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ビニール傘の 魔改造から生まれた 開く君へ

開く君への構造を徹底解剖

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東レのエンジニアリング開発センターが挑んだ2つ目の挑戦は「ビニール傘滞空マッチ」。
魔改造したビニール傘を飛ばし、滞空時間を競うというもの。
東レチームは2つのモンスターで挑んだ。
第1試技に登場した「開く君へ」を徹底解剖する。

Rule
  • 一、ビニール傘の魔改造であること
  • 一、ビニール傘の滞空時間が長いチームが優勝
  • ー、傘とは、「雨が当たらないよう頭上に広げさしかざすもの」である
  • ー、高さ1.5m地点から投げ、空中でビニール傘が開くこと
  • ー、試技は二回、改造費は5万円以内
  • ー、失敗しても構わない
  • ※本ルールは、ビニール傘の魔改造内容を解説するための、独自の要約となっています。
    説明の簡素化のため、番組と異なるニュアンス・解釈の表現になっている場合があります。

1.「開く君へ」とは?

動力を用いない自由落下方式の追求により誕生した「開く君へ」。原理的に落下を免れられないため、取りうる方策は次の二つであった。一つは高く投げ上げて落下距離を稼ぐことであり、上空への投擲性を追い求めた結果、「逆さ傘」の基本構造にたどり着いた。もう一つは落下速度を小さくすることであり、そのために空気を受ける生地面積を生贄傘より大きくしつつも、徹底した軽量化と空力特性の最適化が施された。

センターシャフト末端には、ボールペンのノック機構を利用した親骨ロックが取り付けられている。本機構の「はなまるリング」が、親骨先端を掴むことで、傘の閉じた状態を維持できる。さらにノックボタンを指で押し込んだ状態で上空に投げると、指が離れてボタンが引き戻り、親骨のロックが外れる。投擲直後は対気速度が速く、空気抵抗により傘は閉じたままの状態を保つが、やがて失速するとバネの力が空気抵抗に勝ち、最上点で自動的に傘が開く。また、持ち手を投擲先端に配した「逆さ傘」構造により、重心がわずかに先端に寄り、上昇時と落下時の風見(姿勢)安定、及び最上点でのひっくり返りを実現。ひっくり返ることで地面までの距離を長くする効果を得た。
度重なる実験の結果、確実に傘が開くこと、そしてひっくり返るためには投擲角度75°がベストだと導き出す。また、ひっくり返った勢いで落下中に、「くるくる」とらせんを描くことが分かった。これにより対気速度が生まれて揚力が生じ、より一層滞空時間を延ばすことができた。

2.「開く君へ」の技術ポイント

落下速度を小さくするために妥協なき軽量化が施された。構成部品ができる限り少なくなるように設計し、関節部材はすべてカーボン樹脂3Dプリントで軽量に作り直している。親骨、センターシャフト等の基本骨格は、投擲と滞空落下時の風圧に耐えられる強度も求められるため、太さ、断面形状の異なる市販カーボンシャフトを適所に組み合わせて作り上げた。このように元々の生贄傘の部品をそのまま使用したのは持ち手部分ぐらいというほどに素材の置き換えを徹底。その持ち手さえも精密加工で内部をくり抜き、さらに手仕上げで0.3mm厚まで磨き上げて軽くしている。ボールペンから着想した親骨ロックも、タイマーや加速度センサーなどの電気的な機構を搭載せずに傘の自動展開を実現し、軽量化に大きく寄与した。10回以上の試作を重ね、本番機の重量は生贄傘の約1/3となる114.5gに到達した。

落下速度を小さくするために空力特性も最適化された。上空で開いた「開く君へ」の生地には、航空機の主翼に見られるようなわずかな反り(上反角)を設けた。上反角により傘の姿勢の崩れ(傾き)に対して、復元方向のモーメントが働くため、滞空落下時に振幅減衰型の姿勢安定を実現できた。上反角を大きくするほど姿勢は安定しやすくなるが空気を受け流してしまい滞空力は弱くなる。幾度となる投擲検証の結果、安定姿勢をギリギリ保つ角度4.8°を導き出した。
親骨の本数も詳細に検討した。親骨本数を増やすと生地面積が増えて、滞空力が増加する一方、重量が増してしまう。そこで親骨1本当たりの重量変化と、生地面積変化から滞空時間を試算し、滞空時間は親骨6本(六角形の生地形状)のときに計算上最大値を取ることを突き詰め、自由落下に最適化された「開く君へ」が遂に完成した。

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