なお、今回の受賞に関する主な技術特徴は下記の通りです。
(記)
1.テーマ
「有機ELディスプレイ絶縁膜用ポジ型感光性ポリイミドの開発」
2.本技術の特徴
有機ELディスプレイは、有機発光層を上下の電極で挟んだシンプルな構造であり、液晶セルとバックライトユニットを要し、多数の部材から構成される液晶ディスプレイに比べ、本質的に薄型化・軽量化に適しています。また表示画素自体が発光するため、原理的に低消費電力と表示応答性にも優れ、モバイル情報表示体としての適用が長年望まれていました。
しかし、有機EL発光層は、水分や不純物ガスに極めて敏感で容易に劣化しやすいことから、同発光層と直接接する絶縁膜には、アウトガス発生の極めて少ない長期信頼性に優れる材料が必須でした。また有機ELディスプレイを大量生産するためには、同絶縁膜は枚葉フォトリソグラフィープロセスと加熱焼成工程に代表されるフラットパネル生産プロセスに適合する必要がありました。
東レは、耐熱性と絶縁性に優れるポリイミド材料技術を進化させ、(1)部分エステル化ポリイミド設計、(2)感光および現像に適した分子設計、(3)均一塗布を実現するためのレオロジー制御など独自技術を開発し、有機ELディスプレイ絶縁膜に求められる高い信頼性と高い量産性を同時に満足する感光性ポリイミド材料の開発に成功し、同ディスプレイの大量生産に求められていた課題を克服することに成功しました。
3.実用状況と今後の展開
2016年のスマートフォンの世界販売台数約16億台の内、有機ELディスプレイを搭載したスマートフォンの比率は約25%と見られており、今後もその優れた特性からその比率は着実に拡大する見込みです。東レが開発したフォトニース®「DLシリーズ」は、有機ELディスプレイ絶縁膜の標準材料として、同ディスプレイを搭載している製品に幅広くに採用され、表示性能の向上に大きく貢献しています。また有機ELディスプレイはフレキシブル化が可能である利点を活かして、今後は折り曲げ型端末、ウエアラブル端末、車載用途など多彩な曲面デザインの実現による市場拡大が期待されています。
東レは、本業績で培った感光性ポリイミド技術、およびその生産システムをさらに発展させ、有機ELディスプレイの更なる普及と情報通信社会の発展に貢献してまいります。
<ご参考>
東レの「大河内賞」受賞履歴について
第60回(平成25年度) |
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「航空機用炭素繊維複合材料の開発」(生産特賞) |
第59回(平成24年度) |
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「中枢系に作用する難治性そう痒症治療薬ナルフラフィン塩酸塩の創出」(技術賞) |
第54回(平成19年度) |
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「液晶ディスプレイバックライト用高性能反射ポリエステルフィルムの開発」(生産賞) |
第52回(平成17年度) |
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「非感光ポリイミド法による携帯電話用液晶ディスプレイ向け高性能カラーフィルターの開発」(生産賞) |
第49回(平成14年度) |
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「ポリアミド複合逆浸透膜および逆浸透膜システムの開発」(生産賞) |
第47回(平成12年度) |
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「パラ系アラミドフィルムの開発」(生産賞) |
第43回(平成8年度) |
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「磁気テープ用多層ポリエステルフィルムの開発」(生産特賞) |
第41回(平成6年度) |
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「ベラプロストナトリウムの開発と企業化」(技術賞) |
第33回(昭和61年度) |
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「天然型ヒト・インターフェロン ベータ製剤の生産技術の開発」(生産賞) |
第22回(昭和50年度) |
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「溶融紡糸延伸直結法の開発と工業化」(生産賞) |
第20回(昭和48年度) |
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「新しいパラキシレンの製造技術の開発と工業化」(生産賞) |
第19回(昭和47年度) |
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「オープンエンド精紡機MS400の発明およびその工業化」(生産賞) |
第14回(昭和42年度) |
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「光ニトロソ化(PNC法)によるε-カプロラクタムの製造」(生産特賞) |
以上