A MATERIALS WORLD特集記事

#01

環境とともに歩む成長 – 次世代に豊かな自然を残すための技術革新

地球規模の人口増加で天然資源が枯渇していくなか、その解決策を生みだし環境志向の消費のあり方を提案する先端企業にいま、大きな事業チャンスが訪れています。

水を飲む、ジーンズを履く、電車に乗る、といった日常のなにげない行為が、かけがいのない資源の消費につながっています。

地球環境が年間で吸収できる炭酸ガスや作り出せる真水の量は決まっていますが、最新の調査によれば、2018年は7月までにその限界量を超えてしまいました。原因は人類による資源の消費です。超過した消費分を負債と考えれば、環境への負債は毎年増え続けています。許されている量の1.7倍をわたしたちは毎年消費しているのです。

海洋汚染、森林伐採、動植物絶滅の先に待つのは、崩壊した地球環境です。もし美しいサンゴ礁や緑の原生林、セレンゲティ国立公園の野生動物たちを未来に残したいと思うのであれば、すぐにもこの流れを変えなければなりません。

先端企業は技術力でそのための大きな役割を果たすことができます。

現実と向き合う

先端企業にとって環境への取り組みは、社会的責務であるばかりでなく、斬新なソリューションを生みだすチャンスでもあります。環境保全と共生のためのグローバルな枠組みとして、国連は持続可能な開発目標(SDGs)を掲げていますが、これに賛同して事業を展開する企業は少なくありません。ロンドン・ビジネス・スクールで事業戦略と起業家精神を教えるイオニス・イオアノウ准教授は「現在人類が直面している世界的問題には、企業が貢献できる部分がかなりある」と話しています。

もちろん、限界もあります。世界自然保護基金のマルコ・ランベルティーニ事務局長はその著書のなかで「何億年ものあいだ地上に生命を育んできた自然の技にかなう人の技術はない」と述べています。ただその技のほころびを繕うことくらいは、人類にもできるのではないでしょうか。そうしなければ、未来には悲惨な現実が待っています。大型台風などの天災被害は、昨年だけで総額4,000億ドル。2030年までに1億7,000ヘクタールの森林が姿を消し、その広さはゴビ砂漠を上回るともいわれています。

新たな市場を拓く

次世代に豊かな自然を残すには、最新のスマート技術が役立ちます。たとえば先端的なリサイクルソリューションは世界の資源保全に役立ち、再生可能エネルギーは気候変動緩和に効果があります。また、海水淡水化技術によって、水道や井戸のない20億の人々に安全な飲み水を届けることができます。保健衛生分野の技術革新は、共生社会への道を拓きます。

そこでまず企業がやるべきことは問題の見極め。満たされていない社会ニーズ、市場のギャップ、環境の課題などをまず特定し、少しずつ拡大展開できるソリューションを生みだすのです。それはまた事業の成長にもつながります。MITスローン・マネジメント・レビュー誌とボストン・コンサルタント・グループの調査報告には「企業の成功事例のなかには、環境への取り組みが技術革新を生み、効率化をうながし、永続的な事業価値を創りだしたものがいくつか見られる」とあります。

環境志向の経営は事業を損なうものではなく伸ばすものであるということを教える調査資料はほかにも数多くあります。ロンドン・ビジネス・スクールのイオアノウ准教授とハーバード・ビジネス・スクールのロバート・G・エクルズ教授そしてジョージ・セラフィム教授は共同論文のなかで「長期的に見れば、環境に熱心に取り組む企業は、株価においても業績においても競合を凌駕している」と述べています。

東レもまた事業の成長は自然豊かな社会とともに歩むものと考えています。「先端素材のノウハウとコアテクノロジーを武器に、気候変動、エネルギー、医療の難問に取り組むことで市場を拓き、事業を伸ばしていきたい」と同社は話します。「持続可能な開発目標を後押ししながら、技術と製品で世界が直面している課題に解決の道を示す。それがわたしたちの使命です」。

社員と消費者を鼓舞

創業時から環境志向の企業は、優秀な人材を惹きつけ才能を育みます。最近の若者は就職先として環境問題に熱心な企業を選ぶという調査報告もあり、この傾向がそのための技術革新に拍車をかけています。「新人のやる気を鼓舞し、かれらを信じて仕事がしやすい環境を与えたなら、そこに奇跡のような革新が生まれるのです」とイオアノウ准教授は話します。

また消費の側でも近年、購買行動に環境意識が強まっています。環境問題への配慮は、いまやブランド選択の重要要件のひとつなのです。「消費者はこれからますます社会的に信頼できるブランドを選ぶようになる」とデロイトの報告書は述べています。「かれらの信頼を得るために重要なのは、社会貢献に力を入れていることを訴え理解してもらうことである」。

結局一番大事なのは、生命豊かな環境に暮らすことがすべての人々のためになるということです。「死の星にはどんな事業も存在しません」。アウトドアアパレルで有名なパタゴニア社の環境問題担当部長リック・リッジウェイ氏は、最近、講演の中でそう語りました。東レもメンバーになっているサステナブル・アパレル連合の創始者でもある氏は、またこうも話します。「事業の成功を測る真の指標があるとすれば、それは地球環境の保全にどれだけ貢献したかというものです」。

地球環境はいま微妙なバランスのうえにあります。技術革新を生みだすエコシステムが、自然の営みであるエコシステムを回復させることができれば、環境とともに歩む未来を次世代に受け渡すことができるのではないでしょうか。

本コンテンツは、WSJ Custom Studiosによって制作されたオリジナルコンテンツの和訳です。(2019年制作)

Written by The Wall Street Journal Custom Studios, 2019