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A MATERIALS WORLD#05

素材の力でグリーン経済の発展を支える

有害な温室効果ガスの排出を抑えていくためには、経済を再生可能エネルギー主導に転換する必要があります。環境に優しいグリーン発電の効率を高める最先端の素材が、今さまざまな業界で活用されはじめています。

イギリス北西海岸沖で静かに回り続ける巨大な洋上風力発電機。高さは自由の女神の倍以上に達する640フィート(195m)、ブレードの長さは世界最大級の270フィート(82m)。設置数においても世界最大となるこの洋上風力発電ファームは、60万戸分のグリーン電力を生みだしています。しかし、こうした最高値もすぐに書き換えられていくことでしょう。風力発電のブレードは常に進化しているからです。それを支えているのは、新素材を生みだす材料科学です。

発電効率の鍵を握るブレードは、強風に耐える強さと自重でゆがまない軽さ、そして本体と同じく25年間たゆみなく稼働する耐久性を備えていなければなりません。

炭素繊維はそうした強さと軽さと耐久性を併せ持つ限られた素材の1つです。価格は決して低くないながらもブレードの骨格部分に炭素繊維が使われるのはそのためです。東レの関係会社Zoltek社はブレード用の炭素繊維素材を年間12,000トン以上供給しています。同社のエグゼクティブVPを務めるフィリップ・シェルは「風力発電ブレードのスパーキャップに炭素繊維が好まれるのは、単に軽さだけでなく、空力特性の良い極薄のブレードを設計できるから」と語ります。1

この例は来たるべきグリーン経済に材料科学が役立つ例証のひとつに過ぎません。石化燃料との決別が叫ばれる今、軽量素材、プラスチック代替素材、次世代型の太陽電池や燃料電池など、素材メーカーが生みだす新素材が、グリーン経済が発展する時代へとわたしたちを導いています。

1 Composites World誌インタビュー、2018年3月27日

未来を照らす光

またこの十年で大きく進んだ技術のひとつに太陽電池があります。部品価格が下がり蓄電効率が高まるなか、東レは今、従来の結晶シリコンではなく有機化合物を使った次世代型太陽電池の実用化に取り組んでいます。炭素ベースのこの素材は無機物であるシリコンより光吸収値が高く、室内などでも効率的に稼働します。1ミリメートルの1000分の1と極薄のこの素材は、布のように柔らかく蓄電効率も良い薄膜型太陽電池の開発に役立ちます。

薄膜型太陽電池は衣服に縫い付けたり、建物の窓や側壁に貼ったりできるほか、IoTに欠かせない室内センサーの電力源としても活躍します。この太陽電池を装着した無線センサーは室内実験で効果を証明しました。「ワイヤレスコミュニケーションネットワークでは埋め込み式の自給電源が欠かせません」と東レは話します。「あらゆるものをIoTでつなげていくには、電力を備えた多くのセンサーが必要です。乾電池はコスト高で交換が面倒なほか、故障を招きやすい。わずかな光で常に電力供給できる太陽電池は、独立電源として非常に有効です」。

強固な開発基盤と高品質製品

東レは高機能炭素繊維の開発に積極的で、1970年代から世界の研究開発を牽引してきました。近年では宇宙ロケット、人工衛星、航空機に用いられる素材を生みだしています。航空宇宙産業では過酷な環境に耐えうる最高レベルの品質が求められますが、新開発のT1100Gはまさにその代表といえます。ナノレベルの加工による最新の炭素化技術が用いられており、大きな張力や圧縮に耐え、侵食や変形、疲労にも優れた強さを発揮します。

自動車業界でも電気自動車に炭素繊維が用いられていますが、東レが開発したコンセプトカー「“TEEWAVE”AR1」は、炭素繊維のボンネット、ダッシュボード、ルーフを持ち、ショックアブソーバーには高剛性で衝撃安全性の高い炭素繊維複合材が用いられています。軽量化も特長のひとつで、市販の電気自動車の1/3の重量を実現。これによりCO2排出を9%抑えることができます。

グリーン技術の開発

グリーン電力が大きく成長するなか、産業界も競って低炭素燃料への転換を図っています。脱炭素社会の移行には、ビルの照明や空調から陸運、鉄道、航空など運輸産業まで、グリーン電力化が重要だと「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」は述べています。

石化燃料から離れられない運輸業界では特に現在グリーン電力化への圧力が高まっています。世界の自動車出荷台数のなかではまだ微々たる存在ですが、電気自動車の出荷台数は近年急速に伸びており、2018年には総計4百万台に達しました。一台あたりのコストが下がり、電池効率が改良されて走行距離が伸びればこのシェアはさらに広がるだろうと予想されます。東レは、分離膜や絶縁膜、製造用加工機などの技術によってリチウムイオン電池の性能と信頼性の向上に貢献しています。

また、東レはこうした取り組みのほか水素社会の到来に向けた研究開発にも力を入れています。

水素は水以外の原料からも抽出することができ、その工程にグリーン電力を用いることで完全なる脱炭素を実現することができます。水素を酸素と結合させて発電すれば、排出されるのは水だけになります。また、太陽光発電や風力発電と異なり、水素は現在天然ガスの運搬や貯蔵に使われているインフラをそのまま利用することができます。

国によって水素自動車は電池式電気自動車に匹敵する有力な選択肢とも考えられており、東レは、電解装置や燃料電池用絶縁膜、水素貯蔵タンク用の炭素繊維など、水素サプライチェーン向けの製品を多種開発しています。

またパートナー企業とともにグリーン電力を使った水素の製造と貯蔵をめざす“P2G (Power to Gas)”システムの開発にも取り組んでいます。とくに日本政府と東京都は水素スタンドの設置など水素社会へのインフラ投資を加速させており、 “グリーンオリンピック”とも呼ばれる2020年東京オリンピックの開催までに、都は水素自動車6,000台と多数の燃料電池バスを稼働させようと計画しています。

グリーン経済の実現方法はひとつではありません。風力発電、太陽光発電、そして水素燃料といった技術を組み合わせて活用することで、産業界のグリーン電力化が進んでいきます。東レは、新素材の開発によって来たるべき低炭素社会への取り組みを力強く支えていきます。

本コンテンツは、WSJ Custom Studiosによって制作されたオリジナルコンテンツの和訳です。

written by The Wall Street Journal Custom Studios