東レ先端材料シンポジウム2016

先端材料が拓く 地球の未来

Part3

安全・安心に関わる予防・防御、
環境保全に貢献する先端材料

 Part3は、未来社会へのキーワードである「持続可能」「安全・安心」「超スマート社会」「健康長寿」という着眼点で、現在、力を入れている先端材料の例をいくつかご紹介します。

持続可能な社会へ

 持続可能な社会への取り組みについては、まさに、当社のグリーンイノベーションへの取り組みそのものであり、現在の環境問題の本質は、エネルギー、水・空気、食糧と考えています。それを踏まえた当社の着眼点が表の縦軸で、横軸に当社の事業分野を取って、その代表的な取り組みを示しています。省エネルギーでは高機能繊維、軽量化に貢献できる材料、新エネルギーでは新しい電池や半導体の関連材料、化石資源に代わる人間が食べられない植物のバイオマスからの有価物の創製、水処理用高機能分離膜などに注力しています。その中から、炭素繊維と高機能分離膜の例についてご紹介します。

持続可能な社会への取り組み

炭素繊維

 炭素繊維はたゆまぬ極限追求を続けています。たとえば引っ張り強度も、当社のナノテク、ケミストリーなどの総合力をフルに活用して、極限を追求しています。従来は、破壊起点となる欠陥について、ナノメートルオーダーの、わずかな表面欠陥もなくして強度を上げて参りました。最近では、ナノメートルよりさらに一桁小さい、炭素の結晶構造の制御で、破壊の伝搬を抑制する技術を開発しました。実際に、破壊が伝搬しにくいものは、破断面の凹凸が大きくなり、強度も大きく向上できることを見出しました。

 この炭素繊維複合材料で、ボーイング社と当社は、過去から緊密な連携を進めてきました。ボーイング777型機で、尾翼などの、いわゆる1次構造材料に世界で初めて採用され、また、炭素繊維を多用した787型機では、緊密な連携で開発と材料認定を進めてきました。今回の新たな枠組みでは、CTOプロジェクトとして、東レ全体に蓄積されたマテリアルサイエンス、ナノテクノロジーなどの最先端技術を総動員し、東レの材料技術とボーイング社の航空機設計技術を融合し、お互いに踏み込んだ形で、全体最適化のための共同開発を推進中です。ボーイング社のハイスロップCTOと私が、がっちりと連携し、航空・宇宙分野での炭素繊維複合材料の拡大を、さらに加速していきます。

高機能分離膜

 では次に、水処理に話を移します。海水を真水に変えるRO膜ですが、表面の薄い機能層の設計がポイントで、「しお」を除去する能力(除去率)を高めるには、機能層の微細な孔を小さくしますが、そうすると水が通りにくくなり、造水量が低下するという、二律背反に直面します。高性能RO膜の分離機能層を拡大すると、その表面には独特の「ひだ」構造が観られます。この「ひだ」の構造設計と、分子動力学計算なども駆使した細孔の設計によって、この二律背反をブレークスルーし、世界最高レベルの除去率と造水量を達成できています。そして当社のRO膜は、世界の多くの国で採用され、5000万トンの水を、毎日作っています。

 この分離膜技術をさらに深化させ、水処理では、有価物回収、油水分離など、へルスケアでは、化学防護服、新しい血液浄化器などに展開していきます。ケミカルでは、膜技術とバイオの技術の融合である膜利用バイオプロセスとして、非可食のバイオマスから高純度の糖を効率的に作る技術を確立、実証試験を始めています。

環境対応自動車

 新エネルギーでは、リチウムイオン電池のセパレータ、燃料電池の電解質膜など、環境対応社会への布石を打ってきています。そのひとつが環境対応車への取り組みです。電気自動車は、リチウムイオン電池に充電した電気で走りますが、この電池の正極と負極の間に、火災を防止するため、セパレータという高分子膜が入っています。ここに当社のフィルム技術、ナノテクなどを駆使して、電気を通す微細な孔を、均一に形成したポリエチレン膜を開発し、生産を拡大中です。また、耐熱性・難燃性に優れたアラミド膜も研究中です。燃料電池車でも、燃料タンクである水素タンクの補強や、燃料電池の電極に炭素繊維が使用されています。また燃料電池の発電の心臓部である電解質膜も、当社独自の高分子膜を開発し、電池メーカーで評価中です。もちろん電池材料以外にも、炭素繊維をはじめ、繊維、樹脂、フィルムなど「車は東レの素材で進化する」を合い言葉に、自動車用先端材料の創出を、さらに加速していきます。

環境対応自動車への取り組み