東レ株式会社
東レ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、このたび、今後大量発生が見込まれる車載用の使用済みリチウムイオン電池から、現状では大部分を廃棄しているリチウムを回収可能な、新規ナノろ過(NF)膜を創出しました。既に実液を用いた回収評価を開始しており、早期実用化を目指して、研究・技術開発を加速してまいります。
リチウム資源は、電気自動車の普及に伴い需要の急増が見込まれています。しかし、現在のリチウムの主要な供給源である塩湖法
※1)は、リチウム産出量の多い塩湖が限られていることが課題となっています。また、鉱石法
※2)は、生産工程が長く、高温での熱処理が必要になることから、CO
2排出量が多く、大幅なコスト高となるため、高価格が既に課題となっているリチウムイオン電池がさらに高騰するリスクがあります。
NF膜は、溶解している多価イオンや有機物を選択的に分離する特徴を有し、地下水や河川水から硬度成分や農薬を除去する用途の他、食品・バイオ用途での脱塩・精製などに用いられます。しかしながら、従来のNF膜では、強酸に対する耐久性が不足しているため、適用範囲が中性領域に限られること、さらに多価イオンに対する選択分離性が十分ではなく、効率的な分離ができない、などの課題がありました。そのため、使用済みリチウムイオン電池から、強酸を用いて有価金属を浸出・回収する試みに対し、NF膜を適用することができませんでした。
東レは、DX技術の活用により、酸による膜の性能劣化メカニズムと選択分離に最適な膜の細孔構造を解析した上で、有機合成化学/高分子化学/ナノテクノロジーを駆使し、強固な耐酸性構造と1nm以下の精密な細孔構造を兼ね備える架橋高分子膜の創出に成功しました。これにより、従来品比約5倍の耐酸性と約1.5倍のイオン選択分離性を実現しました。
本NF膜を適用することにより、有価金属を効率的に回収でき、現状では大部分を廃棄しているリチウムを、高純度かつ高収率で回収することが可能となります。更に、リチウム 1kg製造時のCO
2排出量は、鉱石法の最大約1/3に削減できます。
今後、自動車メーカー、電池メーカー、電池材料メーカー、リサイクル業者等と連携し、リチウムのリサイクル方法を確立することで、電気自動車普及に伴うリチウムの供給懸念を解消し、カーボンニュートラル社会の実現に貢献してまいります。
東レは、社会を本質的に変える力のある革新的な素材の研究・技術開発を推進することで、東レグループ企業理念である「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」の具現化に取り組んでまいります。
<用語説明>
※1)塩湖法:塩湖からかん水を汲み上げ、半年~1年半かけて天日による濃縮精製工程を経てリチウムを生産する方法。
※2)鉱石法:鉱石を採掘後、選鉱、焙焼、浸出、精製工程を経てリチウムを生産する方法。
以 上