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秘めたるエンジニアの 力を世に! 番組参加に込めた 未来への期待

エンジニアリング開発センター所長が想いを語る
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エンジニアリング開発センター 所長:野村文保

超一流のエンジニアたちが極限のアイデアとテクニックを競う技術開発エンタメ番組「魔改造の夜」。 「子どものおもちゃ」や「日常使用の家電」がエンジニアたちの手によりえげつないモンスターへと改造される。過去には機器メーカーや製造業を主体する企業の参加が多かったこの番組に、一般的にエンジニアリングのイメージのない東レがなぜ出演することに至ったのか?出演を決断した「エンジニアリング開発センター」所長の野村文保に思いを聞いた。

―まずは「魔改造の夜」へ挑戦を決めた背景を教えてください。

野村

素材メーカーである東レに機械や電気、電子制御等の機器を扱うエンジニアがいることを知らない方もいるのではないでしょうか。私たちが作っているのは「世の中にまだ無い、価値ある素材」であることが多いです。たとえば、炭素繊維は鉄より4分の1の重さで強度は10倍という夢のような素材です。

世の中にまだ無い素材を作るためには、世の中にまだ無い装置から開発し、プロセスを確立しなければなりません。この大切な仕事を、東レでは「エンジニアリング開発センター」が担っています。全社横断型の部署として、主に機械工学系や電気工学系のエンジニアが集まり、ものづくりに必要な装置やプロセスの開発を担当しています。

具体的には、キーデバイスとなる実験機レベルの開発、そして生産機へのスケールアップ技術を担当しています。安定して高精度に、高品質に、そして無駄なく効率的に生産するためのノウハウを織り込んだ生産プロセスを実証し、実際の生産機へと展開していくのです。

しかしながら、装置や生産プロセスは「ブラックボックス」が前提です。素材(製品)自体に価値があるのはもちろんのこと、素材メーカーにとっては、作り出す生産プロセスが付加価値として重要な資産となるからです。たとえば、我々がエンジニアの成果としてプロセスを公開したり、製造方法をパッケージ化して売却してしまったりすると、競合企業が簡単に同じ製品を製造することが出来てしまう可能性があります。そうなれば、東レが苦心して生み出した素材の付加価値が失われ、企業としてその素材を作り続けることができなくなってしまいます。

必然的に東レにエンジニアがいることは外から見えにくく、彼らの活躍を自ら発信することもほとんどありません。ただ、東レには機械や電気、電子制御に長けた優秀なエンジニアが揃っており、彼らのパフォーマンスを世間へ発信する機会として、「魔改造の夜」はうってつけだと考えたのです。

エンジニアリング開発センター 所長 野村文保

―「魔改造の夜」の挑戦で、所内にどのような影響を期待しましたか?

野村

「魔改造の夜」には「エンジニアをヒーローに」という理念がありますが、まさにそれを実現したいと考えました。1ヶ月半という短期間で濃密な経験ができ、東レのエンジニアとしての誇りを持つ良い機会になると思いました。今後の業務に戻った際にも、ヒーローである彼らに、さらなる新たなものづくりに挑戦してもらいたかったのです。

東レでは、社員が元気にワクワク感を持って仕事ができることを重要視して、一人ひとりの挑戦を称賛する「はじめの一歩賞」といった取り組みがあります。ただ、普段の業務においては、一つの新製品を生み出すまで数年単位でかかることは珍しくありません。その中で「魔改造の夜」のような短期間のプロジェクトで、充実感や成長の機会を味わえる、そしてゼロの立ち上げから結果まで得られることは、社内ではなかなか多くありませんから、まさにチャンスだと感じたわけです。

また、最近の傾向として、製品サイクルがどんどん短くなっています。新興国の台頭により、最初は高付加価値だった製品も徐々にコモディティ化していく。この変化の波に乗り遅れないためには、ワクワク感を持ったエンジニアが次々に新製品を生み出し、市場の変化についていく必要があります。それこそが東レの企業理念である「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」を体現する道の一つでもあると考えたのです。

若い世代のエンジニアのパワーを活かし、「魔改造の夜」への挑戦を楽しんでもらうことで、東レで取り組むものづくりの面白さや魅力を改めて感じてもらえたらとも思いました。

「魔改造の夜」生贄発表の瞬間に集まったエンジニアの面々
「魔改造の夜」生贄発表後、生贄となるビニール傘を手に。
「エンジニアリング開発センター」のある東レ滋賀事業場

―チームはどのように組織されたのでしょうか?

野村

最初は番組の参加に際して、有志を募る所内アンケートを取りました。結果的には所内のほぼ半数が手を挙げてくれました。さらにリーダー志望者を募ると、数名の立候補がありました。そこから本人の意向や通常業務への影響も考慮しながら、チームリーダーとサブリーダーを決定しました。さらに、各リーダーの業務負担調整も兼ねて、上司にメンターとして関わってもらいました。

私自身はあくまで全体を俯瞰的に見守る立場をとり、必要に応じてアドバイスをする程度に留めました。これは、若手エンジニアたちの成長の機会を最大限に活かすためです。

エンジニアのリーダーになるためには、単に技術力だけでなくリーダーシップも必要です。自分のコンセプトや考え方を持ち、様々な技術やアイデアを統合し、取捨選択する能力も求められます。通常、企業内でこうしたリーダーシップの育成には相応の時間がかかります。

「魔改造の夜」は短期間でプロジェクトのコンセプト作り、チームマネジメント、時間管理など、リーダーシップに必要な要素を凝縮して体験できる貴重な機会となりましたね。参加したメンバーは、自身のリーダーシップの課題に直面し、チーム内の意見をまとめることの難しさや、時間的プレッシャーの中での意思決定の重要性を実感したようです。こうした経験は、将来のプロジェクトリーダーとしての素養を磨く上で、非常に価値のあるものです。

「魔改造の夜」に参加したエンジニア

―「魔改造の夜」に挑むメンバーに、どのような感想を持ちましたか?

野村

まず、リーダーの成長が目覚ましかったことが印象的でした。今回の経験を活かして、今後はエンジニアリング開発センターのキーマンやマネージャーとして活躍することを期待しています。

参加メンバー全体に関しては、フラットな環境で自分の考えを表現し、それを実現していく過程がとても貴重だったと感じています。リーダーの思いを理解しつつ、自分たちの能力の限界に挑戦する姿勢も見られました。日常の業務でも様々なアイデアを提案する際に大いに活かされるでしょう。

特筆すべきは、上下関係にとらわれない、フラットな関係の中で自分の実力を試せたことです。エンジニアリング開発センターは業務の際も、横断的に取り組む組織ではありますが、「魔改造の夜」を通じて、さらに深い横のつながりも生まれたはずです。

普段は4〜5人ほどの少人数チームで仕事をしている参加者たちも、今回のプロジェクトで他のグループのメンバーが持つ技術や能力を知る機会を得ました。例えば、繊維を扱う部署の人が電子制御の仕事に携わったりと、全く異なる分野の人たちが協力し合う場面が多々ありました。リアルな場での協働を通じて、東レグループの価値を再認識し、それが今後の製品開発にも表れてくれば、番組への参加は成功だったと言えますね。

ビニール傘チームのリーダー坂下竜太(写真中央)、メンターの藤内俊平(写真左)
恐竜ちゃんチームのリーダー平川萌香
恐竜ちゃんチームのサブリーダー中尾亮太

―完成した作品と最終結果を見て、どのようなことを感じましたか?

野村

「恐竜ちゃん」のプロジェクトは、最初はかなり挑戦的に感じられました。30mという距離を缶蹴りで飛ばすことの現実味がなかったんです。しかし、様々なアプローチを試している中で、テニスラケットを使って30m飛ばせることが分かった時点で、チームの中に「できる」という確信が生まれました。

エンジニアにとって「できる」という事実を掴むことは重要です。全く見通しが立たない状態で長期間取り組むのは難しいですから。一度でも「できる」が分かれば、物理法則や工学の原理原則を使って、どうすれば目標を達成できるかを追求できるのです。

そんな途中経過を見ていて、私は「絶対に優勝できる」と確信しました。素材メーカーとしてのエンジニアのセンスで、装置に様々な機能を持たせる技術は我々の強みでもあります。その強みが十分に発揮されていると感じました。

一方で「ビニール傘」のプロジェクトは、当初からゴールが見えにくい挑戦でした。滞空時間を競うという課題に対して、どこまでが達成可能なのか、その目標値自体を自分たちで決めなければならないことに難しさがありましたね。エンジニアにとって目標値の設定は重要ですから。ただ、様々な制約や追加ルールを課された中でも創意工夫が光り、普段の開発プロセス同様に粘り強く取り組み、成果を収められたのは一つの良い経験だったはずです。

生贄の恐竜ちゃんと缶
恐竜ちゃんチームの開発の拠点
ビニール傘チームのテスト機。ゴールが見えないが故に2軸で開発が進んだ

―今回の挑戦を経て、今後の展望をお聞かせください

野村

素材メーカーで働くエンジニアの魅力は、世の中に無い新しい素材を生み出すための装置やプロセスを一貫して開発できることにあります。一般的な機械メーカーでは既存製品の改良や部品単位での開発が中心となります。たとえば、自動車なら「サスペンション」や「エンジン」といった単位の開発が主です。ただ、東レは素材メーカーとしてお客様と共に、社会の便利さや快適さを上げるような、全く新しい価値を創造する挑戦ができる。

そのために世の中に存在しない装置を自分たちで考え、設計し、実現していく。これは、他の業界ではなかなか味わえない醍醐味の一つです。さらに、私たちの仕事は単に機械を作るだけではない。新しい素材に様々な機能を持たせるため、加工的なプロセスと機械工学を融合させる必要もあります。これも、まさに素材メーカーならではの挑戦と言えるでしょう。

「魔改造の夜」への参加は、東レのエンジニアたちの存在を世に知らせる良い機会になったと感じます。成長したエンジニアたちが本業でさらに活躍することはもちろん、次の世代を育成してくれることにも期待していますね。東レは引き続きチャレンジングな機会を社員へ提供していきたいですし、それらを社外にも発信し、「こんな会社で働きたい」と思ってもらえる人材を惹き付けられれば、今回の挑戦は大成功だったと言えるでしょう。

文:長谷川賢人
写真:上野裕二
編集:花沢亜衣

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