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A MATERIALS WORLD#03

バイオマス活用でスイートなエネルギーを

製造業で高まる環境志向。東レが開発したバイオの革新技術が、従来の製糖プロセスを大きく変えようとしています。

タイの実証プラント全景

産業革命以前と比べ気温が1.5℃上昇した場合の地球規模の影響に警鐘を鳴らすIPCC(気候変動に関する政府間パネル)。同機構の最新報告書は、運輸、建設、エネルギー、工業の4分野の変革を訴え、気候変動対策に向け世界の人々の力を結集しようとしています。

とくに産業分野において重要なのは、製造プロセスの改革です。エネルギー消費が少なく、廃棄物や有害物質の増加を抑え、工業用水の無駄をなくす環境志向のものづくりが求められています。

そこで期待されているのが近年の技術革新。最新の先端技術を用いれば、より戦略的に水やエネルギーや資源を活用することができます。また、工業においても農業においても、これまで廃棄されていた副産物を新たな収益源に変える方法が模索されています。そうした動きを牽引しているのがバイオテクノロジーです。

バイオ燃料の秘められた価値

多くの国で主要作物となっており、世界最大の生産量を誇るサトウキビ。2014年から2016年まで、砂糖の年間精製量は19億トンにおよびます。

通常は世界の旺盛な糖需要に応えるために栽培されているこの植物、そこから絞りだされる糖液は発酵と蒸留によってエタノールに変換することができます。それを石油と混ぜ合わせて作るバイオ燃料は、アメリカ、ブラジル、スウェーデンなどで利用されています。

サトウキビの搾りかすであるバガスは、世界の製糖工場でボイラーの熱源として使われており、それはまさに自給自足のエネルギー源といえます。しかし、もっとうまい使い途はないのでしょうか? たとえばバガスをボイラー用以外にも使える手軽なエネルギー源に変える方法は?

時代はクリーンなエネルギー源を求めています。東レはいま独自の水処理分離膜技術を用いてバガスの硬い繊維を分解しセルロース糖を作りだす実証実験を行っています。精製されたセルロース糖は発酵と蒸留の工程を経てエタノールに変換できるほか、合成してポリ乳酸(PLA)やポリブチレン・コハク酸(PBS)といったバイオポリマーの生化学材料に変えることができます。

こうした用途にバガスは明らかに役立ちます。温室効果ガスを発生させる石化燃料と異なり、再生可能なバイオ燃料には環境メリットがあります。農業廃棄物は腐敗するとメタンガスを放出しますが、そうなる前に有効利用することは地球温暖化対策にもなります。さらに、トウモロコシや砂糖と異なりバガスは食べることのできない非可食バイオマスであるため、世界の食糧事情に影響を与えることもありません。

しかし、従来のバガスをセルロース糖にする製法は複雑で、かなりのエネルギーが必要でした。そのため非効率を避けるために余った分を捨てていた国もありました。

業界初の生産技術

しかし、10年ほど前、東レがバガスの加水分解物に含まれる不純物を選択的に取り除く水処理分離膜技術を開発したことでその流れが変わりました。この技術を用いることで非可食バイオマスから低コストで高品質なセルロース糖を精製できるようになったのです。一連の膜利用分離プロセスは単糖を濃縮して発酵性糖分に変えると同時に発酵をうながす微生物がきらう不純物を除去します。この技術は飼料用オリゴ糖など他のさまざまな糖にも応用できます。主要成分の濾過と濃縮、不純物の除去によって微生物がセルロース糖を分解し有用な化学物質に変換されるのです。

水処理分離膜は糖液の余剰水分を短時間で効率的に除去します。以前は水分除去に蒸発方式が採られていましたが、それには加熱のための大きなエネルギーが必要です。しかし、微小な穴が無数に開いた分離膜による濾過方式では、糖分子だけが残り、水は排出されるので、大きな省エネとなります。

結果として業界で初めて、高品質セルロース糖の低コスト生産が可能になりました。

社会変革の芽を育む工場

2018年7月、東レと三井製糖は、両社の合弁会社セルローシック・バイオマス・テクノロジー社による水処理分離膜技術の実証プラント(タイ、ウドンタニ県)を立ち上げました。タイはブラジルやインド、中国に次ぐ世界第4位の砂糖生産国で、2018年と2019年の生産量は史上初となる1,410万トンが見込まれています。当然、副産物であるバガスの量も膨大なものになります。

この工場は日量でバガス15トン(乾燥重量)を扱い、そこから4.2トンのセルロース糖を精製します。タイ国内の製糖工場にはバガスが大量に眠っているため、一ヶ所で年間数万トンを集めることも不可能ではありません。輸送用エネルギーが大幅に削減され、従来のエネルギー消費の半減をめざしています。

「これまでの製糖プロセスは、加熱蒸発方式でした」と東レは説明します。「今回は分離膜濃縮と蒸発濃縮を組み合わせることで、50%以上の糖分を含む完全濃縮糖液を得るためのエネルギー消費を半減させることができました」

化粧品、飼料、食品などに用いられるオリゴ糖やポリフェノールといった高付加価値品もタイの市場ニーズに合わせて提供していく方針です。とくにオリゴ糖は酪農飼料によく用いられています。

急成長するバイオマス市場。今後はどんな展開が見込まれているのでしょうか。

「技術革新を継続的に続けながら、非可食バイオマスから化学物質を生みだすグローバルなサプライチェーンを作りあげていきたい」と東レは話します。植物を燃料に転換するバイオ精製所は石油精製所と同じく有用な存在になると同社は考えています。

この構想実現のため、同社は志を同じくする企業との協業を今後積極的に進めていきます。

タイの実証プラントは2022年まで操業を続け、新技術の生産効率、商品品質、省エネ効果を見ながら、製造プロセスの改善と最適化を図っていきます。効率や生産性についての答えは先の結果を待つことになりますが、いまはっきりと言えるのは、低炭素社会はこのような環境志向の技術革新を求めているということです。

本コンテンツは、WSJ Custom Studiosによって制作されたオリジナルコンテンツの和訳です。

written by The Wall Street Journal Custom Studios