PROJECT STORY 03
東レ×ユニクロ

服で、生活を豊かにするアパレルメーカーと
素材で、社会を変える
素材メーカーとの最強タッグ

ファッションの世界に関心のある人なら東レとユニクロの強力なパートナーシップについて知っているかもしれない。両社の協働は18年目を迎えている。ヒートテックやエアリズム、ウルトラライトダウンといったヒット商品は、そんなコラボレーションのなかで生まれた画期的な高機能製品だ。
LifeWearという新しい服のカテゴリーで、人々の生活をより豊かに快適にしていくユニクロと、高機能素材でイノベーションを起こし、社会を変えていく東レの戦略的パートナーシップは年を重ねるごとに進化してきた。昨年10月にはニューヨークで、今年3月にはパリで世界のマスメディアに向けたイベントを両社で共催し、世界に向けて、ユニクロのLifeWearを支える東レのイノベーションとテクノロジーを紹介し大きな反響を得た。
東レとユニクロのパートナーシップを世界に初めて大々的に発信することとなったこのプロジェクトに携わった社員がどういう想いで実施し、何を得たのか。また今後、何を目指していこうとしているのか、まとめてみよう。

Project Member

鈴木 太樹
株式会社ユニクロ(出向)
グローバルマーケティング部
グローバルPRチーム
2006年入社 経済学部経済学科卒業
阿部 渡
繊維加工技術部 G-SCM技術室
2001年入社
高等専門学校物質工学科卒

集まった世界中のメディアが
東レとユニクロが生み出す
イノベーションに注目した

 2017年10月24日、アメリカのニューヨークで開催された東レとユニクロの合同展示会に、世界17カ国から100以上のメディアが集まった。「The Art and Science of LifeWear -Celebrating 15 Years of Innovation-」と題されたイベントを主催したのは、東レとユニクロという日本を代表する異業種の組み合わせだ。しかも会場には、ヒートテックや、エアリズム、ドライEX、ウルトラライトダウン、感動パンツといった両社の共同開発商品が展示されていただけでなく、炭素繊維複合材料(CFRP)や有機薄膜太陽電池(OPV)など、東レの最先端技術までも紹介され、大きな話題になった。
「普段、東レ単独のイベントに来る様な素材やテック系のメディアだけではなく、ユニクロだからこそ関心を持って頂けたファッションやアート系まで幅広いメディアを呼べたのは、両社合同で開催する一つの狙いでした。東レをあまり知らなかった人達が、服から宇宙まで幅広い分野でイノベーションを起こしている企業であることや、ヒートテックなどの商品に東レの先端テクノロジーが使われていることを知り、驚かれたのではないかと思います。」
 そう説明するのは、東レとユニクロの共同プロジェクトにおいて中核的な役割を果たしている鈴木太樹だ。彼は現在、株式会社ユニクロのグローバルマーケティング部グローバルPRチームに出向するかたちで籍を置き、同社の一員として働いている。
「これまでも何人かの東レ社員が同じように出向することにより、両社の関係はさらに強く、深いものになっていきました。私自身も、文化の異なる職場で働けることを楽しいと感じています。」
 その「楽しい」と感じる理由は後述するとして、両社のパートナーシップが始まったきっかけから解説していこう。

グローバルにみたら繊維は成長産業
そこにビジネスチャンスがあるはず

 1970年代以降、円高により競争力を失っていった日本の繊維メーカーは「脱繊維」を進めていた。他の事業への転換を図ることで、化学メーカーとしての再生を考えたのである。東レが他社と違ったのは、高分子化学、有機合成化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーのコア技術をベースとした事業領域の拡大を行いながらも繊維の開発・生産から手を引く考えがなかったことだ。1987年に社長に就任した故前田勝之助氏は常々『グローバルにみれば繊維は成長産業だ』と口にしていた。世界の繊維市場は新興国の成長とともに拡大を続けており、競争力のある製品を開発できればビジネスチャンスは十分にあったのだ。2000年当時、繊維業界では、米国発の株主資本主義の時流に迎合して繊維事業の分社化、収束が進んでいたが、この前田の言葉に動いた人物がいる。
 2000年4月当時フリースなどのヒット商品でユニクロを瞬く間に有名ブランドに育て、「アパレルに革命を起こした」と評されていたユニクロの柳井社長は、「世界最高品質の素材を適正価格で継続的に大量生産供給すること、合繊の持つ機能性の良さを世界中の消費者に伝えること、どこにもない新素材を開発し世界のあらゆる人に着てもらうこと、これらのことを実現できるのは東レとの協働以外には有り得ない」と考えて東レを訪問し当時会長だった前田にユニクロ専門部署の設立を依頼した。これが両社の協働のスタートで現在に至っている。それ以降、年間1億枚以上を販売するヒートテックのようなヒット商品が次々と生まれていったことは多くの人が知っているはずだ。「ユニクロはファストファッションブランドではなく、生活をより豊かにするための高機能・高品質な、いわば『究極の普段着』を提供することにこだわってきた企業です。LifeWearという言葉にその想いが詰まっており、その想いに共感した東レが、最先端のテクノロジーを駆使して、その想いを形にするという世界に類を見ない最強タッグだと思います。この合同展示会のタイトルにもあるように、まさにこの『アート』と『サイエンス』の絶妙なバランスから生み出されるイノベーションが、世界から注目される最大のポイントだと思います。」と両社の取り組みの意味を鈴木は語った。

ヒートテックは暖かくて、気持ちよく
エアリズムがサラサラで、快適な理由とは

 ここで、ユニクロの新製品開発に東レの技術がどう関与しているか、技術担当の阿部渡に説明してもらおう。 「ヒートテックは吸湿発熱効果の高いレーヨン、高い保温性を誇るマイクロアクリル、速乾性をもつポリエステルとストレッチ性のあるポリウレタンという4種類の繊維を組み合わせた生地からできた商品です。ユニクロからの『着心地がよくて暖かい肌着』という要望に応えたものでした。
 ヒートテックは4種類の異なる繊維を組合せ多くの機能性を発揮させていますが、この4つの糸もお客様の要望に応えて、改良を重ねて新しい糸を採用してきています。新しい素材でかつ、機能性をアップデートして行くには大きな苦労がありました。ヒートテックでは、特にその同色性を出すのに苦労を要しました。糸を染めて混ぜ合わせるのでなく、生地として同色に染め、さらにそこに機能性を付与するという、他のメーカーが真似出来ない素材です。
 このように、技術開発の中心となったのは東レだが、「ユニクロとの協業がなければこれらの画期的な商品は絶対に誕生しなかった」と阿部は強調する。

「エアリズムは髪の毛の12分の1の極細のポリエステル原糸(マイクロ繊維)100本を1本に束ねた糸で生地を編むことにより、毛細管現象によって汗を吸い取ります。さらに、様々な快適機能を付加するために、数種類の繊維を組み合わせているのですが、こんな大変な設計は、繊維メーカー主導では、まず行わないでしょう。ユニクロのようにお客様が本当に欲しいものを徹底的に追求するお客様志向の会社と共同で開発しているからこそ、私たちも繊維業界の常識を超えた挑戦ができるのです。」
 協業の効果は高機能化の実現だけでなく、仕事の進め方にも及ぶ。鈴木が強調する。
「やはり、一番の違いはスピード感ですね。週次の商売結果に合わせて、関連部署が対応策を瞬時に考え、即断・即決・即実行するのがユニクロの常識です。今回のニューヨークのイベントも東レ単独では一年かかる規模でしたが、起案からたったの三ヶ月で開催まで辿り着きました。一方で東レの様な素材メーカーでは『数年かかっても、よりよい製品にしていこう。』と考えることがあります。もちろんこの長期にわたる研究・開発力が東レの強みでもあります。一方でユニクロとの協業を通じて東レは「消費者の目線に立った開発」を学んできました。新製品開発におけるスピード感覚の習得は、東レにとって大きな収穫だったと思います。」
 もちろん、要求されるスピード感に応えるには、そのための体制が必要だ。
「東レには、ユニクロ向けに研究開発、製品提案からマーケティングまでワンストップサービスを可能にする専属チームがあります。ユニクロから頂く開発ニーズやお客様の声に応えるために、技術担当者や営業担当者がタイムリーに最適な提案をする体制が整っています。ユニクロからのリクエストにお応えすることだけではなく、どうすればその先のお客様の生活を豊かに出来るかという視点で日々研究開発や製品提案を繰り返しているのです。」

素材を提供するだけでなく料理までする
それが東レという会社の強みになっている

 東レ×ユニクロ、強力なタッグを組んでファッションの世界をリードしてきた両社が、その歴史の節目として開催したのが、ニューヨークにおける展示会だ。それが大成功に終わった今、この先はどんな方向を目指していくのだろうか? 鈴木が言う。
「今回の合同イベントでは、ユニクロのプレジデント オブ グローバル クリエイティブのジョン・ジェイ氏やクリエイティブチームの助けもあって、これまで一般の人には伝えることの難しかった東レのテクノロジーを世界中の人々に驚きをもって、わかりやすく伝えることが出来ました。この点では、今後もグローバルマーケティングで大きな成功を収めてきたユニクロの力を借り、東レの強みを広くアピールしていければいいと思っています。」
 これらの展示会には技術スタッフたちも多く参加しており、阿部もニューヨークだけでなく、ユニクロが主催するイベントで東レのテクノロジーを伝えるためのアンバサダーとして、世界各地に足を運んでいる。
「東レに入ったころには、技術者なのだから、工場のあるところにしか出張しないと思っていました。それだけに、ニューヨークやパリといった大都会で自分たちの技術を紹介することになるとはびっくりですね。これからの技術者は市場や社会にもっと目を向けるべきだと考えているので、この仕事は本当にいい刺激になっています。」

 鈴木同様、ユニクロに出向していた担当者は、ユニクロの事業戦略における東レの役目を次のように解説する。
「多くの素材メーカーは肉屋や魚屋と同じで、材料を提供したら『あとは勝手に調理してください』というスタンスでした。しかし、東レはどこよりもいい材料を用意するだけでなく、レストランの要望に合わせて料理までしてしまう。それは大変な作業を伴うことになりますが、現場を知ることで、より深く素材にもアプローチできるのですから、最終的にはいい結果をもたらすのです。」
 また、ユニクロのメリットについても語る。
「今、世界ではファストファッションのブランドによる競争は激化しています。しかし、ユニクロは東レと組むことにより、ファストファッションとは全く異なる唯一無二のブランドとして、機能や品質によって差別化を図ることができます。だからこそ、両社のパートナーシップに世界中のメディアの目が集まったのです。」

ユニクロと共に世界を目指し
その中で自分も成長していく

 そんな2つの企業を繋ぐ重要なポジションにいる鈴木だが、彼はもともとこの仕事をするために東レに入社したわけではなかった。
「マーケティングや宣伝には興味があったものの、せっかくモノづくりができる素材メーカーに入ったのですから、まずは現場でモノづくりの醍醐味を味わいたいと思い、空気清浄機や掃除機に使われるエアフィルターの営業を国内、中国で5年間ほど続けました。その中で、素材メーカーもブランディングが必要だと痛感することがあり、社内の公募制度を利用して宣伝室宣伝課に異動したのです。」
 そこで、東レパンパシフィックオープンテニストーナメントや東レキャンペーンガールの活動などを通して企業ブランディングを担当する中で、もっと世の中に広く、東レの本当の凄さを伝えたいと思っていたところに、ユニクロへ出向し、最先端のグローバルマーケティングを学ぶチャンスが巡ってきた。
「ユニクロでは、ヒートテックなど東レ関連商品のマーケティングは勿論のこと、世界的アーティストとのコラボ商品を担当したり、東南アジア各国のPR担当者の活動をサポートしたりと、東レでは出来ない貴重な経験をさせて頂いています。世界一を目指すユニクロにとって、文字通り世界中を飛び回って、世界中の仲間達と働くことは当たり前の日常です。その環境の中で、世界最先端のマーケティング、PRに携われることは楽しくて仕方がありません。そこには東レとのパートナーシップが欠かせないという状況があり、一緒になって世界一を目指せることは、本当に幸せなことです。東レにはユニクロ以外にもボーイングなど様々な分野で世界をリードするパートナーがいます。いずれはこの経験を活かして、もっと活動領域を広げて、全社のグローバルマーケティングを推進していきたいと考えています。」

 ニューヨークの展示会では、プロジェクトの実行リーダーとして、アメリカのスタッフも巻き込みながら企画を進行していった。
「米国ユニクロのPRの責任者であるSuzanne部長は、企画当初、どうしてユニクロのテクノロジーを伝えるのに東レの最先端技術まで紹介するのか疑問を感じていたようですが、プロジェクトを通して東レのことを詳しく知り、熱い想いを持った東レメンバーと接する中で、両社のパートナーシップだけが世界を変える力があることを理解して頂くことができ、今では本当にお互いを信頼し合うパートナーとして、良い関係を作ることが出来ました。また世界中どこのユニクロ支社に行っても、現地スタッフは我々を歓迎し、力になってくれます。こんな出会いもこういう仕事を通してしかできないだけに、いいチャンスに巡り会えました。」
 だからこそ、これから就職する人には、「可能性の広い職場」を目指してほしいと考えている。
「私もそうでしたが、就職活動をしているときには目の前にあるわずかな材料だけで判断してしまいがちです。しかし、その企業が世の中に生み出している価値は本物か?その奥にどれだけフィールドが存在するのか?そこまで考えて自分に合った職場を探すべきではないでしょうか。この点、東レは高機能素材や先端テクノロジーという他の誰も持っていない特別なツールを使って、世の中にある本質的な問題を解決したり、より豊かな社会を創り出すことができる会社であり、事業の幅も奥行きも無限の広がりがあるわけですから『迷ったら、東レに入っておけば間違いなし!必ずやりたいことが見つかります。』というのが、嘘偽りのない私の正直なアドバイスです。」

MESSAGE

松沼 礼
ユニクロ
グローバルマーケティング部 部長

 服を変え、常識を変え、世界を変えていく。この言葉は、ユニクロの根本的な企業理念を示しています。私たちが考える“LifeWear”とは、従来の生活様式をよりよい方向へ変えることができるような、今までにない新しい価値を持つ服を意味しており、その創造を通じて、世界中のあらゆる人々に喜びや幸せ、満足を提供したいと思っています。そのためにはデザインやシルエットの工夫だけでは足りず、生活を一変させるような力を持つ、素材から考えていかなければなりませんでした。このような戦略から、繊維の開発においてもっとも高い技術力をもち、生産力をも有している東レとの協業が始まったのです。
 ニューヨークにおける展示会は、両社の関係性の深さ、強さを対外的に明確に示すことができたものだったと思います。アパレルメーカーが素材メーカーと共に一緒にこのようなイベントを行うケースは世界でも例がなかっただけに反響は大きく、私もメディアから多くの質問をいただきました。「ヒートテックがなぜ暖かく快適なのか、その理由を知ることができた」といった声も多く聞くことができ、私たちの製品が持つ機能性や革新性を直感的に理解していただけたのは本当にうれしかったですね。
 服を根本から大きく変えるためには素材のイノベーションが不可欠です。ただし、そのためにはお客様や市場のニーズを正確に把握する必要があり、東レとユニクロの組み合わせは、世界を変える最高のパートナーシップだと信じています。

Seymour Suzanne
米国ユニクロ
PR部長

 私にとって、東レと直接関わるのは今回が初めてで、プロジェクトへの参入は未知なるものでしたが、米国ユニクロ代表として東レと協働できたことは非常に新鮮で素晴らしい経験でした。鈴木さんと阿部さんは、あらゆる場面で、この記念すべき展示会の実現に向け、情熱を持って向き合ってくれました。会社間だけではなく、人間関係においても東レとユニクロがワンカンパニーであること、私たちにとって理想的な仲間だと実感することができました。また、2人とも非常に豊富な知識を持っていて、彼らのおかげで、私たち自身も服における化学の重要性についての理解をより深めることができたのです。
 なぜ東レとユニクロの連携がお客様にとって価値があるのか、そして市場の中で唯一無二の存在になれるのか。今回の展示会は、その本質を世界へ伝えていくための第一歩にすぎません。しかし、世界大国の一つである米国において、日本の高い技術力を示した東レとユニクロのブランド価値を、米国メディアは新たに理解したことでしょう。ユニクロは、今後も優れた技術で革新的素材を生み出すことができる東レと協働することで、我々のブランドにこれまで以上に付加価値を生むことができると思いますし、それがメディアやお客様とともに共鳴していくと信じています。

石川元一
東レ
GO事業部長

 「世界を変える」といったスローガンを掲げる企業は多くても、それを本気で実行しているケースは少ないと思います。ユニクロは当初から他社にない視点で世界を変える新しい服の開発を進めてきたブランドであり、その戦略の一環として新素材によるイノベーションを目指したのも当然でした。そして私たち東レも、事業の多角化を進める一方で基幹事業である繊維事業において積極的な開発に大きな力を注いできた希有な企業です。「世界を変える」という意味では、両社の理念は重なっており、協業に至ったのは必然だったように感じますね。素材のポテンシャルを最大化し、新たな価値を生み出す。それは、お客様の手に渡ってこそ意味を成すもので、ユニクロとの協業は、東レが目指すべき方向性の一つを示したものといえるでしょう。
 また、東レが新しい技術や製品の開発に何十年もかけ、多くの失敗も厭わない典型的な素材メーカーであるのに対し、ユニクロは他の競合他社とは違い、5年後、10年後のファッションシーンや日常の生活も視野に入れながら常にシーズンごとの戦いを続けている。こうした時間に対する感覚の差や違いもお互いに補完し合うことができた要因だと思います。
 協業が進む過程で人材交流が進み、両社の企業文化を共有したスタッフはさらに増えていくでしょう。ユニクロから戻ってきた社員は時間感覚が速くなり、大局的にモノが見えるようになるなど、目に見える変化も起こっています。これも組織を強くしていくうえでは非常にありがたいことだと受けとっています。

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