胃がん患者を対象にした「TRK-950」の第II相臨床試験開始について

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2023.08.30

東レ株式会社


 東レ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:大矢 光雄、以下「東レ」)は、このたび、固形がんに対する治療薬として東レが独自に開発を進めている「TRK-950」について、胃がん患者を対象とした第II相臨床試験1)を米国、日本、韓国の3ヵ国での国際共同比較試験として開始します。

 「TRK-950」は、東レが見いだした新規がん治療標的Caprin-12)を目印として、がん細胞に結合し、これを攻撃するモノクローナル抗体3)製剤です。Caprin-1は胃がんを含む大部分の固形がんの細胞膜表面に多く発現している一方で、正常組織の細胞膜表面にはほとんど発現しておらず、また、がんの転移や再発の原因である転移性がん細胞やがん幹細胞の細胞膜表面にも多く発現しています(参考文献1参照)。そのため、TRK-950が多くの固形がんに対して、副作用少なく、がん細胞の増殖および転移・再発を抑制する効果を発揮することを期待し、開発を進めてまいりました。

 2017年より米国およびフランスにて第I相臨床試験および第Ib相臨床試験、2022年より日本にて第I相臨床試験を実施し、これまでに延べ155例のがん患者に対するTRK-950の投与実績が得られています。この中で実施した胃がん患者に対する試験(胃がんの標準2次治療に用いられる抗がん剤であるラムシルマブおよびパクリタキセルとの併用投与)では、TRK-950を2つの用量に振り分けて投与しましたが、このうち10 mg/kgを投与した9例全例で治療期間においてがんの増殖抑制(がんの増大なし)が認められ、その中の5例では奏効(30%以上のがんの縮小)が得られました。また、9例中4例がCaprin-1強発現4)の患者であり、その4例全例が奏効の認められた5例に含まれていました(参考文献2参照)。
 これらの結果を踏まえ、今般、Caprin-1強発現の胃がん患者を対象とした第II相臨床試験を実施することとし、これまでに、米国FDA5) から試験実施の承認を取得し、日本PMDA6)への治験計画届提出を完了しました。韓国MFDS7)は現在審査中です。

 本第II相臨床試験は、Caprin-1強発現の胃がん患者を対象とした無作為化8)比較試験とし、2次治療薬9)としてTRK-950をラムシルマブおよびパクリタキセルと併用投与し、無増悪生存期間(PFS)10)を主要評価項目11)として有効性を評価します。
 なお、第Ib相臨床試験では、胃がん以外のがん種においても、過去治療で奏功が得られなかったがTRK-950を併用投与することにより奏功が得られた複数症例もあり(参考文献3参照)、胃がんに加えて、各がん種への拡大を目指した開発も継続していきます。

 東レは、「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」の企業理念のもと、TRK-950のグローバルな臨床開発を展開し、First-in-class12)のがん治療薬として、早期承認取得を目指してまいります。

 
TRK-950で期待される治療コンセプト

 
以 上


<用語説明>
1) 臨床試験
新薬候補物質を開発する際にヒトを対象として、その安全性および有効性を評価するための試験。第I相試験において、ヒトにおける新薬候補物質の安全性、薬物動態を確認し、次いで、第II相試験および第III相試験において、新薬候補物質の安全性、用量反応性、および対照薬(プラセボを含む)との安全性ならびに有効性の比較検討を行う。がん治療薬の臨床開発では第I相試験からがん患者を対象としてこれらの検討が行われる。
2) Caprin-1
各種固形がんの細胞膜表面に特異的に高発現することを東レが初めて見いだした、新規がん治療標的。
3) モノクローナル抗体
ヒト体内に侵入したウイルスやがん細胞などの異物に対して、免疫細胞の一種であるB細胞はこれを攻撃して排除するために、これらに結合する抗体を生産する。モノクローナル抗体とは、これら異物の特定部位に結合する均一な性質をもった抗体のことであり、1種類のB細胞が生産する抗体のコピー(クローン)である。多くの抗体医薬製剤でこのモノクローナル抗体が用いられている。
4) Caprin-1強発現
がん組織中のがん細胞膜表面にCaprin-1が多く発現していること。
5) FDA
U.S. Food and Drug Administration(米国食品医薬品局)
6) PMDA
Pharmaceutical and Medical Devices Agency(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)
7) MFDS
Ministry of Food and Drug Safety(食品医薬品安全処)
8) 無作為化
治療薬の比較を行う試験において、どの患者さんがどの治療薬を投与されるかをランダムに決定すること。
9) 2次治療薬
手術が不可能ながんに対する初めの治療薬(1次治療薬)を有効性が低い、あるいは低くなった等の理由により中止した場合に、切り替える2番目の治療薬。
10) 無増悪生存期間(PFS)
Progression Free Survivalのことであり、治療中および療後にがんが進行せず、病態が安定した状態の期間。
11) 主要評価項目
臨床試験において試験の主要な目的に直結する最も重要な項目。
12) First-in-class
画期的医薬品。


<参考文献>
1.  Okano F, Saito T, Minamida Y, Kobayashi S, Ido T, Miyauchi Y, Wasai U, Akazawa D, Kume M, Ishibashi M, Jiang K, Aicher A, Heeschen C, Yonehara T. Identification of Membrane-expressed CAPRIN-1 as a Novel and Universal Cancer Target, and Generation of a Therapeutic Anti-CAPRIN-1 Antibody TRK-950. Cancer Res Commun. 2023;3(4):640-58.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37082579/
2.  Cassier PA, Matrana MR, Hanna DL, George B, Sharma S, Kelly RJ, Okano F, Von Hoff DD, Blay J-Y. A phase-Ib study of TRK-950 combined with anticancer treatment regimens in patients with gastric and gastroesophageal junction (GEJ) cancer.
J Clin Oncol. 2023;41(4 suppl.):pp.361.
https://ascopubs.org/doi/pdf/10.1200/JCO.2023.41.4_suppl.361
3.  Hanna D, Cassier P, Alistar A, Sharma S, Matrana M, George B, EI-Khoueiry AB, Okano F, Von Hoff DD, Blay J-Y. A Ph-Ib study of TRK-950 combined with anti-cancer treatment regimens in patients with advanced solid tumors. Eur J Cancer 2022;174(suppl 1): S32-3.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0959804922008863


<参考資料>
2017年2月28日
がん治療薬「TRK-950」の臨床試験開始について
https://www.toray.co.jp/news/details/20170228001254.html