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次世代半導体保護膜向け「低温硬化型ポジ型感光性ポリイミド」を開発 -残留応力を半減、170℃で硬化できるポジ型感光性ポリイミドの開発に世界で初めて成功-

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2012.01.06

東レ株式会社

東レ株式会社(東京都中央区、社長:日覺昭廣、以下「東レ」)は、このたび、新たな分子設計技術と架橋技術により、高い耐薬品性や耐熱性を実現しながら170℃の低温硬化ができ、かつ残留応力が従来の低温硬化型材料の約半分となる13MPa以下のポジ型感光性ポリイミドの開発に世界で初めて成功しました。本材料は、ポジ型の優れた解像性を有するとともに、汎用のアルカリ水溶液による現像が可能です。
 特に低温硬化・低応力が求められる次世代半導体向けを中心に、多数の大手半導体メーカーでの評価が進んでおり、東レの感光性ポリイミドコーティング剤“フォトニース®”の新シリーズ「LTシリーズ」として、本格販売に向けた提案を加速してまいります。

 携帯情報端末などITツールの高機能化・多機能化の進展に伴い、そのキーデバイスである半導体も処理能力の高度化が求められています。半導体のさらなる微細化、高速化の実現に向けては、回路形成に低誘電率の層間絶縁膜1)や高誘電率のゲート絶縁膜2)の導入が進められていますが、膜構造の脆弱化による耐熱性の低下や、熱による性能変化などの問題が指摘されています。また、より高密度化を行うため、半導体チップの積層やTSV構造3)の採用が広がっていますが、チップの薄型化によって、キュア後の残留応力によるウェハーの反りが課題となっています。
 こうした次世代半導体の信頼性を高めるには、低温硬化が可能で低応力な保護膜4)が必要であり、特に、より高い解像度が得られるポジ型の感光性コーティング材料へのニーズが高まっていました。

 これに対して、東レが今回開発したポジ型感光性ポリイミドは、新たにポリイミドの分子構造設計と架橋剤設計を行うことにより、要求される耐薬品性や耐熱性を高いレベルで実現しながら、エポキシ樹脂と同等の170℃での低温硬化を世界で初めて可能にしました。同時に、従来の低温硬化型材料の約半分となる残留応力13MPaという低応力を達成しています。また、ポジ型の優れた解像性を有するとともに、汎用のアルカリ水溶液による現像ができ、環境に配慮した設計となっています。
 本材料は、次世代半導体デバイスの信頼性と歩留まりの向上への貢献が期待されます。

 現在、半導体保護膜向けコーティング剤の市場規模は約200億円と推定され、今後も増加傾向の継続が見込まれています。東レのポジ型感光性ポリイミドコーティング剤“フォトニース®”は、世界最高レベルの感光性能と寸法加工精度を有する材料として広く採用されており、ポジ型感光性ポリイミドとしては世界第1位のシェアを獲得しています。
 東レは、今回開発した低温硬化型ポジ型感光性ポリイミドを新たに製品ラインナップに加えることで、次世代以降の半導体保護膜、再配線、TSVなどの新規用途開拓を推進し、ポジ型感光性ポリイミドで50%以上のシェア獲得を目指します。

 東レは、中期経営課題「プロジェクトAP-G 2013」において、「情報・通信・エレクトロニクス」を重点4領域の一つに設定しています。今後もコーポレートスローガンである “Innovation by Chemistry”を実践し、“Chemistry”を核に、樹脂設計技術、微細加工技術、ナノテクノロジーの融合によって先端材料を提供してまいります。

 東レが今回開発した「低温硬化型ポジ型感光性ポリイミド」の技術詳細は下記の通りです。

本材料の開発背景と技術ポイント
微細化、高速化が進む次世代半導体デバイスでは、信頼性と歩留まり向上のため低温硬化・低応力な保護膜が必要とされており、これに適した感光性コーティング材料が求められています。これまでも200℃程度で硬化できる感光性材料はありましたが、低温処理への要求はさらに強まっており、具体的には170℃程度で硬化できる材料が期待されていました。
 また、これまで低温硬化型材料は、露光した部分が不溶化するネガ型のものが主流でしたが、半導体分野では、より高い解像性が得られることから、露光した部分が可溶化するポジ型の感光性ポリイミドへの要求が高くなっていました。ネガ型の場合は、露光した部分が架橋反応を起こし、現像処理で残るために、耐薬品性や耐熱性の向上が比較的容易である一方で、ポジ型は光分解反応を用いるために、光反応による物性の向上ができないことが大きな課題となっていました。
 東レが今回開発したポジ型ポリイミドは、新たなポリイミドの分子構造設計とともに、パターン加工時に加える120℃の熱処理では反応せず、また、170℃で十分に反応する独自の架橋剤設計を行うことにより、半田バンププロセスに耐える高い耐薬品性と、高い耐熱性を実現しました。これにより、これまで不可能であったエポキシ樹脂と同等の170℃での低温硬化を世界で初めて実現すると同時に、残留応力13MPaとこれまでの低温硬化材料の約半分の低応力を達成し、チップ積層時に問題となるウェハーの反り量の大幅な低減を可能としました。
 さらに、ポジ型の優れた解像性を有するとともに、可溶性ポリイミド樹脂との相溶性が良く、かつ汎用のアルカリ水溶液に溶解する感光成分を開発し、それらをナノレベルで均一に相溶化させることで、アルカリ現像が可能です。

本材料の特長
(1) 170℃程度の低温で硬化できます。
(2) キュア後の残留応力が13MPaと、これまでの低温硬化材料に比べても約半分と小さく、ウェハーの反りがほとんど起こりません。
(3) ポジ型の感光性を有しており、膜厚5μmの場合、3μmのパターン解像ができます。
(4) 汎用のレジスト現像液であるアルカリ水溶液(2.38%TMAH)で現像できます。
(5) バンプ5)形成プロセスに耐える耐薬品性を有しています。
(6) 半田プロセス(260~280℃)に耐える300℃以上の優れた耐熱性を有しています。
(7) 機械物性は伸度15~40%と、従来のポリイミド材料と遜色ありません。

なお、本材料は半導体デバイスにおけるパッケージング専門技術展「第13回 半導体パッケージング技術展」(会期:1月18日(水)~20日(金)、会場:東京ビッグサイト)の当社ブースにてご紹介します。

【技術用語について】
1)層間絶縁膜
 半導体デバイス上に何層もの配線を形成する多層配線技術では、各層の配線および同層内の配線を電気的に絶縁するために、層間絶縁膜で配線を被覆する。集積回路の高速化には、トランジスタ間を接続する配線抵抗と、配線間に蓄積される電気容量を低減させることが必要で、電気を貯めにくい性質(低誘電率)の絶縁膜の導入が進められている。低誘電率化するために空孔を導入した多孔質の層間絶縁膜が検討されているが、耐熱性、機械強度が低下するという問題が指摘されている。
2)ゲート絶縁膜
 トランジスタのオン・オフを制御するためにあるゲート電極を絶縁するために形成される。これまでは二酸化ケイ素を使っていたが、回路の微細化によりゲート絶縁膜の厚みが薄くなるにつれて量子トンネル効果によりリーク電流が増大するという問題が発生した。これに対して二酸化ケイ素より誘電率の大きな材料であるハフニウム、タンタルなどの酸化物を絶縁膜として用いることで、リーク電流を抑制できることを見出し、65ナノメートル世代以降で本格採用が始まる。これらの高誘電率材料は結晶構造が熱で変化し、誘電率が変わりやすいと言われている。
3)TSV構造
 TSVはThrough-Silicone viaの略。 複数の半導体チップを垂直に積み上げる方式の1つである。TSV構造の前の積層実装では、半導体チップを少しだけずらして積層を行い、ワイヤーボンド方式で外部への接続を行っていた。TSVでは、チップ内にビアを形成し、積層することで、半導体チップサイズでの実装ができるとともに、配線距離が短くなり、高速応答が容易になる。このため、特にDRAMなどでTSV化が検討されている。
4)保護膜(バッファーコート)
 表面保護、応力緩和を目的とする材料。封止材とシリコンとの間に配置し、両者の熱膨張係数差により発生するクラックを防止するバッファー層として機能する。
5)バンプ
 半導体チップと回路基板の電気的接続を行うために、半導体チップ上に形成した高さ数~数十μmのAuやハンダなどで形成された突起のこと。バンプと回路基板上に形成した電極パッドを接触や金属結合させることで、LSIチップと回路基板の電気的接続を行う。

以上