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血液中の病因タンパク質を高効率に吸着する繊維を創出
-PMMA繊維のナノ構造制御技術を進化-

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2022.12.20

東レ株式会社


 東レ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、このたび、ナノテクノロジーと繊維技術を融合し、血液中の病因タンパク質を高効率に吸着する、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いた十字断面形状のナノ細孔繊維を創出しました。

 本繊維は、東レのPMMA製中空糸膜の紡糸技術を応用し開発した新しいナノ細孔繊維です。繊維表面および内部のナノ細孔サイズを変化させ、繊維に吸着するタンパク質の種類をコントロールすることが可能なため、さまざまな血液浄化用病因タンパク質吸着カラムに応用できる基盤技術になると考えています。
 また、繊維断面を十字形状にすることで、通常の丸断面の繊維と比較して表面積が大きくなり、血液と繊維が効率的に接触し、病因タンパク質を高効率に吸着させることが可能となりました。
 今後、患者様が使いやすい、小型で高性能な各種の病因タンパク質吸着カラムの開発を進め、早期の実用化を推進してまいります。
 
 (左)PMMA製十字断面形状ナノ細孔繊維の使用イメージと断面像 (右)断面拡大像

 東レは、透析治療に用いられるPMMA製の中空糸膜型人工腎臓を、世界で唯一製品化しています。PMMAは、タンパク質が吸着しやすい特性や良好な生体適合性※1を有しており、今回のナノ細孔繊維に適用しました。
 また、繊維形状を形成する紡糸工程において、2種類のPMMAが螺旋状に絡み合うステレオコンプレックス※2という構造形成を利用することで、繊維自体に数ナノメートルから数十ナノメートルの任意の大きさの細孔を発現させることを可能としました。細孔サイズによっては、大きなタンパク質は細孔内部に入っていかず、逆に小さすぎると細孔内部でトラップされないため、細孔にはまり込む適度な大きさのタンパク質を選択的に吸着することができます。

 敗血症での炎症タンパク質や、自己免疫疾患での自己抗体、各種慢性疾患での原因タンパク質など、さまざまな疾患の標的となるタンパク質径に合わせて、繊維の細孔サイズを調整することが可能であり、血液浄化用病因タンパク質吸着カラムを開発する上での基盤技術となります。

 さらに、繊維断面を十字形状にすることで、繊維間の密着を抑制でき、体積あたりの表面積も増大したため、高効率なタンパク質吸着を実現しました。血液浄化用途の場合、吸着カラムの容量が大きいと、体外に持ち出される血液量が増えるため、特に高齢者や小児には負荷となる場合があります。本繊維は高効率なタンパク質吸着を達成することで、小型で高性能なタンパク質吸着カラムの実現が期待されます。

 東レは、今後も、企業理念である「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」の具現化に取り組み、人々の健康や安心な生活への社会貢献とともに持続的な成長拡大を目指してまいります。

<用語説明・注釈>
※1: 生体適合性
透析膜の生体適合性とは、血液が半透膜と接触することで起こる生体の反応の総称であり、白血球数の変動、血小板活性化や補体活性化などを指標に評価される。生体適合性が良い膜とは、人工透析中のこれら指標の生体反応が起こりにくいことで評価される。
※2: 2種類のPMMAが螺旋状に絡み合うステレオコンプレックス構造
化学構造は同じで立体的構造が異なる、「アイソタクチックPMMA」と「シンジオタクチックPMMA」を特定条件下で混合することで、両者が立体的に絡みあい、3重螺旋構造が形成され、この構造を核として相分離が起こり、ナノ細孔が形成される。
 

以 上