
東レのエンジニアリング開発センターが挑んだ最初の挑戦は「恐竜ちゃん」の魔改造。
子ども向けの玩具である「恐竜ちゃん」で缶を飛ばす飛距離を競った。
歩く、蹴るを実現するため、歩行機構チーム、缶蹴りチーム、そして全ての動作を制御する制御チームを編成し挑んだ。
魔改造によって誕生したユウカンザウルスを徹底解剖する。

- 一、恐竜ちゃんの魔改造であること
- 一、10mの助走路を走り、一連の動作で缶を蹴り、空き缶を遠くまで蹴り飛ばしたチームが優勝
- ー、左脚で蹴って、一発のインパクトで蹴り飛ばすこと
- ー、ノーバウンドで壁(30m)に当たったら優勝とする
- ー、試技は二回、改造費は5万円以内
- ー、失敗しても構わない
- ※本ルールは、恐竜ちゃんの魔改造内容を解説するための、独自の要約となっています。
説明の簡素化のため、番組と異なるニュアンス・解釈の表現になっている場合があります。
1.ユウカンザウルスとは?








スイッチを押すとモーターが動き、鳴く、走る動作がスタートする。走行路にマークした白テープをセンサーで検知しながらテープに沿って時速2.5km/hで直進。指定の白線(1回目)まで到達すると低速に切り替わり、白線(2回目)で缶を蹴り出す動作を開始する。
蹴り出し動作がはじまると電磁弁、エアシリンダーが作動し、蹴り足を止めていた紐をハサミで切断。バネ3本が縮む力によって足を高速回転させ、缶を蹴りあげる。恐竜のフォルムを維持する必要があったため、走り足が収納されると同時に、蹴り足が現れる機構も組み込んだ。
ライントレースは高精度の赤外線センサーを採用し、左右に傾いた際の調整は出力により制御。マイコン(Arduino)を2台搭載し、複雑な動作の制御を行っている。
2.技術ポイント:30m飛ばすための「蹴り足の機構」







ユウカンザウルスの目標は、缶を30m飛ばすこと。そこから逆算し、缶を飛ばすエネルギ、初速、飛び出し角度、飛行姿勢を導き出した。初速は145km/h以上、飛び出し角度30〜35°、無回転での飛行を実現させるためさまざまな材質、構造の蹴り足で検証実験を行った。その結果、軽量化と強度の観点から蹴り足はCFRPの板とパイプが採用された。缶蹴りのインパクト時にしなりが戻るように蹴り足の厚みを最適化している。
飛距離を伸ばすためには缶と足先の接触時間を長くし、力積を大きくする必要があった。缶と直接触れる足先には、テニスガット、ストッキングなど様々な部材を検討した結果、接触時間と飛び出し角度を両立する輪ゴム3本を3重にして使用。変形レスで長い飛距離が叶った。


これらの各技術は互いに強く影響し、設計として高度に融合・インテグレーションされている。インパクトタイミングをばねの固有振動数・引き量から精密に予測、それに合わせて足のしなり戻りの運動エネルギを最大化することで、2つのエネルギーが完璧に合わさり、高速のインパクトを生み出した。更に、足先が変形し、“第2のしなり”を生み、缶を優しく加速させつつ飛出し角度を決定する。これにより、より速く、より遠くに蹴り上げる驚異的な蹴り足を実現した。
3.技術ポイント:「大バサミ」によるばね掛け


1本約80kgの力が必要な強力なばねを3本使用することにより、強靭な脚力が実現した。ばねの設置は5人がかりで行う、危険が伴う作業。ばね掛けに使用する超大型プライヤー、通称「大バサミ」も自作品。途中、破損するトラブルも起きた。
競技当日はスタンバイ時間が5分しかないため、スピーディーに設置することが求められた。魔改造期間中も筋肉痛や集中力の低下によって事故が起きないよう細心の注意が払われた。
4.戦略:スタンバイ時のチーム連携

「魔改造の夜」本番では2回の試技が行われた。各試技前のスタンバイの時間は5分。運搬から、各機構の確認、調整をしたうえで3本のばね掛け作業、圧空充填、動作確認までを5分以内に完了させるため、メンバーにはそれぞれの役割が与えられた。目標を4分30秒に設定。練習時から時間を意識して取り組んだ結果、本番では第1試技4分33分、第2試技4分47秒(弊社独自測定)で完了することができた。
5.挑戦の軌跡

CAE解析と実証実験を繰り返した結果、最終的に513本の缶を使用することとなった。2台のテスト機での検証とアップデートを重ね、テスト機(振り子2号機)で5週目に目標の30mを到達。最大飛距離は35mまで伸びた。本番機でも本番直前に32mという数値を出した。