記
1.テーマ
「航空機用炭素繊維複合材料の開発」
2.本技術の特徴
民間航空機において、近年の燃料価格の高騰、地球環境問題への対応から、燃費改善による省エネルギー化、CO2排出量の削減が重 要課題となっており、機体軽量化に繋がる構造材料が強く求められていました。機体を軽量化するには、重さ当たりの強度、弾性率、いわゆる比強度、比弾性率 が高い材料を適用することが有効であり、従来のアルミやチタンといった金属材料から、炭素繊維などを用いた複合材料の適用が図られてきましたが、その適用 範囲は限定的なものでした。
炭素繊維複合材料(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)は、比強度、比弾性率のポテンシャルが極めて高いことから、航空機構造材料として本命視されてきましたが、主要構造材料として全面的に 適用するには、運用中に機体が受ける様々な衝撃に耐えられるタフネス性(靭性)、低温・高温、湿度や燃料による曝露に対する耐環境性、安定した品質を経済 的に合理的なコストで発現させる量産性が課題となっていました。
東レは、材料面では(1)緻密な要因分析に基づき設計した高強度、高弾性率炭素繊維トレカ®T800S、(2)エポキシ樹脂に熱可塑粒子を組み合 わせる新しいコンセプトに基づき飛躍的に靭性を高めたマトリックス樹脂3900シリーズ、を開発し、プロセス面では(3)炭素繊維の製造プロセスを上流か ら抜本的に見直すことで、高い性能と高い量産性、経済性を同時に満足する生産システムを構築し、前記した航空機の主要構造材料として求められる課題を克服 することに成功いたしました。
3.実用状況と今後の展開
東レが開発したトレカ®「T800S/3900-2B」プリプレグは、ボーイング社最新鋭の787型機の主翼、胴体、尾翼などの主要構造部材として唯一採用され、2011年の就航以来、100機以上に納入され商業飛行に供されています。
787型機は、主要構造部材にCFRPを全面的に適用(構造材に占めるCFRP比率:50%)した世界初の民間航空機であり、20%の燃費向上 (エンジンの効率化なども含む)を実現することで、世界中のエアラインから1000機以上の受注を受けるベストセラー機となっています。
東レは、本業績で培った技術、787型機で実証したCFRPの有効性・信頼性を活かし、今後開発される次世代航空機へのCFRPの適用、さらには自動車などの産業用途へのCFRP展開を進めて参ります。
<ご参考>
東レの「大河内賞」受賞履歴について
第60回(平成25年度)
「航空機用炭素繊維複合材料の開発」(生産特賞)
第59回(平成24年度)
「中枢系に作用する難治性そう痒症治療薬ナルフラフィン塩酸塩の創出」(技術賞)
第54回(平成19年度)
「液晶ディスプレイバックライト用高性能反射ポリエステルフィルムの開発」(生産賞)
第52回(平成17年度)
「非感光ポリイミド法による携帯電話用液晶ディスプレイ向け高性能カラーフィルターの開発」(生産賞)
第49回(平成14年度)
「ポリアミド複合逆浸透膜および逆浸透膜システムの開発」(生産賞)
第47回(平成12年度)
「パラ系アラミドフィルムの開発」(生産賞)
第43回(平成8年度)
「磁気テープ用多層ポリエステルフィルムの開発」(生産特賞)
第41回(平成6年度)
「ベラプロストナトリウムの開発と企業化」(技術賞)
第33回(昭和61年度)
「天然型ヒト・インターフェロン ベータ製剤の生産技術の開発」(生産賞)
第22回(昭和50年度)
「溶融紡糸延伸直結法の開発と工業化」(生産賞)
第20回(昭和48年度)
「新しいパラキシレンの製造技術の開発と工業化」(生産賞)
第19回(昭和47年度)
「オープンエンド精紡機MS400の発明およびその工業化」(生産賞)
第14回(昭和42年度)
「光ニトロソ化(PNC法)によるε-カプロラクタムの製造」(生産特賞)
以上