サイエンス教室」の開催や、社員みずからが講師となって行う理科の出張授業など、さまざまな取り組みを実施している。

届くようで届かない、金メダルまでの距離感

――サニブラウン選手の次の目標を教えていただけますか?

世界大会で金メダルを獲るという目標は、ずっと変わりません。2021年から5年連続で世界大会が続いていましたが、来年は一度クッションを挟むので、2027年の北京世界陸上、そして2028年のロサンゼルス五輪につなげていくために、どう取り組むべきかを考えています。コーチや周りの人と相談しながら、しっかり計画を立てて、次のステップに進んでいきたいですね。

――抽象的な質問にはなりますが、現状、メダルまでの“距離感”をどのように捉えていますか?

ものすごく遠いわけではありませんが、届くようで届かない──そんな距離感かなと思います。手を伸ばせば届きそうな感覚はあるんです。世界記録保持者のウサイン・ボルトが引退してからは、100mは誰が勝ってもおかしくないという状況が続いています。毎回ヒリヒリする展開ですが、勝つ選手が決まっているより、そのほうが楽しめるかなと思っています。

――東レとの共創で今後どのようなことに取り組んでいきたいですか?

昨年のウェアの共同開発に続いて、今後はシューズでも新しい取り組みをしたいですね。東レの技術は世界一だと思っていますし、そこに僕のフィードバックを掛け合わせれば、質の高いものを作れると思っています。東レの皆さんと相談しながら、より良いものを一緒に作り上げていけたらうれしいですね。

また、子どもたちや地域の人たちと触れ合うような機会ももっと増やしていきたいですね。最前線で戦っている現役選手だからこそ、与えられる影響があると思うんです。今競技に取り組む中で、本当に多くの人に応援していただいていて、その恩返しをするには、ただ結果を出すだけでは足りない。だからできる限りいろいろな場所にいって、たくさんの人に会いたいと思っていますし、そういう活動も東レさんと一緒に進めていけたらと考えています。