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A MATERIALS WORLD#08

海水を淡水に変える分離膜技術で人々に希望の光を

最新化学の力で水不足の危機に挑む。いま、その試みに成果が生まれています。省エネで海水を淡水に変える高性能な分離膜は、いかにして世界の人々に生命の水を届けるのか?

宇宙から見下ろすと地球は青い海の惑星。溢れる水が大陸を取り囲んでいます。しかしその97%以上は海水で、わたしたちの生命を育む淡水は全体の1%ほどに過ぎません。気候変動の危機に加え、産業化や人口増加によって水不足の問題は深刻化し、乾いた土地に住む何百万という人々が死の危機に直面しています。

こうした水不足問題の解決の切り札として期待されているのが、海水を淡水に変えるろ過技術。乾燥地帯で水不足に苦しむ人々に希望の光を与えています。その技術で世界の先端を走っているのが東レ。東レの分離膜技術は脱塩だけでなく汚水浄化にも役立ち、少ない水の再利用や貧しい地域の衛生改善に威力を発揮しています。

深刻化する水不足

国連ではきれいな生活水のある環境を基本的人権のひとつに掲げていますが、世界では20億もの人々が水不足に悩み、年にひと月の断水を強いられる人々は総人口の2/3にものぼります。それゆえ水不足解消のための技術開発はまさに喫緊の課題ともいえます。

東レが開発した高分子逆浸透膜は、直径0.6から0.8 ナノメートルの孔を持つ半透過性素材。ナノメーターは百万分の1ミリということを考えれば、このろ過技術の精密さが分かります。この分離膜を備えたポンプで海水を汲み上げると、塩分や不純物がろ過され、淡水を生み出します。

通常、物質が溶け込んだ溶質は濃度の薄い方から濃い方へと浸透しますが、この場合は海水に圧力をかけて濃い液体(海水)を薄い液体(淡水)に浸透させ、ナノメールの孔を通じて塩分や不純物を除去するため、“逆浸透”と呼ばれています。透過性と耐久性に優れた分離膜をいかに作るかということが製造上の大きな課題となります。

逆浸透膜を使った脱塩法の大きなメリットのひとつは、従来の加熱蒸発式に比べ電力消費が少なく、温暖化効果を抑えられること。2018年に世界銀行が発表した「中東と北アフリカの水不足」という報告書には、逆浸透方式による海水淡水化は加熱蒸発方式の1/5の省エネになるという記載があります。

「高性能の次世代型脱塩膜の開発は大きな前進」と報告書は述べています。「脱塩性能の高い分離膜は水質を高めるだけでなく、追加の水処理も解消するため(中略)省エネとコスト削減につながる」。

淡水化技術を世界に

海水を淡水化するこの逆浸透膜は世界各地で導入が進み、乾燥地の人々の暮らしを支えています。シンガポールでは逆浸透膜技術による浄水の50%が東レの技術によって生み出されています。狭い国土に水源がほとんどない同国は浄水の大半を輸入に頼っていましたが、今後は自給に向けて進んでいく方針です。

アジア最貧国のひとつバングラディシュでは、日本政府が援助する給水車が村々を巡回しています。そこで供給される水は東レの水処理分離膜で作られたものです。逆浸透膜と最先端ろ過膜を備えた浄水ユニットが30機あり、それぞれ1日当たり300人から500人ほどの村民に水を届けています。新興国では安全な水への対策も急務で、世界保健機構(WHO)の推定によれば、年間で5歳以下の児童361,000人が不衛生な環境や汚水によって白色赤痢に罹るといわれています。

現在、東レの水処理分離膜は、世界76カ国で導入され延べ50億リットル以上の水を生み出しています。これは400万人が1日に使う水の量に匹敵します。

世界で深刻さを増し、多くの悲劇を生んでいる水不足。東レの分離膜技術は渇きに苦しむ人々のもとに生命の水を届けています。

本コンテンツは、WSJ Custom Studiosによって制作されたオリジナルコンテンツの和訳です。

written by The Wall Street Journal Custom Studios