データの高速伝送を可能にする低誘電率PPSフィルムの開発について

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2016.12.20

東レ株式会社



 東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、この度、耐熱性や難燃性、耐薬品性といったPPS(ポリフェニレンサルファイド)ポリマーの優れた特性を維持しながら、高耐久・難燃性フィルムとして世界最高レベルの誘電率(※1)1.9を実現させた高機能PPSフィルムを開発しました。本フィルムは、電子機器のケーブルやアンテナ、回路基板などに使用することで従来比3割増しの高速でデータを伝送できるようになり、情報化社会の発展に貢献することが期待されます。現在パイロットスケールでの技術確立が完了し、ユーザーへのサンプル提供を開始しています。

 近年、クラウドやIoTなどの発展に伴い、取り扱うデータ量はますます増加しています。大量のデータを高速に伝送するためには、伝送に用いるケーブルやアンテナ、電子回路の基材となるフィルムの低誘電率化が不可欠です。PPSは、電気特性の温度や周波数に対する変化が非常に小さいことが特徴であり、新たに誘電率を低減することで、高速伝送用途への対応を目指しています。
 PPSの特徴を維持しながら、低誘電率化するには、フィルム内に誘電率の低い空気の層を多量に形成する、すなわち空孔率を高くすることが有効です。熱可塑性フィルムの多孔化法としては、粒子を添加し、高倍率に延伸することで、フィルム内で粒子との界面に剥離を生じさせ、多孔構造を形成する方法があります。しかし、PPSと粒子は親和性が十分でなく、混練時に粒子が凝集し、巨大化した粒子を起点に破れが発生し易くなります。更に、PPSポリマーは、ベンゼン環と硫黄原子からなる単純な繰り返し単位で構成されており、分子鎖間の絡み合いが少ないことから、延伸が不均一となり、孔構造も不均一となる課題がありました。
 そこで、新規混練技術と高耐熱性の粒子表面修飾技術を新たに開発し、粒子添加時の凝集を大幅に低減することに成功しました。更に、延伸前の結晶構造を制御して微結晶を均一に形成し、分子鎖間の絡み合い点とすることで、均一に延伸できるようにしました。これらの技術を駆使することで、高倍率延伸が可能となり、空孔を効率良く、均一に形成できるようになりました。
 これに加え、粒子を添加しない層をフィルムの両表面に薄膜積層して補強層とすることで、延伸限界を従来法での粒子含有時の延伸に対し8倍まで向上させました。その結果、PPSの特徴を損なうこと無く、空孔率を5割以上に高められ、高耐久・難燃性フィルムとして世界最高レベルの誘電率1.9を実現しました。また、低誘電率の他素材と比較して加工時に必要なハンドリング性と接着性が高く、加工熱による変形が小さいため、より広い用途への適用が可能と想定されます。

 更に、今回開発したPPSフィルムの多孔構造は、電気特性以外の効果として加工時に伝わる力を緩衝させることができるため、成型性が大きく向上します。このため、電気絶縁材料や工程離型紙などの用途において、より複雑な形状への成型が可能になります。また、熱伝導率を3分の1に低減できるため、耐熱テープ基材や断熱加飾用フィルムとしても使用可能です。

 東レは、今回開発した高機能PPSフィルムの用途開拓を進め、世界で東レのみが生産する2軸延伸PPSフィルム トレリナ®の、オンリーワン製品としてのポジション強化を図るとともに、企業理念である「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」の具現化に取り組んで参ります。
 

(用語説明)
※1.誘電率 フィルムのような絶縁体は、電圧を印加すると電気は通さないものの、分極と呼ばれる電子の偏りが起こります。誘電率とはこの分極の大きさを示します。
 
以上