2010年10月4日
東レ株式会社
株式会社新日本科学
医薬品開発における前臨床試験の高効率化・迅速化に有益な新システム開発
東レ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:
、以下「東レ」)と株式会社新日本科学(本社:東京都中央区、代表取締役社長:永田良一、以下「新日本科学」)は、このたびカニクイザルの薬物代謝酵素遺伝子であるcytochrome P450 (CYP) 1)の発現を一括して検出できるDNAチップシステムの開発に成功しました。これは、東レが保有する超高感度DNAチップ“3D-Gene”技術2)と、新日本科学が取得したカニクイザルの遺伝子情報技術を組み合わせることにより可能となったものです。このカニクイザルCYP遺伝子検出DNAチップシステムの開発により、前臨床試験3)の安全性評価において、医薬品候補化合物の薬物代謝および毒性を効率良く迅速に解析できることになります。本開発品は、平成22年6月開催の第37回日本トキシコロジー学会学術年会において報告され、製薬企業等から高い評価をいただきました。今後、東レと新日本科学は、本システムを用いた前臨床試験の受託事業を共同で開拓し、国内製薬企業をはじめとして、海外へも展開する予定です。
近年、臨床試験4)における開発コストは増加傾向にあり、新薬の開発効率の向上が求められております。その対策として、前臨床試験において、開発医薬品の安全性を早期かつ短期間に、そして的確に評価することの必要性が益々高まってきております。
安全性評価項目の1つである薬物相互作用5)の確認は、培養細胞や実験動物を用いて行われます。複数の薬物間で薬物代謝酵素を共有することで生じる競合阻害等において重要な役割を果たすCYP遺伝子は、その機能に種差があることが知られており、ヒトとげっ歯類では薬物代謝反応が異なる場合があります。一方、霊長類であるカニクイザルの薬物代謝反応は、前臨床試験で用いられるげっ歯類、イヌと比較すると、よりヒトに類似しており、その遺伝子配列もヒトに近似していることが知られております。
新日本科学はカニクイザルを用いた前臨床試験において、豊富な経験および実績を有しております。医薬品開発の安全性評価に際し、複数種のカニクイザルCYP遺伝子発現を一括して検出できるDNAチップは、薬物相互作用を効率良く解析できる評価ツールになると考えております。
東レは従来のDNAチップよりも大幅に性能を改善した精度が高いDNAチップを保有しております。このDNAチップのプラットフォームはCYP遺伝子発現の検出に有効であり、このような目的に応じた遺伝子のみを搭載したfocused DNAチップ6)は効率的な薬物相互作用の評価ツールになると期待されます。
今回、東レと新日本科学は、カニクイザルCYP遺伝子を検出するためのDNAチップシステムを初めて開発しました。このシステムを用いてカニクイザルの臓器別CYP遺伝子の発現分布を確認する実験や、細胞に対する薬剤投与におけるCYP遺伝子の発現誘導を検出する実験を行い、DNAチップによる検出結果が定量PCR7)と対比可能であり、さらには、搭載したカニクイザルCYP遺伝子を一括解析できることを確認しております。
【用語説明】
1)cytochrome P450 (CYP)
生体内の酸化還元反応にかかわる遺伝子の総称で、肝臓での薬物代謝および脂質代謝に関与し、解毒作用の中心的な役割を果たす酵素。例えばヒトには57種のCYP遺伝子が確認されており、基質特異性の異なる複数の分子種からなる遺伝子ファミリーを形成しています。遺伝子ファミリー内では遺伝子配列の相同性が非常に高いCYP遺伝子が存在します。
2)超高感度DNAチップ“3D-Gene”技術
東レが開発した超高感度DNAチップ技術。通常、DNAチップは、基板上に、数十〜数万種類のDNA断片やRNA断片に対応する塩基配列(プローブ)を高密度に並べたものであり、検体から抽出したDNAやRNAといった核酸ターゲットをDNAチップにハイブリダイズすることによって、そのターゲットに含まれる塩基配列の決定、遺伝子変異の解析、遺伝子の発現量・コピー数の測定、およびメチル化状態の解析といったDNA、RNAの多様な状態を解析することが出来ます。
“3D-Gene”では、微細凹凸樹脂基板、ビーズを使って検体溶液を攪拌させる反応促進など、東レの独創的先端技術を駆使することにより、ガラス平板による従来型DNAチップに比べて高い検出力(従来品比100倍の感度)、再現性、定量性を有しています(ホームページアドレスは、http://www.3d-gene.com/)。
開発の一部はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「バイオ・IT融合機器開発プロジェクト」の助成を受けて取り組んだものです。
3)前臨床試験
基礎研究から生み出された新薬候補化合物の安全性および有効性を評価するための試験。前臨床試験は、「安全性試験」・「安全性薬理試験」・「薬効薬理試験」・「薬物動態試験」等で構成されており、安全性・有効性が認められたものだけが、臨床試験に進むことができます。
4)臨床試験
新薬候補物質を開発する際にヒトを対象として、その有効性および安全性を評価するための試験。通常、健常成人を対象とする第I相試験において、ヒトにおける新薬候補物質の安全性、薬物動態を確認し、次いで、患者を対象とした第II相試験および第III相試験において、新薬候補物質の安全性、用量反応性、および対照薬(プラセボを含む)との安全性ならびに有効性の比較検討を行います。
5)薬物相互作用
血中に複数種の薬剤が存在した場合に、ある薬剤が他の薬剤の作用に影響を与えること。
薬物相互作用により薬剤の作用が増強または減弱することで、新たな有害作用の発生につながる場合があります。
6)focused DNAチップ
全遺伝子の発現変動を検出する網羅的DNAチップに対し、解析対象に合致した遺伝子のみを選択し、搭載した選択的DNAチップのこと。近年、遺伝子発現に基づく臨床診断等への応用が図られております。
7)定量PCR
鋳型として逆転写された発現遺伝子を使用し、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) による増幅を経時的(リアルタイム)に測定することで、増幅率に基づいて発現遺伝子の定量を行う方法。
以上


